商品を売るとき「商品引渡し」と同時に「商品代金の支払い」を受けるならば、商品代金未払いの問題は発生しません。
ところが、実際の商取引では、先に商品を納品してから、後日、代金を支払って貰う取引も多々存在します。このような取引を「与信取引」といいます。特に卸売業者様の取引では、この流れが多いと思います。
この記事では、特に【卸売業者様】が必ず理解していただく必要のある➊与信取引を開始するために必要な「与信調査」、➋取引開始するための「与信判断」、➌取引開始後も必要な「与信管理」について解説しています。
もくじ | |
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【与信(よしん)】とは、文字通り「信用を与えること」を意味します。
もう少し詳しく説明しますと、与信とは「取引相手の支払能力を信用して、後払い取引を認めること」です。
そして、取引相手の支払能力を信用して、商品やサービスを先に提供し、後日代金を請求する取引形態のこと【与信取引】といいます。
与信取引は、与信してよいのかを十分に調査した後に、開始すべきです。
ところが、ほとんどの会社では、十分に調査せず、取引を開始し、未収金を発生させています。
この記事では「与信調査」の方法、「与信」の注意点、「与信管理」の方法について、解説しています。
(取引開始の申入れ) |
左すべてをあわせて
「与信取引」 といいます。 |
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与信調査 | ||
与信判断、交渉、取引基本契約の締結 | ||
(取引開始) | ||
与信管理 |
まずは「全体像」を確認しましょう。
「与信調査」「与信管理」の具体的な方法については、後ほどご説明します。
取引開始の申し入れがあった場合、貴社がまず行なうべきは「本人確認」と「基本情報の入手」です。
取引先の信用度を調査する手続きです。本来、後払いは、信用できる取引相手に対してのみ認めるべきですので、取引開始前に取引相手の信用度を調査します。与信調査を行なうことで、与信取引における売掛金の未回収リスクを減らすことができます。【与信審査】や【信用力調査】ともいいます。
与信調査は、司法書士など外部専門家に委託することもできます。
与信取引で、貴社が、取引先に対して与える売掛の最大金額のことを【与信枠】【与信限度額】【取引限度額】【取引上限額】などといいます。取引先は、貴社が与えた与信枠までであれば、後払いで商品を購入できます。
その他、何日の仕入で締め、その代金を何日後に支払うかなど、具体的な取引条件を話し合いします。
与信管理を意識した契約交渉を行ないます。
取引条件で合意できれば【取引基本契約】を締結します。
取引相手に対して、一度与えた信用(与信)であっても、取引を継続している間はずっと管理しておく必要があります。取引相手の商売の状況も変わるからです。これを【与信管理】といいます。後ほど詳しくご説明します。
継続的な与信管理の結果、信用に不安を感じる情報に接した場合には、取引開始前に行なったのと同様の与信調査をします。司法書士などの外部専門家に委託することもできます。
特に取引中止を決定した場合には、直ちに司法書士にご相談ください。
債権保全や回収は「スピードが命」だからです。
私たち司法書士は、専門家として、多くの売掛金回収を行なってきました。
また、与信調査の外注のご依頼を受けたり、与信調査や与信管理の体制構築についても、アドバイスしています。
まず調査のベースとなる相手方の基本情報を入手します。
店舗の所在が分かっていたとしても、必ず、次の書類の提出を受けます。
未払いが発生し、実際に訴訟等による回収を行なう場合に、住所や氏名が分かっていないと、売掛金の回収が困難になるためです。
取引先の銀行支店などの情報を確認します。
いちいち聞き取りをするよりも、必要な情報を取りまとめた「お得意様登録票」などを作成しておき、取引開始を希望している相手方に記入のうえ提出させるのが良いでしょう。
また、貴社営業マンが取引先と接触して得た経営者の資質、業界内での評判も記録しておきましょう。
基本的な与信調査は、相手方から書類を提出させなくても、実施することができます。
基本的な与信調査は、取引金額の大小に関わらず、必ず実施するようにしましょう。
<基本的な与信調査の流れ> 次のように実施します。
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社内で統一的な基準(ルール)を作成しておくと、機械的に与信調査ができるので便利です。
記事「取引先等の信用チェック(登記簿・登記情報編)」もご参照ください。
取引金額が大きくなるときは、下記書類も追加で提出を受け、調査します。
貴社の顧問税理士に見せて意見を求めるのも良いでしょう。
取引金額が大きいときには、信用調査会社から「信用調書」を入手することもあります。
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記事「取引先企業などの信用チェック(決算書編)」もご参照ください。
与信枠や取引条件を設定してから、与信(取引開始)までは、次のように進めていきます。
次のような項目について検討し、予め基準を作っておきます。
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基準は定期的に見直す必要があります。社内外の状況は日々刻々と変化するからです。
【1】期限の利益喪失条項
期限の利益とは「約束した日(約定返済日)まで返済を待つ」という意味です。
期限の利益喪失条項とは「取引相手に一定の信用不安が生じたときに、期限の利益を奪う条項」のことです。取引相手に信用不安が生じた場合には、約定返済日まで返済を待てませんから必要な条項です。民法でも、期限の利益を喪失する場合について定めています。
<民法137条が定める期限の利益喪失事由>
民法には、わずか3項目しかなく、これらに該当した場合しか、期限の利益を喪失しません。
すなわち、与信相手が支払いを停止した場合や、他の債権者から差押を受けた場合であっても、貴社は取引相手に対して、期限前に請求することや、残債務一括返済の請求することはできません。
これでは具合が悪いので、次のような事項も、期限の利益喪失事由として定めておくべきです。
<契約書で定めるべき期限の利益喪失事由>の例
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【2】所有権留保条項
後払いで売却した場合であっても、代金完済するまでは所有権を貴社に留保する(置いておく)条項です。
所有権留保条項とあわせて、売却等の処分禁止の条項を入れることもあります。
【3】出荷停止条項
一定の信用不安が生じたときに、出荷を停止できる条項。
この条項がないと、貴社が(出荷する義務の)債務不履行になってしまいます。
取引先ごとに【与信枠】を設定します。
必要に応じて、相手方に依頼するべき「保証金の提出」や「担保権の設定」を決定します。
この後、顧客との条件交渉がありますので、譲歩できるラインも決めておきます。
条件交渉する場合、相手方が先に取引条件を出すときと、貴社が先に取引条件を出すときがあろうかと思います。
貴社が先に取引条件を出すときには、次の二つの方法があります。
相手方の属性によって、どうすべきか決めれば良いと思います。
条件を交渉したうえで、必ず「取引基本契約書」を作成し、両当事者が押印して保存します。
取引基本契約書がない場合には、相手方の支払遅延が生じたときなどに、仮差押などの保全処分を行なおうとしても困難なことがあります。
取引相手に対して、一度与えた信用(与信)であっても、取引を継続している間はずっと管理しておく必要があります。取引相手の商売の状況も変わるからです。これを【与信管理】といいます。
貴社営業マンから日常的に情報を吸い上げるような仕組みづくりをしておきます。
次のような情報に気をつけ、記録をしていきます。
顧問契約を締結いただいている場合、割引きがございます。
業務内容 | 司法書士の報酬 | 実費 |
与信調査ルール(貴社専用)の作成 |
220,000円(税込)~ | |
与信調査ルール(貴社専用)の作成 |
220,000円(税込)~ | |
登記事項証明書 インターネット登記情報 などの取得 |
1,100円(税込)/通 | 331円/通 |
登記簿などからわかる相手方信用情報の分析・報告 |
33,000円(税込)/社 | |
取引基本契約書の作成 |
220,000円(税込)~ |