【卸売業者様必見】後払で商品を売るなら必要な「与信調査」「与信判断」「与信管理」の基礎知識


商品を売るとき「商品引渡し」と同時に「商品代金の支払い」を受けるならば、商品代金未払いの問題は発生しません。

ところが、実際の商取引では、先に商品を納品してから、後日、代金を支払って貰う取引も多々存在します。このような取引を「与信取引」といいます。特に卸売業者様の取引では、この流れが多いと思います。

 

この記事では、特に【卸売業者様】が必ず理解していただく必要のある➊与信取引を開始するために必要な「与信調査」、➋取引開始するための「与信判断」、➌取引開始後も必要な「与信管理」について解説しています。

もくじ
  1. 与信とは
  2. 『与信取引』の全体像がわかるフローチャート
  3. 『与信調査』の具体的方法
    1. 本人確認
    2. 基本情報の入手
    3. 基本的な与信調査(必須)
    4. 本格的な与信調査(取引金額が大きい場合など)
  4. 『与信判断』の具体的方法
    1. まず、社会で基本ルールを決めておく。
    2. 次に、社内で具体的な顧客に適用する条件を決める。
    3. 顧客と条件を交渉する。
    4. 必ず、取引基本契約を締結する。
  5. 『与信管理』の具体的方法
  6. 司法書士の報酬・費用
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与信(よしん)とは


【与信(よしん)】とは、文字通り「信用を与えること」を意味します。

もう少し詳しく説明しますと、与信とは「取引相手の支払能力を信用して、後払い取引を認めること」です。

そして、取引相手の支払能力を信用して、商品やサービスを先に提供し、後日代金を請求する取引形態のこと【与信取引】といいます。

 

与信取引は、与信してよいのかを十分に調査した後に、開始すべきです。

ところが、ほとんどの会社では、十分に調査せず、取引を開始し、未収金を発生させています。

この記事では「与信調査」の方法、「与信」の注意点、「与信管理」の方法について、解説しています。

(取引開始の申入れ)    左すべてをあわせて

「与信取引」

といいます。

与信調査  
与信判断、交渉、取引基本契約の締結  
(取引開始)  
与信管理  

『与信取引』の全体像がわかるフローチャート


まずは「全体像」を確認しましょう。

「与信調査」「与信管理」の具体的な方法については、後ほどご説明します。

 

取引開始の申入れ/取引相手の基本情報を入手

取引開始の申し入れがあった場合、貴社がまず行なうべきは「本人確認」と「基本情報の入手」です。

【与信調査】

取引先の信用度を調査する手続きです。本来、後払いは、信用できる取引相手に対してのみ認めるべきですので、取引開始前に取引相手の信用度を調査します。与信調査を行なうことで、与信取引における売掛金の未回収リスクを減らすことができます。【与信審査】や【信用力調査】ともいいます。

与信調査は、司法書士など外部専門家に委託することもできます。

【与信判断】与信可能なら【与信枠】ほか取引条件の設定

与信取引で、貴社が、取引先に対して与える売掛の最大金額のことを【与信枠】【与信限度額】【取引限度額】【取引上限額】などといいます。取引先は、貴社が与えた与信枠までであれば、後払いで商品を購入できます。

その他、何日の仕入で締め、その代金を何日後に支払うかなど、具体的な取引条件を話し合いします。

契約交渉/取引基本契約書締結

与信管理を意識した契約交渉を行ないます。

取引条件で合意できれば【取引基本契約】を締結します。

取引開始

継続的な【与信管理】

取引相手に対して、一度与えた信用(与信)であっても、取引を継続している間はずっと管理しておく必要があります。取引相手の商売の状況も変わるからです。これを【与信管理】といいます。後ほど詳しくご説明します。

信用不安情報の入手

【与信調査】

継続的な与信管理の結果、信用に不安を感じる情報に接した場合には、取引開始前に行なったのと同様の与信調査をします。司法書士などの外部専門家に委託することもできます。

債権保全・回収プラン作成/取引中止/取引条件変更

特に取引中止を決定した場合には、直ちに司法書士にご相談ください。

債権保全や回収は「スピードが命」だからです。

『与信調査』の具体的方法


私たち司法書士は、専門家として、多くの売掛金回収を行なってきました。

また、与信調査の外注のご依頼を受けたり、与信調査や与信管理の体制構築についても、アドバイスしています。

 

本人確認

まず調査のベースとなる相手方の基本情報を入手します。

 

店舗の所在が分かっていたとしても、必ず、次の書類の提出を受けます。

  • お客様が個人事業主の場合には、運転免許証やマイナンバーカード
  • お客様が法人や会社の場合には、会社登記事項証明書と代表者(担当者)の運転免許証やマイナンバーカード

未払いが発生し、実際に訴訟等による回収を行なう場合に、住所や氏名が分かっていないと、売掛金の回収が困難になるためです。

 

基本情報の入手

取引先の銀行支店などの情報を確認します。

いちいち聞き取りをするよりも、必要な情報を取りまとめた「お得意様登録票」などを作成しておき、取引開始を希望している相手方に記入のうえ提出させるのが良いでしょう。

また、貴社営業マンが取引先と接触して得た経営者の資質、業界内での評判も記録しておきましょう。

 

基本的な与信調査(必須)

基本的な与信調査は、相手方から書類を提出させなくても、実施することができます。

基本的な与信調査は、取引金額の大小に関わらず、必ず実施するようにしましょう。

 

<基本的な与信調査の流れ>

次のように実施します。

  • 相手方が会社法人のとき:⑴会社の登記事項証明書を取得し調査、⑵会社本店、代表者自宅の不動産登記事項証明書を取得し調査
  • 相手方が個人事業主のとき:個人事業主の自宅の不動産登記事項証明書を取得し調査
  • インターネットで①相手方ホームページや、②就職情報サイトなども確認すると社風が明らかになることもあります。

社内で統一的な基準(ルール)を作成しておくと、機械的に与信調査ができるので便利です。

記事「取引先等の信用チェック(登記簿・登記情報編)」もご参照ください。

また、与信調査ルールは、一度作成したら終了ではありません。社内外の環境変化に対応するために、定期的な見直し、改善していくことが必要です。
例えば、貴社の規模が小さいうちは、取引せざるを得なかった危険な取引先であっても、貴社規模の拡大により、危険な先には、与信しないなど。

 

 

本格的な与信調査(取引金額が大きい場合など)

取引金額が大きくなるときは、下記書類も追加で提出を受け、調査します。

貴社の顧問税理士に見せて意見を求めるのも良いでしょう。

取引金額が大きいときには、信用調査会社から「信用調書」を入手することもあります。

  • 定款
  • 法人税申告書(税務署の受付印が押印されたもの、又は電子申告した旨がわかる書面が添付されたもの。直近3年分)
  • 決算書(直近3年分)
  • 勘定科目明細書
  • 会社案内
  • 商品カタログ

『与信判断』の具体的方法


与信枠や取引条件を設定してから、与信(取引開始)までは、次のように進めていきます。

 

まずは、社内で基本ルールを決めておく。

次のような項目について検討し、予め基準を作っておきます。

  • 相手方に(与信)取引を認めるか
  • 相手方に与える与信枠
  • 締め日、支払日をいつにするか
  • 物的担保、人的担保取得の有無
  • 期限の利益喪失条項の内容【1】
  • 所有権留保条項の有無【2】
  • 出荷停止条項の有無【3】

基準は定期的に見直す必要があります。社内外の状況は日々刻々と変化するからです。


【1】期限の利益喪失条項

期限の利益とは「約束した日(約定返済日)まで返済を待つ」という意味です。

期限の利益喪失条項とは「取引相手に一定の信用不安が生じたときに、期限の利益を奪う条項」のことです。取引相手に信用不安が生じた場合には、約定返済日まで返済を待てませんから必要な条項です。民法でも、期限の利益を喪失する場合について定めています。

<民法137条が定める期限の利益喪失事由>

  1. 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
  2. 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。
  3. 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。

民法には、わずか3項目しかなく、これらに該当した場合しか、期限の利益を喪失しません。

すなわち、与信相手が支払いを停止した場合や、他の債権者から差押を受けた場合であっても、貴社は取引相手に対して、期限前に請求することや、残債務一括返済の請求することはできません。

これでは具合が悪いので、次のような事項も、期限の利益喪失事由として定めておくべきです。

 

<契約書で定めるべき期限の利益喪失事由>の例
  1. 本契約等に定める条項につき重大な違反があったとき。
  2. 債務の全部又は一部の履行が不能であるとき又は相手方がその債務の全部又は一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。ただし、一部の履行不能の場合は当該一部に限る。
  3. 債務の一部の履行が不能である場合又は相手方がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
  4. 本契約上、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ本契約の目的を達することができない場合において、相手方が履行をしないでその時期を経過したとき。
  5. 差押え、仮差押え、仮処分、強制執行、競売、滞納処分の申立、その他公権力の処分を受けたとき。
  6. 破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始その他法的倒産手続の申立を受け、若しくはこれらの申立を行ったとき、又は私的整理の開始があったとき。
  7. 支払停止、支払不能に陥ったとき。
  8. 自ら振出し又は裏書した手形・小切手が1度でも不渡りとなったとき。
  9. 資本減少、主要な株主又は取締役の変更、事業譲渡、合併、会社分割等の組織再編その他の会社の支配に重要な影響を及ぼす事実が生じたとき。
  10. 公序良俗に反する行為、その他相手方の信用、名誉を毀損する等の背信的行為があったとき。
  11. 解散し、又は事業を廃止したとき。
  12. 信用の失墜又はその資産の重大な変動等により、委託者受託者間の信頼関係が損なわれ、本契約の継続が困難であると認める事態が発生したとき。
  13. 代表者が刑事上の訴追を受けたとき、又はその所在が不明になったとき。
  14. 監督官庁から事業停止処分、又は事業免許若しくは事業登録の取消処分を受けたとき。
  15. その他本契約等を継続し難い重大な事由が生じたとき。

【2】所有権留保条項

後払いで売却した場合であっても、代金完済するまでは所有権を貴社に留保する(置いておく)条項です。

所有権留保条項とあわせて、売却等の処分禁止の条項を入れることもあります。

 

【3】出荷停止条項

一定の信用不安が生じたときに、出荷を停止できる条項。

この条項がないと、貴社が(出荷する義務の)債務不履行になってしまいます。

 

 

次に、社内で具体的な顧客に適用する条件を決める。

取引先ごとに【与信枠】を設定します。

必要に応じて、相手方に依頼するべき「保証金の提出」や「担保権の設定」を決定します。

この後、顧客との条件交渉がありますので、譲歩できるラインも決めておきます。

 

顧客と条件を交渉する。

条件交渉する場合、相手方が先に取引条件を出すときと、貴社が先に取引条件を出すときがあろうかと思います。

貴社が先に取引条件を出すときには、次の二つの方法があります。

  1. いきなり最終的な条件を出す(相手方が応じなければ取引しない)。
  2. 相手方から交渉されることを見越して、厳しめの条件を出す。

相手方の属性によって、どうすべきか決めれば良いと思います。

 

取引基本契約を締結する。

条件を交渉したうえで、必ず「取引基本契約書」を作成し、両当事者が押印して保存します。

取引基本契約書がない場合には、相手方の支払遅延が生じたときなどに、仮差押などの保全処分を行なおうとしても困難なことがあります。

『与信管理』の具体的方法


継続して管理すべき情報

取引相手に対して、一度与えた信用(与信)であっても、取引を継続している間はずっと管理しておく必要があります。取引相手の商売の状況も変わるからです。これを【与信管理】といいます。

  • 取引残高の管理
  • 取引基本契約が守られているか

貴社営業マンから日常的に情報を吸い上げるような仕組みづくりをしておきます。

次のような情報に気をつけ、記録をしていきます。

 

  • 入金の遅延確認(遅延した場合には理由の聴取)
  • 貴社営業マンが取引先と接触して得た経営者の資質、業界内での評判
  • 資金繰り悪化したという情報
  • 合理的な理由のない返品
  • 合理的な理由のない支払留保

 

然るべき対応

万一の際には、社内で予め定めたルールにのっとり、然るべき対応を行ないます。
<然るべき対応の例>
  • 司法書士への相談・依頼
  • 出荷の停止
  • 追加担保の請求
  • 取引の中止
  • 一括返済請求
  • 内容証明
  • 仮差押
  • 支払督促
  • 訴訟
これらは社内であらかじめルールを定めておくと、焦らないで済みます。
与信管理ルールについても、社内外の環境変化に対応するため、定期的な見直しと改善が必要です。

司法書士の報酬・費用


顧問契約を締結いただいている場合、割引きがございます。

業務内容 司法書士の報酬 実費

与信調査ルール(貴社専用)の作成

220,000円(税込)~  

与信調査ルール(貴社専用)の作成

220,000円(税込)~  

登記事項証明書

インターネット登記情報

などの取得

1,100円(税込)/通 331円/通

登記簿などからわかる相手方信用情報の分析・報告

33,000円(税込)/社  

取引基本契約書の作成

220,000円(税込)~  

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