どなたかがお亡くなりになった場合、誰が何を相続するか話し合い(遺産分割協議)をする必要があります。遺産分割協議に先立って、「人」に関して確認すべきことは、次の2点です。
この記事では、条文を引用しながら、法定相続人や法定相続分について、解説しています。
もくじ | |
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〔凡例〕この記事では、次のように略記します。
相続人を確定するのは、遺産分割協議へ参加資格がある人を確定するためです。
相続人を一人でも欠いていた場合、遺産分割協議は成立しません。
そのため、相続人の確定作業は大変重要です。
遺言を執行する段階では不要ですが、他の相続人から「遺言を隠した」と主張されると最悪、相続人資格を失うこととなります(相続欠格。民法891⑤)。
このような主張をされないために、実務では、全相続人に対して、遺言書を添付して通知します。
そのため、最終的には相続人の確定は必要です。
民法第891条(相続人の欠格事由) | |
次に掲げる者は、相続人となることができない。 一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者 二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。 三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者 四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者 五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者 |
一人の場合、遺産分割協議は不要です。
しかしながら、相続人が一人しかいないことを確定するために必要です。
遺産分割協議に参加できる資格は、法律で決まっており、下記のとおりです。
遺産分割協議に参加できる資格の一つ「法定相続人」は、次表のとおりです。
遺産分割協議が成立するためには、法定相続人全員が参加して、合意する必要があります。
第1順位 | 子【2】(民法887) |
配偶者【1】は常に相続人 (民法890) |
第2順位(子・孫・曽孫がいないとき) | 直系尊属【3】(民法889) | |
第3順位(直系尊属もいないとき) | 兄弟姉妹【4】(民法889) |
【1】配偶者には、事実婚(同棲しているが、婚姻届を提出していないカップル)は含まれません。
事実婚の相手に遺産を遺したいときには、遺言が必要です。
「遺言作成トータルサポート」の利用をご検討ください。
【2】被相続人の子が、被相続人よりも前に亡くなっている場合には、被相続人の孫が相続人になります(民887Ⅱ)。代襲して相続するので「代襲相続」といいます。また、この場合のお孫さんを「代襲相続人」といいます。
記事「相続人は誰か❷数次相続、再転相続、代襲相続の区別」もご参照ください。
祖父A | ーーーーーー | 父B | ーーーーー | 子C |
➋死亡 | ➊死亡 | 代襲相続人 |
さらに、被相続人の子だけでなく孫も、被相続人よりも前に亡くなっている場合には、被相続人の曾孫(ひまご)が相続人になります(民887Ⅲ)。これを「再代襲相続」といいます。
曽孫も、被相続人よりも前に亡くなっている場合には、その下が相続人となります。
民法第887条(子及びその代襲者等の相続権) | |
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【3】被相続人の父母です。父母が被相続人よりも前に亡くなっている場合は、祖父母。祖父母も亡くなっている場合には、曾祖父母というように、順の上の世代の血族に遡って、相続人となります(民889Ⅰ①ただし書き)。
【4】被相続人の兄弟姉妹です。兄弟姉妹が被相続人よりも前に亡くなっている場合は、その兄弟姉妹の子、つまり、甥(おい)や姪(めい)が第3順位の代襲相続人となります。
兄弟姉妹の代襲相続は、一代で止まります。子や孫への代襲相続が、無制限であることとの大きな違いです。被相続人の兄弟姉妹の代襲相続を定めた民法889条2項は、民法887条2項のみを準用し、3項を準用していません。
民法第889条(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権) | |
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被相続人の戸籍を収集します。収集すべき戸籍は、出生から死亡までの全ての戸籍です。
集めた戸籍を読み込んで、被相続人が認知などをしていないかを確認していき、相続人を確定します。
下記記事もご参照ください。
❶法定相続人が誰であるのかが確定したら、次は、❷各法定相続人の法定相続分を確認しましょう。
法定相続分は次のとおりです(民900①②③)。
法定相続人 | 法定相続分 |
配偶者と子であるとき |
配偶者:子=1/2:1/2(民900①) |
配偶者と親であるとき |
配偶者:親=2/3:1/3(民900②) |
配偶者と兄弟姉妹であるとき |
配偶者:兄弟姉妹=3/4:1/4(民900③) |
子や直系尊属、兄弟姉妹が複数いる場合は、法定相続分を人数で分けることになります(民900④本文)。
例えば、配偶者と子2人が法定相続人の場合は、次のように計算します。
配偶者:子2人=1/2:1/2(民900①)
子が二人いる(同順位の相続人が複数いる)場合なので、人数で分けるため、*1/2します(民900④本文)。
配偶者:長男:長女=1/2:1/2*1/2:1/2*1/2=2/4:1/4:1/4
民法第900条(法定相続分) |
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同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。 一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。 二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とする。 三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とする。 四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。 |
被相続人に子も孫も親も祖父母もいない場合、兄弟姉妹が相続人となります(下図)。
(亡) (亡) (亡)
母====┬====父====┬====父の前妻
┌ー┴ー┐ |
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被相続人 弟 姉
(全血の兄弟) (半血の兄弟)
このような場合、父母が同じ弟のことを「全血の兄弟」、父のみが同じ姉のことを「半血の兄弟」といいます。半血の兄弟の法定相続分は、全血の兄弟の法定相続分の半分です(民900④ただし書き)。
父母が同じ弟:父だけ同じ姉=2:1=2/3:1/3
祖父A | ーーーーーー | 父B | ーーーーー | 子C |
➋死亡 | ➊死亡 | 代襲相続人 |
代襲相続人(C)の相続分は、被代襲者(B)の法定相続分と同じです(民901Ⅰ本文)。
代襲相続人が複数いる場合には、民法900条の規定どおりです(民901Ⅰただし書き)。
民法第901条(代襲相続人の相続分) | |
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ここまで説明してきました「法定相続分」ですが、遺産分割協議をするときには、必ずしも守る必要はありません(民906)。全相続人の法定相続分を確保しなければならないということはありません。
「自分は生前、被相続人から十分にしてもらったから何も要らない。」もOKです。
「自分は十分お金を持っているから何も要らない。」もOKです。
法定相続人全員が協議して、全員が納得するなら、法定相続分は無視しても支障ありません。
ただし、遺産分割が話し合いで成立しない場合には、最終的には、家庭裁判所が審判で決定します。この審判では、裁判官は、法定相続分に縛られます。
民法第906条(遺産の分割の基準) | |
遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。 |
ここまで説明してきました「法定相続分」ですが、遺言で変更することができます(民法902)。この遺言で変更した相続分のことを「指定相続分」といいます。
民法第902条(遺言による相続分の指定) | |
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民法には出てこない言葉ですが、「具体的相続分」という言葉もあります。
「具体的相続分」は、法定相続分や指定相続分をもとに、特別受益(民903)や寄与分(民904の2)等を考慮して調整した相続分のことです。
特別受益は、相続人間の不公平を是正するための制度です。
「特別受益」とは、被相続人から生前贈与や遺言による贈与を受けている場合をいいます(民903.904)。そのまま法定相続分で分割すると不平等になるので、計算上、相続財産に戻す処理をすることがあり、これを「特別受益の持戻し」といいます。
記事「特別受益(の持ち戻し)」もご参照ください。
寄与分も、相続人間の不公平を是正するための制度です。
被相続人の財産維持や増加に、特別に役立つ働きをした(特別の寄与をした)相続人の相続分が、上乗せされることです(民法904の2)。
遺産分割協議や調停で相続人全員で合意した場合や審判によって獲得することができます。
記事「寄与分(特別の寄与)」もご参照ください。