定期借家契約は、家主にとって、有利な契約です。ところが、定期借家契約の要件を備えていないために、通常の借家契約になっている例が散見されます。
この記事では、定期借家契約の特徴と、定期借家契約の流れを解説しています。
もくじ | |
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〔凡例〕この記事では、次の法令が出てきます。法令名が長いときは、次のとおり略記します。
〔凡例2〕次の言葉は、同じ意味です。この記事では、一番左の用語を使用します。
普通の借家契約では、借主は、法律で手厚い保護がなされています。
すなわち、普通の借家契約では、契約期間が満了しても「法定更新」制度があり、家主に「正当事由」がなければ、家主は借家契約を解除できません。賃料が相場よりも安くなったとしても、一気に賃料を相場まで上げることはできません(継続賃料と新規賃料の問題)。
その結果、次のような弊害を生んでいました。
「借主に対する手厚すぎる保護」と「家主の権利」を調整したのが、次にご紹介する「定期借家契約」です。
定期借家契約は、借主の保護を弱める一方で、家主に少し面倒な手続きを要求しています。
定期建物賃貸借契約=定期借家契約 | (普通の)建物賃貸借契約 | |
貸主側 |
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借主側 |
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【1】定期建物賃貸借契約において、中途解約できる旨の特約がない場合には、定期建物賃貸借契約は、契約期間満了まで継続します。契約の終期まで、賃料を支払う義務を負うということです。
記事「賃貸借契約で『中途解約を禁止する条項』は有効か」も参照ください。
ただし、定期建物賃貸借契約の場合であっても「居住用建物の賃貸借で床面積が200㎡未満の建物のとき」には、中途解約権が法律によって付与されています(借地借家38Ⅶ)。
【2】借地借家法32条1項は次のとおり定めています。
借地借家法第32条 (借賃増減請求権) | |
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。 |
これを整理すると下表のとおりです。
賃料減額しない特約(借主不利) | 無効(借地借家32Ⅰ本文) |
賃料増額しない特約(貸主不利) | 有効(借地借家32Ⅰただし書) |
(弁護士法人 御堂筋法律事務所『契約違反と信頼関係の破壊による 建物賃貸借契約の解除 ―違反類型別 賃貸人の判断のポイント―』新日本法規出版/2019/10頁、 澤野 順彦『実務解説 借地借家法 (第3版)』青林書院/2020/139頁)
【3】賃貸人の意向によって、再契約ができるか否かが分からないからです。また、従前賃料と同額で借りられるとは限りません(相場が上がっていれば、値上げされます。)。
★印をつけたところが、「定期借家契約」の特徴です。
建物の貸主は、あらかじめ、建物の賃借人に対し「建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了する」旨を記載した書面を交付して説明しなければなりません(借地借家法38Ⅱ)。建物の貸主が、説明をしなかったときは、普通の建物賃貸借契約になってしまいます(借地借家法38Ⅲ)。
不動産仲介会社が行う「重要事項説明」は、宅建業者が行うものであり主体が異なるため、別途「事前説明」が必要です。
普通の借家契約は、口頭でも成立しますが、「定期借家契約」は必ず書面による契約が必要です(借地借家38Ⅰ前段)。
建物の貸主は、期間満了の1年前から6か月前までの間(通知期間)に建物の借主に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができません。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から6か月を経過した後は、この限りではありません(借地借家法38Ⅳ)。
直接条文を確認したい皆様のために、定期建物賃貸借契約に関する条文を挙げておきます。
記号〔〕の中の文言は、筆者が追記したものです。
借地借家法第38条 (定期建物賃貸借) | |
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家主も借主も、定期借家契約の締結を希望している場合には、司法書士にご用命ください。
司法書士が法律の要件を充たした契約書等をご用意することにより、ご希望どおりの定期借家契約の成立をお手伝いします。
業務の種類 | 司法書士の費用 | 実費 |
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275,000円(税込) | 登記簿取得費、郵送費、交通費など |
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33,000円(税込) | 郵送費等 |