定期借家契約(定期建物賃貸借契約)のメリットと注意点|不動産賃貸借契約


定期借家契約は、家主にとって、有利な契約です。ところが、定期借家契約の要件を備えていないために、通常の借家契約になっている例が散見されます。

この記事では、定期借家契約の特徴と、定期借家契約の流れを解説しています。

もくじ
  1. 普通の借家契約の特徴
  2. 定期借家契約の特徴
  3. 定期借家契約の流れ
  4. 司法書士の報酬・費用
  5. 人気の関連ページ

〔凡例〕この記事では、次の法令が出てきます。法令名が長いときは、次のとおり略記します。

  • 借地借家38Ⅰ:借地借家法(平成三年法律第九十号)第38条第1項

〔凡例2〕次の言葉は、同じ意味です。この記事では、一番左の用語を使用します。

  • 借家契約=建物賃貸借契約
  • 定期借家契約=定期建物賃貸借契約
  • 借主=賃借人=家を借りる人
  • 家主=貸主=賃貸人=家を貸す人
  • 家賃≒賃料(=地代、家賃)

普通の借家契約の特徴


普通の借家契約では、借主は、法律で手厚い保護がなされています。

すなわち、普通の借家契約では、契約期間が満了しても「法定更新」制度があり、家主に「正当事由」がなければ、家主は借家契約を解除できません。賃料が相場よりも安くなったとしても、一気に賃料を相場まで上げることはできません(継続賃料と新規賃料の問題)。

 

その結果、次のような弊害を生んでいました。

  • 家主側の問題:家主が不動産を返してほしいと望んでも、契約を終了させることが困難であった。
  • 賃貸市場への影響:不動産所有者が、一度貸すと返ってこないことを恐れて不動産を貸し出さなくなり、賃貸物件の供給が不足した。
  • 不動産の有効活用阻害: 賃貸需要に見合う物件の供給がなくなることで、不動産の有効活用が十分になされていないと問題視された。
  • 価格形成の歪み: 借家の供給が萎縮した結果、高額な権利金や立退料が要求されるなど、合理的な価格形成が阻害されていた。

 

「借主に対する手厚すぎる保護」と「家主の権利」を調整したのが、次にご紹介する「定期借家契約」です。

定期借家契約の特徴


定期借家契約は、借主の保護を弱める一方で、家主に少し面倒な手続きを要求しています。

  定期建物賃貸借契約=定期借家契約 (普通の)建物賃貸借契約
貸主側
  • 契約で定めた期間満了により【1】、更新されることなく、「正当事由」の有無にかかわらず、確定的に賃貸借契約が終了する(借地借家38Ⅰ前段)。
    →契約期間、収益見通しが立てやすい。
  • 「法定更新」制度があり「正当事由」がない限り賃貸人からの更新拒絶できない。
  • 1年未満の期間でも賃貸借契約できる(借地借家38Ⅰ後段)。
  • 1年未満の期間の定めは期間の定めのないものとみなされる(借地借家29Ⅰ)
  • 特約で賃料減額請求権を排除できる(借地借家38Ⅸ)。
  • 特約でも賃料減額請求権を排除できない(借地借家32Ⅰ)【2】。
  • 書面による契約が必要(借地借家38Ⅰ前段)。
  • 口頭でも契約が成立する。
  • 【契約締結前】に【事前説明文書】を作成し賃借人に交付する必要がある(借地借家38Ⅲ)。
  • 契約期間満了の1年前から6か月前までの間(通知期間)に借主に対し期間の満了により賃貸借が終了する旨を【事前通知】する必要があります。通知期間経過後、通知をした場合は、通知日から6か月経過後に終了します(借地借家38Ⅵ)。
  • 契約締結前に事前説明文書は不要。
借主側
  • 長期賃貸借を希望する場合には、向かないことが多い【3】。契約期間満了ごとに新たに契約を締結する必要がある。
  • 長期賃貸借を希望する場合には、向いている。

【1】定期建物賃貸借契約において、中途解約できる旨の特約がない場合には、定期建物賃貸借契約は、契約期間満了まで継続します。契約の終期まで、賃料を支払う義務を負うということです。

記事「賃貸借契約で『中途解約を禁止する条項』は有効か」も参照ください。

ただし、定期建物賃貸借契約の場合であっても「居住用建物の賃貸借で床面積が200㎡未満の建物のとき」には、中途解約権が法律によって付与されています(借地借家38Ⅶ)。

 

【2】借地借家法32条1項は次のとおり定めています。

借地借家法第32条 (借賃増減請求権)
 

建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。 

これを整理すると下表のとおりです。

賃料減額しない特約(借主不利) 無効(借地借家32Ⅰ本文)
賃料増額しない特約(貸主不利) 有効(借地借家32Ⅰただし書)

(弁護士法人 御堂筋法律事務所『契約違反と信頼関係の破壊による 建物賃貸借契約の解除 ―違反類型別 賃貸人の判断のポイント―』新日本法規出版/2019/10頁、 澤野 順彦『実務解説 借地借家法 (第3版)』青林書院/2020/139頁)

 

【3】賃貸人の意向によって、再契約ができるか否かが分からないからです。また、従前賃料と同額で借りられるとは限りません(相場が上がっていれば、値上げされます。)。

定期借家契約の流れ


★印をつけたところが、「定期借家契約」の特徴です。

 

定期借家契約であることを明示して入居者の募集

入居申込書の提出

★定期借家契約についての事前説明★

建物の貸主は、あらかじめ、建物の賃借人に対し「建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了する」旨を記載した書面を交付して説明しなければなりません(借地借家法38Ⅱ)。建物の貸主が、説明をしなかったときは、普通の建物賃貸借契約になってしまいます(借地借家法38Ⅲ)。

不動産仲介会社が行う「重要事項説明」は、宅建業者が行うものであり主体が異なるため、別途「事前説明」が必要です。

★定期借家契約の締結★(契約書への署名押印)

普通の借家契約は、口頭でも成立しますが、「定期借家契約」は必ず書面による契約が必要です(借地借家38Ⅰ前段)。

物件への入居

★期間満了前に通知★

建物の貸主は、期間満了の1年前から6か月前までの間(通知期間)に建物の借主に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができません。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から6か月を経過した後は、この限りではありません(借地借家法38Ⅳ)。

借主が借り続けたい場合、賃貸人に再契約の申込み

(このフローチャートの最初に戻る)

条文


直接条文を確認したい皆様のために、定期建物賃貸借契約に関する条文を挙げておきます。

記号〔〕の中の文言は、筆者が追記したものです。

 

借地借家法第38条 (定期建物賃貸借)
 
  1. 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第30条の規定〔強行規定〕にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第29条第1項の規定〔期間1年未満とする建物賃貸借は、無期限の建物賃貸借とみなす。〕を適用しない。
  2. 前項の規定による建物の賃貸借の契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その契約は、書面によってされたものとみなして、同項の規定を適用する。
  3. 第1項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。
  4. 建物の賃貸人は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、建物の賃借人の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって法務省令で定めるものをいう。)により提供することができる。この場合において、当該建物の賃貸人は、当該書面を交付したものとみなす。
  5. 建物の賃貸人が第3項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。
  6. 第1項の規定による建物の賃貸借において、期間が1年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の1年前から6月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から6月を経過した後は、この限りでない。
  7. 第1項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積)が200㎡未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から1月を経過することによって終了する。
  8. 前二項の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。
  9. 第32条〔借賃増減請求権〕の規定は、第1項の規定による建物の賃貸借において、借賃の改定に係る特約がある場合には、適用しない。

司法書士の報酬・費用


家主も借主も、定期借家契約の締結を希望している場合には、司法書士にご用命ください。

司法書士が法律の要件を充たした契約書等をご用意することにより、ご希望どおりの定期借家契約の成立をお手伝いします。

業務の種類 司法書士の費用 実費
  • 賃貸入居申込書の作成
  • 定期借家契約についての事前説明書の作成
  • 賃貸借契約のお知らせの作成
  • 定期借家契約書の作成
275,000円(税込) 登記簿取得費、郵送費、交通費など
  • 期間満了前の通知書の作成
33,000円(税込) 郵送費等

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