NHKの受信料問題


NHK(日本放送協会)から長期間にわたる受信料の支払い請求が来た場合、どう対応すれば良いのでしょうか?相続人が請求を受けた場合、どうすれば良いでしょうか?論点を整理しました。 

なお、NHK受信料問題について、当グループではお取り扱いしておりません。

もくじ
  1. NHK受信料問題とは
    1. NHKの言い分
    2. 法律の定め
    3. 主な論争
    4. 筆者のコメント
  2. 憲法の条文
  3. 最高裁判決
  4. 受信料を請求された場合、どう対応すべき?
    1. 消滅時効の起算点
    2. 時効期間
    3. 注意すべき最高裁判決
    4. 定期金債権と定期給付債権
    5. ある月の受信料(支分権)が時効消滅した場合、他の月の受信料(支分権)はどうなるか?
    6. ある月の受信料(支分権)が時効完成猶予や時効更新となった場合、他の月の受信料(支分権)はどうなるか?
    7. 相続人が請求を受けた場合の対応
  5. 人気の関連ページ
  6. 参考文献等

〔凡例〕この記事では、次の法令が出てきます。法令名が長いときは、次のとおり略記します。

  • 憲法:日本国憲法(昭和二十一年憲法)
  • 民:民法(明治二十九年法律第八十九号)
  • 放送法(昭和二十五年法律第百三十二号)

NHK受信料問題とは


「NHK受信料問題」とは、テレビがあるだけでNHKを一切見なくても、法律によって「NHKとの契約」が義務付けられている制度をめぐる様々な論争のことです。

 

NHKの言い分

「公共放送NHKは、“いつでも、どこでも、誰にでも、確かな情報や豊かな文化を分け隔てなく伝える”ことを基本的な役割として担っており、その運営財源が受信料です。税金でも広告収入でもなく、みなさまに公平に負担していただく受信料だからこそ、特定の利益や意向に左右されることなく、公共放送の役割を果たしていけると考えています。(NHK『受信料の公平負担に向けた取り組みについて知りたい』最終アクセス2025/09/06)」

法律の定め

放送法第64条
 
  1. 協会〔筆者注:日本放送協会=NHK〕の放送を受信することのできる受信設備(次に掲げるものを除く。以下この項及び第三項第二号において「特定受信設備」という。)を設置した者は、同項の認可を受けた受信契約(協会の放送の受信についての契約をいう。以下この条及び第七十条第四項において同じ。)の条項(以下この項において「認可契約条項」という。)で定めるところにより、協会と受信契約を締結しなければならない。ただし、特定受信設備を住居(住居とみなされる場所として認可契約条項で定める場所を含む。)に設置した場合において当該住居に設置された他の特定受信設備について当該住居及び生計を共にする他の者がこの項本文の規定により受信契約を締結しているとき、その他この項本文の規定による受信契約の締結をする必要がない場合として認可契約条項で定める場合は、この限りでない。
    一 放送の受信を目的としない受信設備
    二 ラジオ放送(音声その他の音響を送る放送であつて、テレビジョン放送及び多重放送に該当しないものをいう。第百二十六条第一項において同じ。)又は多重放送に限り受信することのできる受信設備
  2. ~5.<略>

主な論争

  • 受信契約義務: 放送法64条1項が「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会と受信契約を締結しなければならない」と定められています。テレビ放送を受信できる機器を所有しているだけで対象となり、契約義務が発生します。
    ☛ 国民に契約を強制する点について、憲法の保障する自由権の侵害(憲法違反)ではないかという反論がなされてきました。

  • 支払いの義務:NHKとの放送受信契約を締結することにより、その契約(規約)により、受信契約者は受信料を支払う義務を負います。
    ☛ 契約は法律ではないため「契約は義務だが、支払いは任意ではないか」という反論がなされてきました。
  • 受信料の使途: 巨額の受信料収入がどのように使われているか、その経営の効率性や透明性について、国民からの厳しい目が向けられています。過去に生じたNHK職員による不祥事が、受信料不払いの増加の一因となりました。

 

筆者のコメント

NHKのテレビ番組には、民間放送局のテレビ番組と異なり、テレビCMがありません。

これは、NHKが、視聴者からの受信料で運営されているからです。

(特定のスポンサーに、放送内容を乗っ取られることを予防している。)

 

民間放送は、テレビCMの出稿料などで運営されていますので、スポンサー(テレビCMを流す事業者)の都合の悪いニュースを流しません。かつて、民間放送が武富士、アコム、アイフル、プロミス等の悪質サラ金に乗っ取られ、多数の市民が犠牲になりました。

(ただし、NHKがサラ金問題を真っ先に取り上げ、国民に啓蒙活動を行ったかというと、そういう記憶は私にはありません。)

 

憲法の条文を確認したのち、司法(裁判所)がどのような判断をくだしたのか、見ていきましょう。

憲法の条文


憲法第13条
 

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

憲法第19条
 

思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

憲法第21

 

集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

② 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

憲法第29条
 

財産権は、これを侵してはならない。

② 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。

③ 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

 

 

最高裁判決


最大判平成29年12月6日民集71巻10号1817頁
 

Westlaw Japan 〔裁判要旨〕

◆放送法64条1項は、日本放送協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者に対しその放送の受信についての契約の締結を強制する旨を定めた規定であり、日本放送協会からの上記契約の申込みに対して上記の者が承諾をしない場合には、日本放送協会がその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決の確定によって上記契約が成立する

放送法64条1項は、同法に定められた日本放送協会の目的にかなう適正・公平な受信料徴収のために必要な内容の、日本放送協会の放送の受信についての契約の締結を強制する旨を定めたものとして、憲法13条、21条、29条に違反しない

◆日本放送協会の放送の受信についての契約を締結した者は受信設備の設置の月から定められた受信料を支払わなければならない旨の条項を含む上記契約の申込みに対する承諾の意思表示を命ずる判決の確定により同契約が成立した場合、同契約に基づき、受信設備の設置の月以降の分の受信料債権が発生する

◆日本放送協会の放送の受信についての契約に基づき発生する、受信設備の設置の月以降の分の受信料債権(上記契約成立後に履行期が到来するものを除く。)の消滅時効は上記契約成立時から進行する

この最判によって「テレビを設置すればNHKとの受信契約が強制されること」は憲法違反ではないことが確定しました。

 

ついでに下級審の裁判例も掲載しておきます。

東京高判平成22年6月29日判時2104号40頁
 

「控訴人らは,どのような情報を取得するかについては,人格形成及びその発展にとって必要かつ不可欠のものであるから,憲法13条によりいかなる番組を視聴し又は視聴しないかに関する意思決定権の自由が保障されているところ,法32条がこの意思決定権の自由を侵害する旨主張する。しかしながら,法32条及び放送受信規約9条は,放送受信契約の締結及び被控訴人の放送を受信できる受信機を廃止しない間の放送受信料の支払を義務づけるだけであって,どのような番組を視聴するかについて強制するものでも妨害するものでもない。」ので、憲法13条に違反しない。

「憲法19条で保障される内心とは、特定の歴史観、世界観等の人格形成に関わる内心を指すものであって」NHKの「放送に対する嫌悪感や法で定められた放送受信料の支払いを回避したいという内心がこれに含まれないことは明らか」なので、憲法19条に反しない。

「控訴人らは,控訴人らが放送受信料の支払を免れようとすると,必然的に民放のテレビ番組の視聴を妨げられ,民放のテレビ番組を視聴することにより情報を取得する自由を侵害される旨主張するが,法32条及び放送受信規約9条は,放送受信契約の締結及び被控訴人の放送を受信できる受信機を廃止しない間の放送受信料の支払を義務づけるだけであって,民放のテレビ番組を視聴することを制限するものではない。」したがって,憲法21条に反しない。

「控訴人らは,放送受信規約9条が被控訴人の放送を受信できる受信機を廃止しない限り,原告との放送受信契約の解約を禁止しているのは,消費者契約法10条に定める「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する」条項であるから,無効である旨主張する。しかしながら,消費者契約法は,事業者と消費者との情報の質及び量ないし交渉力の格差にかんがみ,事業者と消費者との間で締結された契約について,消費者の利益を不当に害することとなる条項を無効としたり,取り消すことができること等を定めたものであるところ,法32条が放送受信契約の締結を義務づけ,放送受信規約9条はこのことと同趣旨のことを定めるものであって(法32条が適用されることは,消費者契約法11条2項),法32条は,当事者間でこれと異なる合意をすることを禁止する強行規定と解されることからすれば,そもそも,法32条と異なる契約を締結することができない場合であって,消費者契約法10条が適用され得る余地はないといわなければならない。」

「民法761条に定める,日常家事に関する法律行為によって発生した債務とは,婚姻共同体において家庭生活を営むために通常必要とされる法律行為に基づく債務であるが,問題となる具体的な法律行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属するか否かを決するに当たっては,同条が,夫婦の一方と取引関係に立つ第三者の保護を目的とする規定であることにかんがみ,内部的な事情やその行為の個別的な目的のみを重視して判断すべきではなく,客観的に,その法律行為の種類,性質等を考慮して判断すべきであるところ,現代社会において,テレビ番組の視聴は,日常生活に必要な情報を収集するため又は相当な範囲内の娯楽として,夫婦の共同生活を営む上で通常必要なものといえ,そして,放送法(以下「法」という。)32条は,「協会(被控訴人)の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,協会(被控訴人)とその放送の受信についての契約をしなければならない。」と規定しており,この規定によれば,被控訴人の番組の視聴をするか否かを問わず,契約締結を強制しているものということができる。したがって,法32条の規定の文言を前提とする限り,放送受信契約の締結は,民法761条本文の日常の家事に関する法律行為の範囲に属するということができる。」 

受信料を請求された場合、どう対応すべき?


過去の受信料の請求をされた場合、どう対応すべきでしょうか?

消滅時効を援用できる場合があります。消滅時効の援用とは、契約者(債務者)が、NHKに対して、消滅時効期間経過後、消滅時効の恩恵を受ける(すなわち債務を消滅させる)意思表示を行うことです。証拠を残しておくため、内容証明郵便で行います。

 

消滅時効の起算点

もう一度、上記最高裁判決を引用します。

最大判平成29年12月6日民集71巻10号1817頁
 

Westlaw Japan 〔裁判要旨〕

◆日本放送協会の放送の受信についての契約を締結した者は受信設備の設置の月から定められた受信料を支払わなければならない旨の条項を含む上記契約の申込みに対する承諾の意思表示を命ずる判決の確定により同契約が成立した場合、同契約に基づき、受信設備の設置の月以降の分の受信料債権が発生する

◆日本放送協会の放送の受信についての契約に基づき発生する、受信設備の設置の月以降の分の受信料債権(上記契約成立後に履行期が到来するものを除く。)の消滅時効は上記契約成立時から進行する

つまり、こういうことです。

  • NHKとの契約が成立した場合、テレビを設置した月から受信料の支払い義務が発生する。
  • NHKとの契約が成立した場合、契約成立前に生じていた受信料の消滅時効は、契約成立のときから進行する。

 

時効期間

「時効期間」とは、起算点とは「起算点」から何年経てば「消滅時効が完成するか」その期間のことです。別の最高裁判例も引用します。

最判平成26年9月5日裁判集民247号159頁、裁判所ウェブサイト
 

Westlaw Japan 〔裁判要旨〕

◆受信料が月額又は6箇月若しくは12箇月前払額で定められ、その支払方法が2箇月ごとの各期に当該期分を一括して支払う方法又は6箇月分若しくは12箇月分を一括して前払する方法によるものとされている日本放送協会の放送の受信についての契約に基づく受信料債権の消滅時効期間は、民法169条により5年と解すべきである。

平成26年最判は「民法169条により5年」といっていますので、民法169条を見てみましょう。なんと・・・平成26年最判の時点(改正前民法)にはあった民法169条が、改正後は無くなっています。

改正前民法   現行民法 <令和2年4月1日施行>
第168条(定期金債権の消滅時効)
  1. 定期金の債権は、第一回の弁済期から20年間行使しないときは、消滅する。最後の弁済期から10年間行使しないときも、同様とする。




  2. 定期金の債権者は、時効の中断の証拠を得るため、いつでも、その債務者に対して承認書の交付を求めることができる。
  第168条(定期金債権の消滅時効)
  1. 定期金の債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
    一 債権者が定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から10年間行使しないとき。
    二 前号に規定する各債権を行使することができる時から20年間行使しないとき。
  2. 定期金の債権者は、時効の更新の証拠を得るため、いつでも、その債務者に対して承認書の交付を求めることができる。

第169条(定期給付債権の短期消滅時効)

年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、5年間行使しないときは、消滅する。

 

第169条

(削除されて、全く違う条文に差し替えられています)

 

一瞬「5年では無くなってしまったのか?」と思いますよね。削除された理由は次のとおりです。

 

削除前169条の「[削除の趣旨]定期給付債権(支分権等)の消滅時効期間は、削除前169条により5年とされているが、原則的な債権の消滅時効期間を主観的起算点から5年とする改正がなされたので、多くの場合は、各支払期の到来時に、債権者は『権利を行使することができることを知』ることになり、定期給付債権の特則を定める意義はなくなる。そこで、削除前169条は削除された(『我妻・有泉コンメンタール民法[第8版]』344頁)」

 

つまり、NHK受信料の消滅時効期間は、民法166条1項に定められたとおりで、平成26年最判が変わったわけではありません。

民法第166条(債権等の消滅時効)
 
  1. 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
    一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
    二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
  2. 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。
  3. 前二項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。

注意すべき最高裁判決(時効のかかり方)

注意すべき最高裁判決があります。

最判平成30年7月17日民集 72巻3号297頁、裁判所ウェブサイト
 

♦要旨♦

受信契約に基づく受信料債権には,民法168条1項前段の規定は適用されない

♦理由抜粋♦

「受信契約に基づく受信料債権は,一定の金銭を定期に給付させることを目的とする債権であり,定期金債権に当たるといえる。しかし,放送法は,公共放送事業者である被上告人の事業運営の財源を,被上告人の放送を受信することのできる受信設備を設置した者に広く公平に受信料を負担させることによって賄うこととし,上記の者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定を置いているのであり,受信料債権は,このような規律の下で締結される受信契約に基づき発生するものである。受信契約に基づく受信料債権について民法168条1項前段の規定の適用があるとすれば,受信契約を締結している者が将来生ずべき受信料の支払義務についてまでこれを免れ得ることとなり,上記規律の下で受信料債権を発生させることとした放送法の趣旨に反するものと解される。」 

定期金債権と定期給付債権

話しをすすめるためには「定期金債権」と「定期給付債権」の違いについて、ご理解いただく必要があります。

  定期金債権(基本権) 定期給付債権(支分権)
定義 一定額の金銭を定期的に継続して受け取る権利 定期金債権から派生し、各回ごとの個別支払請求権
  • NHKとの受信契約
  • 毎月のNHK受信料
条文

民法168条(定期金債権の消滅時効)

旧民法169条(定期給付債権の消滅時効)

現行民法166条(債権等の消滅時効)

時効
  • 債権者が各支分権を行使できることを知った時から10年
  • 債権者が各支分権を行使できる時から20年(最判平成30年7月17日が受信契約への適用否定)
  • 債権者が各支分権を行使できることを知った時から5年
  • 債権者が各支分権を行使できる時から10年
考え方

基本権そのものが時効消滅すると、その後、支分権は発生しなくなり、一旦発生した支分権も消滅する。

発生した個々の請求権(支分権)が、それぞれ時効で消滅していきます。

定期金債権(基本権)について、消滅時効が定められているのは「定期に発生する支分権について権利行使が全くされないときでも、基本権である定期金債権がいつまでも時効にかからず、支分権が発生し続けるのは適当でないという考慮に基づくもの」とされています。 

上記、平成30年最判は、この定期金債権(基本権)の消滅時効がNHK受信料には適用されないといっているわけです。

ある月の受信料(支分権)が時効消滅した場合、他の月の受信料(支分権)はどうなるか?

NHKの受信料(支分権)は、毎月請求され、毎月の請求分は、支払い期日(期限)が異なります。

(前掲平成26年最判は、毎月の受信料を定期給付債権(支分権)であると判断しています。)

したがって、消滅時効を迎える日も支払い期日ごとにそれぞれ異なります。

よって、NHKの受信料は、①消滅時効が成立している受信料と②成立していない受信料に分けられます。

 

また、消滅時効は、滞納を請求する訴訟中は完成しません(時効の完成猶予)し、判決や強制執行があったとき、債務者が返済の意思を示したときなどは時効はゼロからスタート(時効の更新)となります(民法147~152)。

 

ある月の受信料(支分権)が時効完成猶予や時効更新となった場合、他の月の受信料(支分権)はどうなるか?

消滅時効を援用する前に、裁判上の請求や、強制執行を受けたりした場合には、消滅時効は完成しません(時効の完成猶予:民法147Ⅰ、148Ⅰ、149、150、151)。

また、判決をとられたり、契約者が債務を承認したりした場合には、時効は最初からやり直しになります(時効の更新:民法147Ⅱ、148Ⅱ、152)。

 

NHK(債権者)側の行為:滞納月分をまとめて請求(民150:時効完成猶予)や訴訟(民147Ⅰ:時効完成猶予、同Ⅱ:時効更新)してきます。契約者(債務者)としては、支払期限から5年経過しているものについて消滅時効を援用したのち、残金を支払うことになるでしょう。

 

契約者(債務者)側の行為:

契約者が滞納受信料全額の支払い義務を承認した場合、滞納受信料全額について、消滅時効は更新されます(民法152)。

一方、契約者が滞納受信料の一部を弁済した場合、滞納額全額について消滅時効が更新されるのでしょうか、それとも他の月分の請求については消滅時効が完成する余地はあるのでしょうか?筆者は次のように考えます。

すなわち、NHK受信料は月ごとに発生する債務ですので定期給付債権です。したがって、消滅時効更新事由の有無については、それぞれの月ごとに判断し、一部弁済によって、全体の消滅時効が更新されることはありません。

次に、一部のみの弁済は、民法488条によって充当処理すべきと考えます。すなわち、どの月の受信料に充当されるのかは、次のように決定します。

  1. 契約者が弁済時に指定したときはその債務に充当され(488Ⅰ)、
  2. 契約者が弁済時に指定しなかったときは、NHKが指定し(488Ⅱ)、
  3. 契約者もNHKもいずれもが指定していなかったときは、法定充当(民488Ⅳ)により処理することになります。さらに、弁済期にない受信料の請求を受けることはありません(民488Ⅳ①)から、全ての債務が弁済期にあるときとして「債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する」ことになります(民488Ⅳ②)。

消滅時効が完成して援用を待っている月の請求に充当する利益は、契約者(債務者)にはありませんから「時効完成間際で時効完成していない受信料に充当された」と考えるべきです【1】。

なお、2回目の催告(手紙による請求)は、時効の完成猶予の効力を有しない(民150Ⅱ)ので、消滅時効の完成が間近な場合には、NHKは裁判上の請求(訴訟)を行うこともあるようですので、ご注意ください。 

民法第488条(同種の給付を目的とする数個の債務がある場合の充当)
 
  1.  債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において、弁済として提供した給付が全ての債務を消滅させるのに足りないとき(次条第一項に規定する場合を除く。)は、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。
  2. 弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは、弁済を受領する者は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし、弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。
  3. 前二項の場合における弁済の充当の指定は、相手方に対する意思表示によってする。
  4. 弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも第一項又は第二項の規定による指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。
    一 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。
    二 全ての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。
    三 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。
    四 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。

【1】もっとも「債務者のために弁済の利益が多いもの」を勘案するに際して、消滅時効完成の有無をも対象とすべきという論考は見当たりませんので、あくまで筆者の私見です(『民法講義IV新訂債権総論』286頁、『注釈民法第12巻債権⑶』216頁、等を参照)。

 

相続人が請求を受けた場合の対応

相続財産に関する時効の完成猶予(民160)がありますので、相続人が消滅時効援用通知をする際には、ご注意ください。

民法第160条(相続財産に関する時効の完成猶予
  相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

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参考文献


  • 我妻栄 著『民法講義IV新訂債権総論』岩波書店/1964年
  • 磯村哲/編集『注釈民法第12巻債権⑶債権の消滅 -- 474条~520条【復刊版】』有斐閣/2013年
  • 我妻榮 有泉亨 清水誠 田山輝明 著『我妻・有泉コンメンタール民法[第8版] 総則・物権・債権』(日本評論社、2022年)