合同会社の議案、その議決要件、定款による議決要件の変更(緩和・加重)


合同会社が何かを決定する場合、「誰が」その決定を行うのかは重要です。

代表社員が一人で決めていた事項が、実は総社員の同意が必要な事項だったとしたら、大問題です。

 

この記事では、

まず❶合同会社の主な決議事項(議案)と、その決議要件について、

次に➋決議要件を定款でどのように変更(緩和、加重)できるかについて、

司法書士が解説しています。

もくじ
  1. 議案とその議決要件
  2. 定款規定による議決要件変更(例) 
    【1】定款変更の要件を緩和するための定款規定例
    【2】持分の譲渡に関する承認と、それに伴う定款変更の承認
    【3】社員加入の要件を緩和するための定款規定例
    【4】任意退社の要件変更について
    【6】社員の法定退社事由の追加、削除
    【7】相続又は合併の場合の特則
    【8】業務執行の決定
    【9】決算の承認
    【10】業務執行社員の選任、解任
    【11】代表社員の選定、解任
    【12】支配人の選任、解任
    【13】会社の解散
    【14】組織再編
  3. 参考文献
  4. 人気の関連ページ

議案とその議決要件


合同会社が何かを決定する場合、議決の要件には、次の種類があります。

  • 総社員の同意
  • 総社員の過半数の同意
  • 業務執行社員全員の同意
  • 業務執行社員の過半数の同意
  • 代表社員が一人で決めてよい事項

「議決要件」欄には、会社法が定めるルールと、その変更の可否を記載しています。

なお、合同会社には、株主総会も社員総会も取締役会もありませんので、物理的に社員が集まって決議をする必要はありません。メールなどでも結構です。

議案の種類

議決要件(根拠条文)

定款の変更

総社員の同意

定款で要件緩和可能(会637)【1】

業務執行しない有限責任社員の持分譲渡に伴う定款変更

業務執行社員の全員の承諾

定款で要件変更可能(会585ⅡⅢⅣ)【2】

社員の退社(任意退社、法定退社、社員持分差押債権者による退社、会社継続に不同意社員の退社)に伴う定款変更

定款変更したものとみなされる(会610)

社員の入退社など
社員の加入

総社員の同意

定款で要件緩和可能(会604Ⅱ→会637)【3】

持分の譲渡

その他社員全員の同意

定款で要件緩和可能(会585ⅠⅣ)【2】

持分の譲渡(業務執行しない有限責任社員の場合)とそれに伴う定款変更

業務執行社員の全員の承諾

定款で要件変更可能(会585ⅡⅢⅣ)【2】

社員の任意退社(事業年度終了時における任意退社。6か月前までに退社予告が必要。)

各社員

定款で別段の定め可能(会606Ⅱ)【4】

別段の定めをしても、やむを得ない事由【5】があるときは、いつでも退社できる(会606Ⅲ)

社員の法定退社

法定退社事由の追加、削除が認められる。

法定退社事由の一つに「総社員の同意」がある。

(会607Ⅰ)【6,7】

社員の除名の訴え提起

対象社員以外の社員の過半数の決議

決議要件の変更不可(会607Ⅰ⑧、会859)

業務の執行

業務執行の決定

(業務執行社員を定めないとき)

社員の過半数の決定

定款で要件変更可能【8】(会590Ⅱ)

業務執行の決定

(業務執行社員を定めたとき) 

業務執行社員の過半数の決定

ただし支配人の選任解任は社員の過半数決議

定款で要件変更可能(会591Ⅱ)【8】

決算承認

(業務執行社員を定めないとき)

社員の過半数の決定

定款で要件変更可能(会590Ⅱ)【9】

決算承認

(業務執行社員を定めたとき)

業務執行社員の過半数の決定

定款で要件変更可能(会590Ⅱ)【9】

業務執行社員の選任

定款又は定款で定める選任方法で定めます。(会591)【10】

業務執行社員の解任

他の社員の一致(+正当事由)

定款で要件変更可能(会591Ⅴ)【10】

業務執行社員の業務執行権又は代表権の消滅の訴え提起

対象業務執行社員以外の社員の過半数の決議

決議要件の変更不可(会860)

代表社員の選定

定款、定款の定めに基づく社員の互選で、業務執行社員の中から選ぶ(会599Ⅲ)【11】

支配人の選任・解任

(業務執行社員を定めたときも)社員の過半数決議

定款で要件変更可能(会591Ⅱ)【12】

会社の解散

会社の解散

会社の存続期間や、解散事由を定款で定めることができる。

解散事由の一つに「総社員の同意」がある。(会641)

【13】

会社の継続

社員の全部又は一部の同意(同意しなかった社員は退社)

決議要件の変更不可(会642)

組織再編

合同会社から株式会社への「組織変更」

総社員の同意

定款で要件変更可能(会781Ⅰ)

【14】

合同会社から合名会社/合資会社への「種類の変更」(社員の意思による種類変更)

総社員の同意

定款で要件変更可能(会638)【14-2】

吸収合併消滅会社

吸収分割会社

株式交換完全子会社(会2㉛、会767)

 となるとき

総社員の同意。

定款で要件変更可能

(会793Ⅰ)

【14】

吸収合併存続会社

吸収分割承継会社

株式交換完全親会社

 となるとき

総社員の同意。

定款で要件変更可能(会802Ⅰ)

【14】

新設合併消滅会社

新設分割会社

株式移転完全子会社(会2㉜、会772)

 となるとき

総社員の同意。

定款で要件変更可能(会813Ⅰ) 

【14】

新設合併設立会社

新設分割設立会社

株式移転設立完全親会社(会2㉜、会772)

 となるとき

いずれも、新たに設立される会社における決議は不要(会816Ⅰ)

新設合併の決議は消滅会社において、

新設分割の決議は新設分割会社において、

株式移転の決議は株式移転完全子会社において、

それぞれ決議される。 

(表で取消線を引いたものは、合同会社では採用できない組織再編スキームを削除したものです。)

 

【1】~【4】 定款規定による議決要件変更(例)の解説を参照ください。

【5】「ここでいう『やむを得ない事由』とは、社員が単に当初の意思を変更したというだけでは足りず、定款規定を定めた時や入社・設立時に前提としていた状況等が著しく変更され、もはや当初の合意どおりに社員を続けることができない場合等がこれに当たるものと解すべきである。」とされている(旬刊商事法務1748号19頁下段)。

この場合の退社は、会社の存続期間の定めの有無にかかわらず認められ、退社の時期も限定されず、退社する旨の告知により直ちに退社の効力が生ずる(『第4版 会社法定款事例集』283頁)。」

【6】~【14】 定款規定による議決要件変更(例)の解説を参照ください。

定款規定による議決要件変更(例)


会社法の規定で、次のような文言がある場合には、定款で別段の定めをすることが認められます。

  • 「ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。」
  • 「定款に別段の定めがある場合を除き」

定款規定による議決要件の変更は、どこまで認められるのでしょうか?

専門書に掲載された要件変更例を引っ張り出してみました。

 

【1】定款変更の要件を緩和するための定款規定例

『事例解説 合同会社の登記』148頁
 
  1. 「第○条 当会社の定款の変更は、社員の過半数の一致をもって行う。」
  2. 「第○条 当会社の定款の変更は、社員の○分の○以上の一致をもって行う。」
  3. 「第○条 当会社の定款の変更は、業務執行社員の全員の一致をもって行う。」
  4. 「第○条 当会社の定款の変更は、業務執行社員の過半数の一致をもって行う。」
  5. 「第○条 当会社の定款の変更は、業務執行社員の○分の○以上の一致をもって行う。」

下記のような規定方法は、私であればおすすめしません。定款の定めにも一定の限界があるとする説(鴻常夫ほか編『商業登記先例判例百選』有斐閣/1993/181頁)もあるためです。 

『会社法大系 第1巻』350頁
   6. 特定の業務執行社員への委任

 

会社法637条の射程に関しては、下表のとおり議論があるそうです。 

いずれ深掘りしたいと思います。

包括規定であるとする説 包括規定でないとする説
いったん本条に基づき,総社員の同意以外の定款変更の決議要件を定めた場合には,その決議要件は,法が個別にデフォルト・ルールとして決議要件を定めている場合にも当然に適用されることになり,あらためて個別の決議要件の変更を必要としないとする見解 法が個別にデフォルト・ルールとして決議要件を定めている場合には,たとえ本条に基づき,総社員の同意以外の定款変更の決議要件を定めた場合であっても,あらためて総社員の同意による個別の決議要件の変更を必要とする見解
本条を包括規定とした上で,不利益を受ける社員がある場合には個別的同意を必要と解し,事後的救済に委ねるとする説として,大杉謙一「持分会社・民法組合の法律問題」岩原ほか・上53頁以下

合併等の法が個別に総社員の同意をデフォルト・ルールとしている場合には,個別に総社員の阿意によって定款規定を設ける必要があるとする説(大隅健一郎「合名会社の社員の決議(3完)」法学論叢38巻4号〔1938〕698-699頁)

東京地決平成元・8・29判時1330号123頁〔合資会社の合併要件を定款で定めるには,当該定款変更自体についても総社員の同意が必要であるとした〕がある[☛§577II 2・皿]。

上の表は、神田秀樹/編『会社法コンメンタール 15巻 持分会社(2)』商事法務/2018年/119頁以下を抜粋、整理したうえ、情報を追記しました。

【2】持分の譲渡に関する承認と、それに伴う定款変更の承認

<前提知識>

社員に関する事項(氏名・名称、住所、無限責任・有限責任の別、出資目的、出資価額・評価基準)は定款の絶対的記載事項です(会576Ⅰ④⑤⑥)。

持分の譲渡が承認されることにより、社員に関する事項に変更が生じますので、持分譲渡の承認とは別に、定款の変更の承認をする必要があります(会637)。

 

「会社法585条1項から3項は任意規定であり、4項において、定款で別段の定めをすることが認められることから(旬刊商事法務1748号16頁、前掲「会社法コンメンタール14巻」111頁)、定款事例として持分譲渡の決議要件についてのみ定款に別段の定めがある場合も散見され、持分譲渡の決議要件と定款変更の決議要件が一致しない場合があり得る。/そのため、会社法585条3項は、業務を執行しない社員の持分の譲渡の決議要件と定款変更の決議要件とを一致させている。/よって、持分譲渡の承認につき定款に別段の定めを設ける場合には、定款変更の決議要件と整合するよう注意が必要である(『第4版 会社法定款事例集』272頁)。」

 

『第4版 会社法定款事例集』272頁

『事例解説 合同会社の登記』148頁

 
  1. 「第○条 当会社の社員がその持分の全部又は一部を他人に譲渡しようとするときは、他の社員の承認を要しない。」
  2. 「第○条 当会社の業務を執行しない社員がその持分の全部又は一部を他人に譲渡するときは、他の社員の承認を要しないものとする。」【非業務執行社員の持分譲渡制限を撤廃した例】
  3. 「第○条 当会社の業務執行社員がその持分の全部又は一部を他人に譲渡するときは、他の業務執行社員の3分の2以上の承認を得なければならない。」

【3】社員加入の要件を緩和するための定款規定例

<前提知識>

合同会社の社員になるためには、下記「3要件全て」を満たす必要があります(効力発生要件)。

  1. 合同会社の持分を有すること(会578)
  2. 合同会社の定款変更に関する総社員の同意を得たうえ、定款に新しい社員の住所氏名を記載すること(会576Ⅰ④)
  3. 社員が出資義務を履行していること(会604Ⅲ)

「要件2.」の緩和例は、次のとおりです。

『商業登記ハンドブック〔第4版〕』655頁(注)
 

「登記実務上は、例えば社員の加入に代表社員の同意があれば足りる旨の定款の定めも有効であり、この場合には、登記申請書の添付書面として、定款の変更に係る総社員の同意書に代えて、定款及び代表社員の同意書が必要になるとされている。」

社員の加入自体には、同意を要さないので、上記緩和例をより正確に表現すれば次のとおりになろうかと思われます。

『社員の加入に伴う定款変更には、代表社員の同意があれば足りる。』

 

一方、定款の定めにも一定の限界があるとする説もある(『商業登記先例判例百選』181頁)。

【4】任意退社の要件変更について

<前提知識>

合同会社の存続期間を定款で定めなかった場合【5-1】又はある社員の終身の間合同会社が存続することを定款で定めた場合【5-2】には、各社員は、6か月前までに合同会社に対して退社の予告をすれば、事業年度の終了の時において退社できます(会606Ⅰ)。

各社員は、やむを得ない事由があるときは、いつでも退社することができます。【5-3】

  • 【5-1】定款に会社の存続期間が一定期間と定めていれば、やむを得ない事由が生じた場合以外は、自己の意思により退社することは認められない(『旬刊商事法務1748号』19頁下段)。
  • 【5-2】ある社員の終身の間合同会社が存続することを定款で定めている場合は、合同会社の存続期間を定款で定めなかった場合と同視できるものと考えられているので、その終身の間合同会社が存続するものと定められた社員も、それ以外の社員も会社法606条1項に基づいて退社をすることができるとされている(『会社法コンメンタール14巻持分会社(1)』216頁)。
  • 【5-3】やむを得ない事由による退社を制限する定款規定は許されないとするのが通説である(『会社法コンメンタール14巻持分会社(1)』225頁)。

 

『合同会社のモデル定款―利用目的別8類型― 』172頁
 

他の社員の承諾を得た場合にのみ退社できる。

『第4版 会社法定款事例集』281頁以下
 
  1. 第○条 各社員は、当会社の存続期間である○○年間は、退社することができない。【5-4】
  2. 第○条 各社員は、当会社の設立後○○年間は、退社することができない。【5-5】
  3. 第○条 各社員は、事業年度の終了の時において退社をすることができる。この場合においては、各社員は、2か月前までに当会社に退社の予告をしなければならない。【5-6】

【5-4】存続期間を定款で定めた場合に、任意退社できない旨を注意的に記載した例(会606Ⅰ参照)。

【5-5】存続期間を定款で定めていない場合でも、一定期間は任意退社を制限した例(『会社法コンメンタール14巻 持分会社(1)』219頁以下、旬刊商事法務1748号19頁を参照。)

【5-6】予告期間を6か月より短くした例(『新版注釈会社法(1)』347頁)。

 

【6】社員の法定退社事由の追加、削除

会社法第607条(法定退社)
 
  1. 社員は、前条〔任意退社〕、第609条第1項〔持分の差押債権者による退社〕、第642条第2項〔会社継続に同意しなかった社員の退社〕及び第845条〔設立無効等認容判決確定時の原因社員のみなし退社〕の場合のほか、次に掲げる事由によって退社する。
    一 定款で定めた事由の発生【6-1】
    二 総社員の同意
    三 死亡【7】
    四 合併(合併により当該法人である社員が消滅する場合に限る。)
    五 破産手続開始の決定
    六 解散(前二号に掲げる事由によるものを除く。)
    七 後見開始の審判を受けたこと。
    八 除名
  2. 持分会社は、その社員が前項第五号から第七号までに掲げる事由の全部又は一部によっては退社しない旨を定めることができる。【6-2】

【6-1】公序良俗に反しない限り自由に定めることができます。

例えば、定年制を設けることができます。

【6-2】退社しない場合には、例えば次のように定めます。

「当会社の社員は、破産手続開始の決定、解散又は後見開始の審判を受けたことによって退社しない。」 

【7】相続又は合併の場合の特則

合同会社は、その社員が死亡した場合又は合併により消滅した場合における当該社員の相続人その他の一般承継人が当該社員の持分を承継する旨を定款で定めることができます(会608Ⅰ)。

おおむね次のパターンに分かれます。

  1. 相続人の意思に関係なく加入させる例
  2. 相続人が加入希望する場合に加入させる例
  3. 特定の相続人のみ加入させる例(氏名で特定する例、遺産分割させる例)
  4. 他の社員が同意した場合に加入させる例
  5. 社員の持分を承継させない例(持分払戻請求権が相続対象となる)

記載例は、多種多様ですので『第4版 会社法定款事例集』287頁以下や『合同会社の設立手続ー合同会社の活用法と選択肢付モデル定款の様式ー』125頁以下などをご参照ください。

なお、実務上は、社員の地位は、遺産分割協議の対象とならないとする扱いがなされています(『商業登記実務から見た合同会社の運営と理論』45頁参照)

 

【8】業務執行の決定

  •  合同会社に「社員総会」を設置することも可能です(『会社法コンメンタール 14巻 持分会社(1)』134頁。この場合の定款記載例については『合同会社の設立手続ー合同会社の活用法と選択肢付モデル定款の様式ー』144頁以下参照)。
  • 一人一票ではなく、出資持分に応じて議決権を持たせることも可能です(『合同会社の設立手続ー合同会社の活用法と選択肢付モデル定款の様式ー』163頁以下参照)。
  • 一人一票ではなく、出資持分にも応じない議決権(株式会社における黄金株のようなもの)を持たせることは可能でしょうか?例えば、100万円出資のAさんと、10万円出資のBさんで合同会社を設立し、Aさん議決権1票に対して、Bさん議決権10票を与えることは可能でしょうか。肯定説、否定説ともにありえるでしょうが、このような極限事例については、最終的には、裁判所が判断することとなると思います。司法書士佐藤大輔の私見では、かような定款規定は、紛争になりかねず、導入すべきではないと考えます(反対に「合同会社においても、定款を適切に定めることにより,こうした株式会社における『種類株式』と同じ仕組みを設けることができる。」とする見解もあります『詳解 合同会社の法務と税務』63頁)。

【9】決算の承認

「決算の承認」は業務執行の決定

合同会社には、株式会社のような決算承認を定時株主総会で行うような規定はありません。

 

【10】業務執行社員の選任、解任

合同会社の社員は、原則、業務執行権(会590Ⅰ)と、代表権(会599Ⅰ)を有しています。

一部の社員のみが業務執行権を有するときは、①業務執行社員の氏名を定款で定めるか、②定款で業務執行社員の選定方法を定めます。

業務執行社員は、①定款で具体的に定めるしか方法がない(②は不可。)とする説もあります(『商業登記実務から見た合同会社の運営と理論』71頁)。

 

「業務執行社員は、代表社員が社員の中から決定する」は可能でしょうか?

私であればおすすめしません。定款変更すら特定の社員への委任が可能とする見解もありますが、一方で、定款の定めにも一定の限界があるとする説(『商業登記先例判例百選』181頁)もあるためです。

 

【11】代表社員の選定、解任

「互選をする社員が、業務執行社員であるのか、業務執行権のない社員も含めた社員であるのかです。これについては、両説がありますが、登記実務上は、業務執行社員の互選として扱われているようです。/私見は後説〔総社員の互選〕が妥当と考えます。」

「しかし、原則として、総社員の同意を要する定款の変更(会637条)でさえ、定款に別段の定めとして、業務執行社員のみで変更することも許容されていることを考えると、互選を行う社員についての定款の別段の定めを設けたと解釈し、私見は、否定するまでの必要はないと考えます」

以上、『商業登記実務から見た合同会社の運営と理論』113頁以下をご参照。

 

【12】支配人の選任、解任

「支配人の選任・解任は、業務執行の決定の1つと考えられるが、その重要性にかんがみ、591条2項は、1項のデフォルト・ルールの例外として、社員の過半数による決定をデフォルト・ルールとしている(『会社法コンメンタール 14巻 持分会社(1)』138頁)。」

『会社法コンメンタール 14巻 持分会社(1)』138頁
  業務執行社員の過半数の決定

【13】会社の解散

会社法は合同会社の解散事由として7つをあげています。

会社法第641条(解散の事由)
  持分会社は、次に掲げる事由によって解散する。

一 定款で定めた存続期間の満了

二 定款で定めた解散の事由の発生【13-1】

三 総社員の同意【13-2】

四 社員が欠けたこと。

五 合併(合併により当該持分会社が消滅する場合に限る。)

六 破産手続開始の決定

七 第八百二十四条第一項又は第八百三十三条第二項の規定による解散を命ずる裁判

合同会社は、解散時期として「存続期間」を定めること(定めないこと)、解散の「事由」を定めること(定めないこと)ができます。また、これらを定めたときは、登記事項となります。

【13-1】解散事由の定款記載例は次のとおりです。

『合同会社のモデル定款―利用目的別8類型― 』178頁
  ○日付の合弁契約が終了したこと
『第4版 会社法定款事例集』294頁
  社員○○○○の死亡

【13-2】解散事由の一つ「総社員の同意(3号)」を緩和することはできるか?

定款で社員の過半数の同意により会社は解散する旨定めるときは、当該定款規定は本条2号の定款所定の解散事由を定めるものとして有効と解されている(『会社法コンメンタール 15巻 持分会社(2)』151頁)。この場合には、解散事由として登記事項になろう。

 

【14】組織再編

【14-1】例えば、次のような定款記載例が考えられます。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(組織再編)

第○条 当会社は、業務執行社員の過半数の同意を得て、会社法第5編に規定される組織再編の当事者となることができる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【14-2】合同会社から合名会社又は合資会社への「種類の変更」は、定款変更として整理されています(会638)ので、定款変更を行う場合と同様です。

参考文献


この記事を執筆するために、下記書籍等を参照させていただきました。

また、本文で引用する場合には、太字部分とページ番号のみを記載しています。

  • 鴻常夫ほか編『商業登記先例判例百選』有斐閣/1993
  • 江頭憲治郎・門口正人/編集『会社法大系 第1巻』青林書院/2008
  • 神﨑満治郎(こうざきみつじろう)著『合同会社の設立手続ー合同会社の活用法と選択肢付モデル定款の様式ー』東京司法書士協同組合/2013
  • 江頭憲治郎/編著『合同会社のモデル定款―利用目的別8類型― 』商事法務/2016
  • 松井信憲/著『商業登記ハンドブック〔第4版〕』商事法務/2021
  • 金子登志雄(監修)/立花宏(著)『商業登記実務から見た合同会社の運営と理論』中央経済社/2019年
  • 田村洋三(監修)/土井万二・内藤卓・尾方宏行(編集代表)『第4版 会社法定款事例集』日本加除出版/2021年
  • 泉水悟/著『事例解説 合同会社の登記』日本加除出版/2021年
  • 神田秀樹/編『会社法コンメンタール 14巻 持分会社(1)』商事法務/2014年
  • 神田秀樹/編『会社法コンメンタール 15巻 持分会社(2)』商事法務/2018年
  • 相澤 哲、 郡谷 大輔(著)『新会社法の解説⑿ 持分会社』旬刊商事法務1748号/商事法務/2005年/11-25頁
  • (森・濱田松本法律事務所 弁護士・税理士)安部慶彦 著『詳解 合同会社の法務と税務』中央経済社/2023年

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