種類株式の内容として登記できる事項、登記できない事項


この記事では、種類株式を扱う司法書士が頭を悩ます「この種類株式の内容は、登記できるか?できないか?」問題について、解説しています。

徐々に加筆していきます。

もくじ
  1. 法令等の定め
    1. 会社法
    2. 商業登記法、商業登記規則、商業登記等事務取扱手続準則
    3. 平成18年3月31日法務省民商第782号法務局長、地方法務局長あて法務省民事局長通達
  2. 株式の内容として登記できる事項、できない事項(まとめ)
  3. 具体例による検討
    1. 「種類株主総会の決議を要しない」との定め
  4. 登記すべき事項作成時の注意点
  5. 人気の関連ページ

法令等の定め


法律実務家である司法書士としては、分からないことがあれば、まず法令を調べる必要があります。

次のとおり調べていきます。

実体法→手続法→手続政令→手続省令→手続準則(通達)→その他の通達等

 

会社法の定め

株式会社の登記事項について定める会社法911条3項7号に種類株式の内容も規定されています。

ただし、次のとおり極めてシンプルな規定です。

会社法第911条(株式会社の設立の登記)
 
  1. 株式会社の設立の登記は、その本店の所在地において、次に掲げる日のいずれか遅い日から二週間以内にしなければならない。
    一 (略)
    二 (略)
  2. (略)
  3. 第1項の登記においては、次に掲げる事項を登記しなければならない。
    一 目的
    二 商号
    三 本店及び支店の所在場所
    四 株式会社の存続期間又は解散の事由についての定款の定めがあるときは、その定め
    五 資本金の額
    六 発行可能株式総数
    七 発行する株式の内容(種類株式発行会社にあっては、発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容)
    八 (以下、略)

 

「これって、設立登記に関する規定ですよね」という読者のために、次の条文も引用しておきます。

会社法第915条(変更の登記)
 
  1. 会社において第911条第3項各号又は前三条(※筆者注:前三条は持分会社の登記事項)各号に掲げる事項に変更が生じたときは、2週間以内に、その本店の所在地において、変更の登記をしなければならない。
  2. (以下略)

したがって、設立時にいきなり種類株式を発行する会社にとっても、後日種類株式を発行する会社にとっても、種類株式のうち「登記すべき事項」を定めた根拠条文は、会社法911条3項7号だけということになります。

よって、具体的に「この文言を登記せよ」とか、「この文言は登記できない」という規定はありません。 

 

商業登記法、商業登記規則、商業登記等事務取扱手続準則

残念ながら、これらの法令等でも規定されていません。

 

平成18年3月31日法務省民商第782号法務局長、地方法務局長あて法務省民事局長通達

通達で定まっていました。

(3) 発行する株式の内容等の登記の手続
  ア 登記記録の編成
   

株式会社登記簿の株式・資本区に、(2)の各種類の株式の内容等を記録すべき「発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容」欄のほか、(1)の全部の株式の内容を記録すべき「発行する株式の内容」欄が設けられた(商登規別表第5)。

ただし、譲渡制限株式に係る事項は、改正前と同様に、登記記録中「株式の譲渡制限に関する規定」欄に記録するものとする。

  イ 変更の登記の手続
   

(ア) 登記期間 (略)

(イ) 登記の事由 

      登記の事由は、「会社が発行する株式の内容の変更」、「発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容の変更」、「株式の譲渡制限に関する規定の設定」等である。
    (ウ) 登記すべき事項
     

登記すべき事項は、会社法第107条第2項各号又は第108条第2項各号に定める事項(会社法第322条第2項の定めを設けた場合にあってはその定め、会社法第108条第3項後段の要綱を定めた場合にあってはその要綱)及び変更年月日である。

なお、取得請求権付株式又は取得条項付株式を取得するのと引換えに新株予約権を交付する旨の定めがある場合において、これらの株式の内容を登記するときは、会社法第107条第2項第2号ハ又は第3号ホの新株予約権の内容として、当該新株予約権の名称(当該新株予約権を特定するもの)を登記すれば足りる。取得請求権付株式又は取得条項付株式を取得するのと引換えに社債又は新株予約権付社債を交付する旨の定めがある場合も、同様とする。

    (エ) 添付書面 (略)
    (オ) 定款で各種類の株式の内容の要綱を定めた場合
     

(ア)から(エ)までにより各種類の株式の内容の要綱を登記した場合において、当該種類の株式を初めて発行する時までにその具体的内容を定めたときは、発行する各種類の株式の内容の変更の登記をしなければならない(会社法第911条第3項第7号)。

登記の申請書には、その決議機関に応じ、株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)の議事録(登記簿から決議機関が明らかでない場合には、定款を含む。)を添付しなければならない(商登法第46条、商登規第61条第1項)。 

株式の内容として登記できる事項、できない事項(まとめ)


上記通達によると、株式の内容として登記できる事項は

  • 第107条第2項各号
  • 第108条第2項各号に定める事項
  • 第322条第2項の定めを設けた場合にあってはその定め、
  • 第108条第3項後段の要綱を定めた場合にあってはその要綱

整理してまとめると、下表のとおりです。

項目 登記の要否
剰余金の配当(会108Ⅱ①)
残余財産の分配(会108Ⅱ②)
株主総会において議決権を行使することができる事項(会108Ⅱ③)

株式の譲渡制限:譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること(会107Ⅱ①、108Ⅱ④)

取得請求権:当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること。(会107Ⅱ②、108Ⅱ⑤)

●普通株式への転換請求権も取得請求権として、登記する。

取得条項:当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること。(会107Ⅱ③、108Ⅱ⑥)

一斉取得条項(IPO等の場合)も取得条項として、登記する。

全部取得条項:当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること。(会108Ⅱ⑦)
拒否権:株主総会又は取締役会において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの(会108Ⅱ⑧)
役員選任権:当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること。(会108Ⅱ⑨)
種類株主総会の決議を要しないこと(会322Ⅱ)
定款で定めた種類株式の発行要項(会108Ⅲ後段)
株式の併合・分割を行うときの方法 ×
新株の引受権、新株予約権の引受権などの割当て ×
合併等組織再編に伴う合併当事会社の株式等の割当て(みなし清算条項) ×

具体例による検討


「種類株主総会の決議を要しない」との定め

では、次のような条項を定款に設けた場合、それぞれ登記できますか?できませんか?

4 当会社は、会社法第322条第3項但書その他法令に別段の定めがある場合を除き、A種優先株主による会社法第322条第1項に定める種類株主総会の決議を要しない。

5 当会社は、法令に別段の定めがある場合を除き、会社法第199条第4項、第200条第4項、第238条第4項、第239条第4項及び第795条第4項に規定する事項その他会社法に規定する一切の事項について、A種優先株主による種類株主総会の決議を要しない。

答えは「4項はできる(要する)」「5項はできない」です。

 

その理由を見てみましょう。

 

会社法322条2項は「ある種類株式の内容として」と規定しています。 

会社法911条3項7号は、登記すべき事項として「発行する各種類の株式の内容」と定めていますので、会社法322条2項の内容であれば、登記が必要ということになります。

会社法322条(ある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合の種類株主総会)
  1 種類株式発行会社が次に掲げる行為をする場合において、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該行為は、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が二以上ある場合にあっては、当該二以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会。以下この条において同じ。)の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。

一 次に掲げる事項についての定款の変更(第111条第1項又は第2項に規定するものを除く。)

イ 株式の種類の追加

ロ 株式の内容の変更

ハ 発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加

一の二 第179条の3第1項の承認

二 株式の併合又は株式の分割

三 第185条に規定する株式無償割当て

四 当該株式会社の株式を引き受ける者の募集(第202条第1項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)

五 当該株式会社の新株予約権を引き受ける者の募集(第2041条第1項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)

六 第277条に規定する新株予約権無償割当て

七 合併

八 吸収分割

九 吸収分割による他の会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部の承継

十 新設分割

十一 株式交換

十二 株式交換による他の株式会社の発行済株式全部の取得

十三 株式移転

十四 株式交付

2 種類株式発行会社は、ある種類の株式の内容として、前項の規定による種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができる。

3 第1項の規定は、前項の規定による定款の定めがある種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会については、適用しない。ただし、第1項第1号に規定する定款の変更(単元株式数についてのものを除く。)を行う場合は、この限りでない。

 

一方、 会社法199条第4項、200条第4項、238条第4項、239条第4項及び795条第4項では、いずれも「ある種類株式の内容として」と規定していません。

したがって、これらは「登記すべきではない事項」ということになります。

会社法第199条(募集事項の決定)
  4 種類株式発行会社において、第一項第一号の募集株式の種類が譲渡制限株式であるときは、当該種類の株式に関する募集事項の決定は、当該種類の株式を引き受ける者の募集について当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがある場合を除き、当該種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。
会社法第200条(募集事項の決定の委任)
  4 種類株式発行会社において、第一項の募集株式の種類が譲渡制限株式であるときは、当該種類の株式に関する募集事項の決定の委任は、当該種類の株式について前条第四項の定款の定めがある場合を除き、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。
会社法第238条(募集事項の決定)
  4 種類株式発行会社において、募集新株予約権の目的である株式の種類の全部又は一部が譲渡制限株式であるときは、当該募集新株予約権に関する募集事項の決定は、当該種類の株式を目的とする募集新株予約権を引き受ける者の募集について当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがある場合を除き、当該種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。
会社法第239条(募集事項の決定の委任)
  4 種類株式発行会社において、募集新株予約権の目的である株式の種類の全部又は一部が譲渡制限株式であるときは、当該募集新株予約権に関する募集事項の決定の委任は、前条第4項の定款の定めがある場合を除き、当該種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。
会社法第795条(吸収合併契約等の承認等)
  4 存続株式会社等が種類株式発行会社である場合において、次の各号に掲げる場合には、吸収合併等は、当該各号に定める種類の株式(譲渡制限株式であって、第199条第4項の定款の定めがないものに限る。)の種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が二以上ある場合にあっては、当該二以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会)の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる株主が存しない場合は、この限りでない。

一 吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員に対して交付する金銭等が吸収合併存続株式会社の株式である場合 第七百四十九条第一項第二号イの種類の株式

二 吸収分割会社に対して交付する金銭等が吸収分割承継株式会社の株式である場合 第七百五十八条第四号イの種類の株式

三 株式交換完全子会社の株主に対して交付する金銭等が株式交換完全親株式会社の株式である場合 第七百六十八条第一項第二号イの種類の株式

これらは株式発行に際して既存株主の持ち株比率が薄まるケースですので、投資家への公示のためにも、登記できて然るべきとは思うのですが、法律がこうなっている以上、登記はできません。

登記すべき事項作成時の注意点


定義規定の移記

種類株式の登記事項は、定款から抜粋して(上記のとおり一部は登記できないので)登記事項を作っていくことになります。

そのため、定款に収まっているときは意味が通じても、普通に抜粋しただけでは、意味不明になることがあります。

例えば、定義規定が含まれている定款の条項が、登記事項でない場合、定義規定を登記事項に移記する必要が生じます。

 

定義規定前に定義語を使用しない

定義規定前に、定義語を使わないようにしましょう。

 

条文の引用に注意

「●条に従って」「●条に規定する」などの文言は不可です。

「条」で検索をかけて、●条の部分を移記するなど工夫します。

 

用語の統一

次のような言葉を統一して、使用するよう注意が必要です。

  • 当会社/発行会社
  • 種類株式の名称
  • 価格/価額

MicrosoftWordの「検索」機能などを使って、統一します。

 

半角文字は使えない。

登記すべき事項には、記号を含め半角文字は使えません。

会社等が用意した定款では、半角を利用されていることも多いので、全て全角に引き直します。

数字やアルファベット入力時にはご注意ください。

数字を区切る「,」「.」は注意する。

例えば「12,345」と「12.345」では、異なるためです。

 

計算式は、ある程度、法務局にお任せするつもりで。

種類株の計算式を「登記すべき事項」欄に入力する際には苦労します。

ただし、申請用総合ソフトで、計算式をそれほど綺麗に再現する必要はなく、ある程度、法務局にお任せして大丈夫です。

 

登記情報の1行当たりの文字数は34文字又は35文字です【1】。

一方、申請用総合ソフトの1行当たりに入力できる文字数は、これらより多いです。

したがって、申請用総合ソフトで作成した「登記すべき事項」は、登記情報に反映された時点で改行位置が変わります。申請用総合ソフトで、いくら綺麗に計算式を再現できたところで、登記情報に表示されたときは、崩れてしまいます。法務局も良く分かっていて、良い感じに仕上げてくれます。

よって、申請用総合ソフトで、計算式を綺麗に再現する必要はありません。

 

【1】法務省の注釈では「登記事項証明書等における『新株予約権・・・』の1行当たりの文字数は、34文字です。」とあります(法務省HP「募集新株予約権の発行」ひな形/最終アクセス250608)。

しかしながら、実際に発行された登記情報を数えてみると1行当たりの文字数は、35文字です。

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