有限会社を株式会社に変更する登記手続き(有限会社から株式会社への商号変更)


有限会社は二度と設立することはできません。有限会社のメリットを熟知なさっている会社様は、有限会社のまま(株式会社に変更せずに)続けていらっしゃいます。

ところが、有限会社のままでは、組織再編の受け皿(吸収合併して存続する会社、会社分割して承継する会社)になることができません。そんなときには、組織再編の登記の前に、有限会社を株式会社に変更する登記をします。

この記事では、有限会社を株式会社に組織変更して設立する手続きについて解説しています。

有限会社を有限会社のまま商号変更する場合には、記事「流行る(はやる)商号・屋号の付け方」記事「類似商号・登録商標等の調査は必要か?!」をご参照ください。

もくじ
  1. 通常の商号変更との違い
  2. 株式会社に変更するメリット
  3. 株式会社に変更するデメリット
  4. 有限会社を株式会社に変更する手続きの流れ
  5. 標準的な所要時間
  6. 司法書士の報酬・費用
  7. 人気の関連ページ

通常の商号変更との違い


 

有限会社の商号変更による株式会社の設立

有限会社の(通常の)商号変更

会社形態

有限会社から株式会社に変化する。 変わらない(有限会社のまま)

商号(社名)の変更

会社の種類を表す「有限会社」が「株式会社」に変更する。

他の部分も変更できる。

 

例)有限会社佐藤→サイトー株式会社

「有限会社○○」のうち「○○」の部分のみ変更する。

「有限会社」は変わらない。

必要な決議 株主総会の特別決議【1】 株主総会の特別決議【1】
定款変更 株式会社の規定にあわせて、定款全体を変更 商号の規定のみ
公証人による定款認証 不要 不要
登記の種類

商号変更による有限会社の「解散登記」と

商号変更による株式会社の「設立登記」を

同時に申請する。

商号変更登記
登録免許税

解散登記3万円(レ)

設立登記3万円(ホ)【2】

3万円(ツ)
効力発生日 登記(整備法45Ⅱ) 決議の日

【1】有限会社の特別決議の要件は、次のとおりです。

総株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、当該株主の議決権の4分の3(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数(整備法14Ⅲ)。

【2】資本金の額×1.5/1000(登録免許税法施行規則12に規定する金額〔商号変更前の有限会社の資本金額〕を超える部分は7/1000)で計算した税額が3万円未満なら3万円(登録免許税法17条の3。同法別表第一⑲(一)ホ)。

株式会社に変更するメリット


名前を変えるだけで、難しい手続きなく、株式会社に変更できる。

通常、会社形態を変更する場合には、債権者に対する公告など複雑な手続きを行う必要があります。

ところが、有限会社を株式会社に変更する手続きは、商号を変更するだけ(整備法45Ⅰ)と整理されていますので、株主総会決議だけで、変更することが可能です。

 

司法書士報酬も比較的低額で変更できる。

商号を変更するだけの手続きですので、他の組織再編手続きと比較しても、司法書士報酬は、低額です。

 

取締役1名でも「代表取締役」を名乗れる。

有限会社の場合、取締役が1名しかいない場合、会社の代表者であっても「取締役」としか名乗ることができません。

株式会社の場合、取締役が1名しかいない場合でも、代表取締役と名乗ることができます。

 

合併や会社分割の承継会社になることができる。

有限会社のままでは、吸収合併や会社吸収分割で他社を承継することができません(整備法37)。

有限会社のままでは、株式交換、株式移転、株式交付を利用できません(整備法38)。

株式会社になることで、フルスペックの会社法スキームを利用できるようになります。

 

同時に申請すると安くなる多数の登記がある

一括申請の根拠となる通達「定款の変更と同時に,資本金の額の増加その他の登記事項の変更が生じた場合において,移行による設立の登記の申請書に当該変更後の登記事項が記載されたときは,組織変更による設立の登記と同様に,これを受理して差し支えない。(通達78頁)」

なお、司法書士業界では、おおむね次のように使い分けています。

  • 一括申請(一通の登記申請書にまとめて記載して行う申請)、
  • 同時申請(2通の登記申請書に記載して同時に行う必要のある申請。管轄外本店移転登記、組織変更による設立解散登記など)、
  • 連件申請(同時申請義務のない登記、かつ、一括申請できない登記を連件申請すること。)
登記の種類 一括申請の可否

登録免許税の加算

商号の変更 可能 加算なし
本店移転

不可【1】。

連件申請は可能

別途。
公告をする方法の変更 可能 加算なし
事業目的の変更 可能 加算なし
発行可能株式総数の変更 可能 加算なし

発行済株式の総数並びに種類及び数の変更

可能 加算なし

資本金の額の変更

募集株式の発行

可能 

一定まで加算なし

【2】

減資 可能【3】 加算なし

発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容

(種類株式発行)

可能【4】 加算なし
役員変更 可能 加算なし
取締役等の会社に対する責任の免除に関する規定の設定 可能 加算なし
非業務執行取締役等の会社に対する責任の制限に関する規定設定 可能  加算なし 
支店 可能  加算なし
支配人 可能 別途【5】
取締役会設置会社の定め 可能 加算なし
監査役設置会社の定め 可能 加算なし

【1】一括で登記されると新しくできた株式会社の登記記録から、元の有限会社の登記記録を探すことができなくなるためです。これは管轄内本店移転の場合であっても同じです。

(商業登記実務研究会(編)岩原良夫司法書士(代表)『問答式 商業登記の実務』加除式/2006/2594頁)

【2】資本金の額×1.5/1000(登録免許税法施行規則12に規定する金額〔商号変更前の有限会社の資本金額〕を超える部分は7/1000)で計算した税額が3万円未満なら3万円(登録免許税法17条の3。同法別表第一⑲(一)ホ)。

【3】一般社団法人商業登記倶楽部編『商業・法人登記実務相談事例2800問+200』Q15-132

【4】種類株式発行についても可能(一般社団法人商業登記倶楽部編『商業・法人登記実務相談事例2800問+200』Q15-089)

【5】会社設立と同時に支配人選任登記を申請する場合と同様(登記研究505号質疑応答)。

株式会社に変更するデメリット


最低10年に1回の役員変更登記が必要となり、コストが生じる。

それでも7万円ほど(実費1万5000円、司法書士報酬5万円程)のコストです。

 

二度と有限会社には、戻ることができない。

有限会社設立の根拠法である有限会社法が廃止され(整備法1条)、有限会社は「有限会社」という名前(整備法3Ⅰ)の「株式会社」として存続することとされた(整備法2Ⅰ)ためです。

 

その他

有限会社を株式会社に変更する手続きの流れ


ご相談

最寄りの当グループ事務所にご相談ください。

定款案の作成

類似商号・登録商標の調査

法人実印等の作成

法人の名前が変わりますので、法人印を作り直す法人様が多いです。

有限会社の株主総会を開催します。

次の事項を決議します。

  • 定款変更及び株式会社への移行の件〔特別決議〕【1】
  • 任期切れ役員の選任の件〔普通決議〕【2】
  • その他の事項 

登記申請

商号変更による株式会社の設立登記と、商号変更による有限会社の解散登記とを同時に申請します。

申請書は2件に分かれます。

登記申請した日が、商号変更の効力発生日です(整備法45Ⅱ)。

間違いやすい事項は、下記のとおりです。

  商号変更による株式会社の設立登記 商号変更による有限会社の解散登記
商号 株式会社××【3】 ○○有限会社【4】
本店 神戸市灘区・・・【5】 神戸市灘区・・・【5】
登記の事由 令和□年□月□日【6】商号変更による設立 商号変更による解散【7】
登記申請人 商号変更後の株式会社 商号変更後の株式会社

登記すべき

事項

新会社の登記事項すべてを記載します。

「会社成立の年月日」令和□年□月□日【8】

「取締役・監査役の就任年月日」不要です【9】。

「登記記録に関する事項」令和□年□月□日【10】【11】○○有限会社を商号変更し、移行したことにより設立

下記のみです。

「登記記録に関する事項」令和□年□月□日【12】神戸市灘区・・・【13】株式会社××に商号変更し、移行したことにより解散

その他

就任承諾書は株式会社宛のもの。

印鑑届出が必要(書面による登記の場合)

 

【1】有限会社の株主総会の特別決議は「総株主の半数以上であって、当該株主の議決権の4分の3以上に当たる多数」をもって行います(整備法14Ⅲ)。

【2】就任承諾書の宛先は「商号変更後の会社名」です。

【3】新しく設立する株式会社の商号です。

【4】この部分は見出し(登記官が該当の会社を探す)ですので、有限会社の商号を記載します。

【5】商号変更による設立登記、解散登記と同時に本店移転は申請できませんので、有限会社の従来の本店を記載します。

【6】有限会社の株主総会で商号変更の承認を受けた日を記入します。この日付は登記されませんが、登記期間(事由発生後2週間以内)を計算するために記載が必要です。

【7】こちらは日付は不要です。

【8】会社成立の年月日は、有限会社の成立日を引継ぎます。

【9】登記官が、職権で、すべての取締役及び監査役について就任日を次のとおり記録します(通達78頁参照)。

  • 特例有限会社の取締役又は監査役が商号の変更の時に退任しない場合:有限会社における就任年月日(会社成立時から在任する取締役又は監査役にあっては、会社成立の年月日)を有限会社の登記情報から移記する。
  • 取締役又は監査役が商号の変更の時に就任した場合:商号の変更の年月日を記録しなければならない。

【10】登記申請した日が、商号変更の効力発生日です(整備法45Ⅱ)ので、登記申請日を記入します。

【11】有限会社の本店は不要です。

【12】登記申請した日が、商号変更の効力発生日です(整備法45Ⅱ)ので、登記申請日を記入します。商業登記総覧1800ノ53頁「登記すべき事項」では日付が入っていませんが、入れて欲しいとのことです。

【13】株式会社の本店が必要です。

標準的な所要時間


ご相談の受付から、登記完了まで1か月程度です。

(法務局の事務遅延により、完了が遅延する場合がございます。)

司法書士の報酬・費用


業務の種類

司法書士の報酬・手数料

実費
商号変更による設立登記・解散登記の申請
  • 定款作成
  • 議事録作成
  • 印鑑届出(改印届)
  • 会社印鑑証明取得(1通)
  • 会社登記事項証明取得(3通) 

165,000円(税込)

【1】

65,000円ほど【2】

(登録免許税、登記情報取得費、郵送費など)

日当(上記業務のための移動などに要した時間が1時間を超えるごとに)

11,000円(税込)  

【1】増資・減資を同時に行うときには、別途見積を作成します。

【2】資本金の額×1.5/1000(登録免許税法施行規則12に規定する金額〔商号変更前の有限会社の資本金額〕を超える部分は7/1000)で計算した税額が3万円未満なら3万円(登録免許税法17条の3。同法別表第一⑲(一)ホ)。

Q&A よくあるお問い合わせ


Q.商号変更後の商号は、従前の有限会社の商号と同一である必要がありますか?それとも全く違う商号にできますか?

有限会社を解散し、株式会社を新規設立するという手順を踏むため、商号を新しくすることは可能です。例えば有限会社佐藤を斉藤株式会社に変更することも可能です。


Q.資本金300万円の有限会社ですが、株式会社に変更するにあたり、資本金1000万円まで増資する必要はありますか?

ありません。最低資本金規制は撤廃されているためです。


Q.有限会社が株式会社になる「効力発生日」はいつですか?

商号変更による株式会社の設立登記を申請した日です。なお、会社成立の年月日は、有限会社のものを引き継ぎます。


Q.有限会社が株式会社になると「会社法人等番号」は変わりますか?

変わりません。有限会社のものを引き継ぎます(商業登記規則1の2Ⅱ)。


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