企業組合は、絶対数がとても少ない法人の一形態です。
数が少ないので、支援できる専門家も少ないと思われます。
この記事は、関西の企業組合様を支援した際に作成した備忘録を編集のうえ、公開したものです。
もくじ | |
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〔凡例〕この記事では、次のような法律が出てきます。左列のように略記することがあります。
個人事業者や勤労者などが4人以上集まり、個々の資本と労働を組合に集中して、組合の事業に従事し、組合自体が一つの企業体となって事業活動を行う組合です。他の中小企業組合と異なり、事業者に限らず勤労者や主婦、学生なども組合員として加入することができ、その行う事業が限定されないことから、小規模な事業者が経営規模の適正化を図る場合や安定した自らの働く場を確保するのに適しています。
企業組合は、組合員が共に働くという特色をもっており、そのため組合員に対し、組合の事業に従事する義務が課せられています。(原則として組合員の2分の1以上が組合の事業に従事しなければなりません。さらに、組合の事業に従事する者の3分の1以上は組合員であることが必要です。)
また、組合員は、従来、個人に限られていましたが、組合事業をサポートする法人等も加入できることとなりました。そのため、企業組合は、法人等からの出資を通じて、自己資本の充実や経営能力の向上を図ることが可能となります。
なお、この組合は、事業を行う形態によって次の二つに分けられます。
【集中型】
企業組合の形態の一つは事業所集中型です。これは、事業者でない個人により設立された組合、または個人事業者であった組合員が従来営んでいた事業所を閉鎖して合同した形態をとる組合であり、組合自体が事業活動の主体となります。事業所はおおむね1カ所に集中しているものが多いですが、複数の事業所をもつものもあります。
【分散型】
もう一つの形態は事業所分散型です。これは、個人事業者であった組合員が従来営んでいた事業所を組合の事業所として存続させる方法をとる場合で、仕入や販売については各事業所に委ねて、組合本部は、主として各事業所の売上代金の収納管理や仕入代金の支払等の業務を行います。
(以上、奈良県中小企業団体中央会「組合等の種類と特徴⑸企業組合」https://www.chuokai-nara.or.jp/chuokai/cooperative/union.html/最終アクセス250606)
企業組合は、全国に1651社しかありません(令和4年3月末時点)。
株式会社は、全国に約200万社前後ありますので、如何に少ないかをお分かりいただけると思います。
数の少なさは、専門的な支援をできる専門家が少ないことをも意味しています。
中小企業等協同組合法が、団体の性質や登記手続を規定しています。
「第二章中小企業等協同組合」ー「第一節 通則」ー「第3条 種類」で、第二章の適用を受ける法人の種類が特定されています。
すなわち、中小企業等協同組合法の適用を受ける法人の種類は次のとおりです。
中小企業等協同組合法第3条(種類) | |
中小企業等協同組合(以下「組合」という。)は、次に掲げるものとする。 一 事業協同組合 一の二 事業協同小組合 二 信用協同組合 三 協同組合連合会 四 企業組合 |
中小企業等協同組合法(もくじ) | |
第一章 総則(第一条・第二条)
第二章 中小企業等協同組合 第一節 通則(第三条―第九条) 第二節 事業(第九条の二―第九条の十一) 第三節 組合員(第十条―第二十三条の三) 第四節 設立(第二十四条―第三十二条) 第五節 管理(第三十三条―第六十一条の二) 第六節 解散及び清算並びに合併(第六十二条―第六十九条) 第七節 指定紛争解決機関(第六十九条の二―第六十九条の五) 第三章 中小企業団体中央会 第四章 登記 第一節 総則(第八十三条) 第二節 組合及び中央会の登記(第八十四条―第九十五条) 第三節 登記の嘱託(第九十六条) 第四節 登記の手続等(第九十七条―第百三条) 第五章 雑則(第百四条―第百十一条の二) 第六章 罰則(第百十二条―第百十八条) 第七章 没収に関する手続等の特例(第百十九条―第百二十一条) 附則 |
組合員になってくれる人を4人以上集め、発起人となってもらいます(中小協法24Ⅰ)。
組合員となれる方の資格は、法律で決められています【1.2】。
個人でない関連事業者も組合員になれますが、その人数は総組合員の1/4以下である必要があります。
定款には必ず記載しないといけない事項「絶対的記載事項」、記載しないと効力を発生しない「相対的記載事項」、書くか書かないかは自由な「任意的記載事項」があります【3】ので、漏れなく定めます(中小企業等協同組合法82の4)。
絶対的記事項のうち「事業目的」は、かなり自由です【4】ので、基本的には、何でもできると考えていただいて結構です。
「規約」で定めることが認められる事項については、定款ではなく規約に定めるべきです(中小企業等協同組合法34)。定款変更には行政庁の認可が必要である(中小企業等協同組合法51Ⅱ)のに対して、規約変更は行政庁の認可が不要だからです。
創立総会を開催する旨の公告で、創立総会開催日の2週間前までに公告する必要があります(中小協法27ⅠⅡ)。
創立総会では、次の事項の決定を行います(中小協法27Ⅲ)。
その他にも創立総会のルールがあります(中小協法27Ⅲ~Ⅷ)
設立登記をすることによって、企業組合が成立します(中小協法30)。
【1】中小企業等協同組合法第8条第7項 |
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企業組合の組合員たる資格を有する者は、次に掲げる者であつて定款で定めるものとする。
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中小企業等協同組合法第8条の2 | |
前条第7項第2号又は第3号の組合員(以下「特定組合員」という。)は、企業組合の総組合員の4 分の1を超えてはならない。 |
【2】中小企業等協同組合法施行令第1条(企業組合の組合員たる資格を有する者) |
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【3】定款の絶対的記載事項、相対的記載事項は次のとおりです。
絶対的記載事項 |
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相対的記載事項 |
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【4】企業組合の事業目的
中小企業等協同組合法第9条の10(企業組合) | |
企業組合は、商業、工業、鉱業、運送業、サービス業その他の事業を行うものとする。 |
軽微な定款変更については、認可を要しないとする法人も多いです。
ところが、企業組合について見ると次のとおりです。
原則 | 定款変更は、行政庁の認可を受けなければ効力を生じない(中小企業等協同組合法51Ⅱ)。 |
例外 |
信用協同組合、会員の預金又は定期積金の受入れを行う協同組合連合会の定款変更であれば、内閣府令で定める事項のみ、定款変更に認可を要しない。 |
中小企業協同組合法の適用を受ける団体のうち、信用協同組合と協同組合連合会のみが、定款変更の一部の事項について、行政庁の認可が不要と定められています。
企業組合は、軽微な定款変更であっても全て行政庁の認可が必要です。
中小企業等協同組合法第51条(総会の議決事項) | |
2 定款の変更(信用協同組合及び第9条の9第1項第1号の事業【1】を行う協同組合連合会の定款の変更にあつては、内閣府令で定める事項の変更を除く。)は、行政庁の認可を受けなければ、その効力を生じない。 |
【1】第9条の9第1項第1号の事業とは「一 会員の預金又は定期積金の受入れ」です。
したがって、中小企業等協同組合法第51条第2項を意訳すると次のとおりです。
原則:定款変更は行政庁の認可を受けなければ効力を生じない
例外:信用協同組合、会員の預金又は定期積金の受入れを行う協同組合連合会の定款変更であれば、内閣府令で定める事項のみ、定款変更に認可を要しない。
次の流れで進めます。
企業組合の組合員や役員に関するルールは特殊です。
下記に列挙します。
理事とは、企業組合の業務を執行する役職。
監事とは、企業組合の業務執行している理事の業務執行を監督する役職です。
組合は、理事会の決議で、顧問、参事、会計主任を選任することもできます(中小企業等協同組合法43、44)。
参事を選任したときは登記事項になります(中小企業等協同組合法88)。
中小企業協同組合法35Ⅴ
中小企業協同組合法35Ⅴで「理事は組合員である必要がある」とされ、
同35Ⅱで「理事は3名以上」とされているためです。
中小企業等協同組合法第35条(役員) | |
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中小企業等協同組合法第9条の11 | |
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次の者は、企業組合の役員になることができません(中小企業等協同組合法35)。
次のとおりです(中小企業等協同組合法36)。
権利義務役員制度もあります(中小企業等協同組合法36の2)。
株式会社の場合、その役員を解任しようとするときには、会社法は唯一、次の条文のみです。
つまり、株式会社の場合、解任手続きは、とてもシンプルです。監査役・会計参与の意見陳述権(会社法345)や、監査等委員である取締役の意見陳述権(会社法342の2)はありますが、それでもシンプルです。
会社法第339条(解任) | |
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企業組合の場合には、もっと複雑で特殊です。
下記のとおり進める必要がありますので、ご注意ください。
中小企業等協同組合法第42条(役員の改選) | |
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組合は理事会を置かなければならない(中小企業等協同組合法36の5Ⅰ)とされていますので、代表理事選任議事録に従前代表理事が届出印を押印していないときには、理事全員が実印を押印し、理事全員が個人の印鑑証明書を添付する必要があります(中小企業等協同組合法130→商業登記法158→商業登記規則61Ⅵ)。
また、代表理事の就任承諾書には、個人実印押印+印鑑証明書添付が必要です(中小企業等協同組合法130→商業登記法158→商業登記規則61ⅣⅤ)。
企業組合は、次の理由で解散し、合併を除いて清算手続きに入ります(中小企業協同組合法62)。
一 総会の決議
二 組合の合併
三 組合についての破産手続開始の決定
四 定款で定める存続期間の満了又は解散事由の発生
五 第106条第2項の規定による解散の命令
組合が解散したときは、清算人を清算手続きを行うことになります(中小企業協同組合法69→会社法481)。
一 現務の結了
二 債権の取立て及び債務の弁済
三 残余財産の分配
企業組合が解散を決議するには、総会において、総組合員の半数以上が出席し、その議決権の3分の2以上の多数による議決が必要です(中小企業等協同組合法62Ⅰ①、同53②)。
総代会においては解散の議決をすることは許されません(登記制度研究会〔編集〕『法人登記総覧』新日本法規/2006/4922頁)。
清算人の就任と選任
理事が清算人となります(中小企業等協同組合法68Ⅰ。「就任」と登記します。)が、総会において他人を選任することもできます(中小企業協同組合法68Ⅰただし書。「選任」と登記します)。
総会で清算人1名を選任したときは、その者が代表清算人となりますが、単に資格は「清算人」として、その住所・氏名を登記します。
総会で清算人複数を選任したときは、清算人会を構成し、清算人会で代表清算人を選任することになります。
解散の日から二週間以内に、その旨を行政庁に届け出る必要があります(中小企業等協同組合法62Ⅱ)。
解散決議のために行政庁の認可は原則不要です。
例外:責任共済等の事業を行う組合又は火災等共済組合若しくは火災等共済組合連合会若しくは第9条の9第1項第3号の事業(筆者注:会員が火災共済事業を行うことによつて負う共済責任の再共済)を行う協同組合連合会の解散の決議は、行政庁の認可を受けなければ、その効力を生じない。(中小企業等協同組合法62Ⅳ)
解散から2週間以内に登記が必要です(中小企業等協同組合法91)。
解散の登記の申請書には、解散の事由を証する書面を添付します(中小企業等協同組合法100)。
登録免許税は不要です(∵課税根拠法がありません。)。
定款所定の公告方法による公告が必要です(中小企業等協同組合法69→会社法499)。
必ずしも官報公告を要しません(中小企業等協同組合法69第2文の読替え規定参照)。
「本組合の公告は、本組合の掲示場に掲示し、かつ、必要があるときは、官報に掲載してする。」と定めている場合には、組合の掲示場に掲示すれば足り、解散公告を官報に掲載する必要はないと思われます。「必要があるとき」を「法令上必要があるとき」と理解すれば、法令上、「官報公告」は義務ではないからです。
なお、公告をしたことを証する書面は、登記の添付書類ではありません。
清算が結了したときは、決算報告を承認した総会のの承認の日から2週間以内に、その主たる事務所の所在地において、清算結了の登記をしなければならない(中小企業等協同組合法92①→同69→会社法507Ⅲ))。
清算結了の登記の申請書には、決算報告書の承認があつたことを証する書面を添付しなければならない(中小企業等協同組合法101)。
登録免許税は不要です(∵課税根拠法がありません。)。