遺言解釈(負担付遺贈か条件付遺贈か)


遺言を残される方が増えてきました。それに伴い、解釈に迷う遺言も、増えてきました。

その中の一つに「負担」なのか「条件」なのかが、分かりにくい遺言というものがあります。

「○○を遺贈する。そのかわりに□□してね。」という遺言が代表例で、□□が負担なのか、条件なのかによって、効果が全く異なるのです。

 

この記事では、①負担付遺贈と条件付遺贈の違い、②負担付遺贈と条件付遺贈の見分け方について、「遺言と相続」のプロである司法書士が解説しています。

もくじ
  1. 負担付遺贈と条件付遺贈
  2. 負担付遺贈の「負担」の内容
    1. 法律上の義務としての拘束力のない「負担」の例
    2. 抽象的な負担の定め
    3. 負担が無効の場合、遺贈自体の効力は?
    4. 負担が有効の場合【法律上の効果】
  3. 条件付遺贈の「条件」の内容
    1. 法律上の義務としての拘束力のない「条件」の例
    2. 条件が有効の場合【法律上の効果】
  4. 負担付遺贈か、停止条件付遺贈かの区別
  5. 人気の関連ページ
  6. 参考文献等

負担付遺贈と条件付遺贈


表で比較すると、次のとおりです。

  負担付遺贈 条件付遺贈
内容 受遺者に一定の義務を負担させる遺贈【1】 遺贈の効力発生や消滅が、将来発生するかどうかが不確実な事実(条件)にかかっている遺贈。【3】

遺贈の

効力発生

  • 相続開始により直ちに遺贈される。【2】
  • 停止条件付遺贈の場合:条件が成就したときに遺贈される(民127Ⅰ)。
  • 解除条件付遺贈の場合:相続開始。条件が成就したときに遺贈は失効する(民127Ⅱ)。

受遺者の義務

  • 受遺者は、遺贈の効力発生後、義務を履行する責任がある。
  • 義務の不履行は、遺贈の取り消し原因となる(民1027)。
  • 受遺者には義務なし

【1】「負担付遺贈とは,最広義では,『受遺者に一定の法律上の義務を負担させる遺贈である』(我妻=唄285)。通常は,一定の給付を目的とする債務を負担させるものである。(『新版注釈民法(28)』277頁)」

【2】「受遺者に義務を負担させるだけで、その履行不履行が遺贈の条件となるものではない。受遺者が負担を履行しなくても、その遺贈は効力を発生する。『新版注釈民法(28)』278頁)」

【3】「条件付遺贈とは,遺贈の効力の発生,消滅を将来の不確定な事実(例えば,婚姻や養子縁組)の成否にかからせた遺贈をいいます。条件付遺贈には,停止条件付遺贈と解除条件付遺贈があります。(『新訂 設問解説 相続法と登記』339頁)」

「条件付遺贈とは、遺言者が、遺贈の効力の発生に条件を付けることをいいます。この場合の条件には、停止条件と解除条件があります。(『目的別 相続対策 選択ガイドブック』289頁)」

民法第1002条(負担付遺贈)
 
  1. 負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。
  2. 受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者は、自ら受遺者となることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
民法第1027条(負担付遺贈に係る遺言の取消し)
  負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。

負担付遺贈の「負担」の内容


負担の内容については、必ずしも経済的利益があることを必要とするものではありません。

「遺言執行者となること」や「ある者の看護、世話などをすること」も負担となり得ます。

 

法律上の義務として拘束力のない「負担」の例

次の場合、法律上の義務として拘束力はありません。

  • 公序良俗に反する場合(例:特定の者との婚姻・離婚等することを内容とするもの、犯罪行為、遺産の永久処分禁止)
  • 事実上又は法律上不能である場合
  • 道徳的訓示に過ぎない場合(例:倹約を旨として無駄遣いをしてはならない等)
  • 遺贈物の使途を指定するような場合(例:遺贈された財産を学資に使うべしという内容)

 

抽象的な負担の定め

負担の内容が抽象的である場合、負担(法律上の義務)といえるかが問題となることもあります。

抽象的であるだけで、負担ではないと安易に考えることは、遺言者の意思に反しますので、可能な限り「有効な負担」と考えるべきでしょう。

次のような裁判例があります。

東京高判昭和54年12月20日判タ409号91頁
  近所に住んで贈与者の身辺の世話をすること、贈与者の生活費がなくなつたときはこれを負担することを負担の内容とする死因贈与契約を有効と判断した裁判例
東京地判昭和59年8月31日判タ542号237頁
  「被告は、原告がてると同居することは、負担付贈与契約における負担といえるものではない旨主張するが、従前居住していた住居を引き払つて、肝臓に持病を持つ老令者と同居し、その身の回りの世話をすることは、これをもつて負担付贈与契約における負担とみることに何ら支障のないものというべきである」

負担が無効の場合、遺贈自体の効力は?

遺言解釈の問題となります。すなわち、

  • 負担が無効なら遺贈しなかったと考えられる場合:遺贈そのものが無効
  • そのように考えられない場合:負担だけが無効となり、負担のない単純な遺贈

 

負担が有効の場合【法律上の効果】

  • 相続人や遺言執行者は、負担付遺贈の受遺者に対して、負担の履行を請求できます。
  • 負担の履行によって利益を得る受益者は、直接、負担付遺贈の受遺者に対して、負担の履行を請求できるか否かについて争いがあります【1】。
  • 負担付遺贈の受遺者が負担を履行しない場合、遺贈の取消し原因となります(民1027)。
  • 負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負います(民1002Ⅰ)。

 

【1】通説では、受益者は、受遺者に対して、直接負担の履行請求できないとされています。受益者は、反射的利益を有するにとどまるためとの理由付けがなされています( 『新版注釈民法(28)』281頁(ウ)以下)。

 

以上『事案から学ぶ履行困難な遺言執行の実務』117頁を参照。

条件付遺贈の「条件」の内容


遺贈も法律行為ですので、民法総則の「条件(民127-134)」がそのまま適用されます。

法律上の義務としての拘束力のない「条件」の例

  停止条件 解除条件
条件が法律行為の時に既に成就していた場合(民131Ⅰ) 法律行為は、無条件 法律行為は、無効
条件が成就しないことが法律行為の時に既に確定していた場合(民131Ⅱ) 法律行為は、無効 法律行為は、無条件
不法な条件を付した法律行為(民132前段) 法律行為は、無効 法律行為は、無効
不法な行為をしないことを条件とする法律行為(民132後段) 法律行為は、無効 法律行為は、無効
不能な条件を付した法律行為(133Ⅰ) 法律行為は、無効 法律行為は、無条件
その条件が単に債務者の意思のみに係るとき(民134) 法律行為は、無効

条件が有効の場合【法律上の効果】

こちらも法律で規定されています。

 

民法第127条(条件が成就した場合の効果)
 
  1. 停止条件付法律行為は、停止条件が成就した時からその効力を生ずる。
  2. 解除条件付法律行為は、解除条件が成就した時からその効力を失う。
  3. 当事者が条件が成就した場合の効果をその成就した時以前にさかのぼらせる意思を表示したときは、その意思に従う。
民法第128条(条件の成否未定の間における相手方の利益の侵害の禁止)
  条件付法律行為の各当事者は、条件の成否が未定である間は、条件が成就した場合にその法律行為から生ずべき相手方の利益を害することができない。
民法第129条(条件の成否未定の間における権利の処分等)
  条件の成否が未定である間における当事者の権利義務は、一般の規定に従い、処分し、相続し、若しくは保存し、又はそのために担保を供することができる。
民法第130条(条件の成就の妨害等)
 
  1. 条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる。
  2. 条件が成就することによって利益を受ける当事者が不正にその条件を成就させたときは、相手方は、その条件が成就しなかったものとみなすことができる。 
民法第985条(遺言の効力の発生時期)
 
  1. (略)
  2. 遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。
民法第991条(受遺者による担保の請求)
   受遺者は、遺贈が弁済期に至らない間は、遺贈義務者に対して相当の担保を請求することができる。停止条件付きの遺贈についてその条件の成否が未定である間も、同様とする。

負担付遺贈か、停止条件付遺贈かの区別


ここまで、「負担付遺贈」か「停止条件付遺贈」かによって、効果に大きな違いがあることを見てきました。次は、負担付遺贈か、停止条件付遺贈かの区別の仕方を見ていきましょう。

 

受遺者の行為を内容としない付款は、条件とはなりえても、負担とはなりえない。

負担は遺贈者(遺言者)によって受遺者に課された法律上の義務ないし債務ですから、その内容は受遺者の行為(作為または不作為)だからです。

 

受遺者の行為を内容とする付款は、遺言者の意思(解釈)によって、負担とすることも条件とすることもできる。

負担と条件との区別は,遺言の解釈の問題である。「遺言執行者となること」という付款は,条件であることも負担であることもある。遺言者が受遺者に遺言執行者になる義務を負わせたにすぎない場合は負担であり,遺言執行者となることを遺贈の効力発生の条件にしておれば停止条件である。しかし,負担が先履行義務とされておれば,実際上,停止条件に近いものとなる。遺言執行者とならないかぎり遺贈を受け取ることができないからである。

 

どちらか、分からない場合

どちらか分からない場合には、どうすれば良いのでしょうか?

  • 負担と条件の区別は、遺言の解釈の問題ですが、遺言者の意思が明らかでない場合は、原則的に負担と推定すべきでしょう。遺贈の効力を不確定の状態にしておくことは望ましくないからです(『新版注釈民法(28)』277頁)。
  • これに対し,負担が債務である以上,遺贈者と受遺者の間の債務とする合意の存在が必要であり,合意の存在が不明確な場合は条件と考えるべきだという説がある(松川正毅・遺言意思の研究〔昭58〕163以下)。しかし,単独行為である遺贈の付款が負担か条件かは,遺言者の意思解釈の問題であり,受遺者の意思によって左右されるものではない(『新版注釈民法(28)』277頁)。
  • 筆者(司法書士佐藤大輔)は「遺贈の効力を不確定の状態にしておくことは望ましくない」との一時をもって、負担と解すべきとすることには疑問です。民法も、985条2項において「遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。」と定めることによって、遺贈の効力が不確定な状態にしておくことを認めています。
    また、5年間の分割禁止も認めていますので(①遺言による禁止(民908Ⅰ)、②相続人全員による合意による禁止(民908Ⅱ)、⑶家庭裁判所による禁止(民908Ⅴ))、少なくとも5年程度で確定しそうな条件であれば、「条件」と解釈する余地もあろうかと思います。

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参考文献


この記事の執筆のために下記文献を参照しました。

  • 中川善之助 (元東北大学名誉教授)・加藤永一 (東北大学名誉教授)/編集『新版注釈民法(28)相続⑶ 遺言・遺留分 -- 960条~1044条 補訂版【復刊版】』有斐閣/2010年
  • 幸良秋夫/著『新訂 設問解説 相続法と登記』日本加除出版/2018年
  • 編集/成田一正(公認会計士・税理士)、岡田洋介(弁護士) 著/中島孝一(税理士)、上原顕(税理士)、高野雅之(税理士)、若山寿裕(税理士)、木村英幸(税理士)、橋本達広(税理士)、佐久間美亜(税理士)、篠原寛顕(税理士)『目的別 相続対策 選択ガイドブック』新日本法規出版/2021年
  • 遺言・相続実務問題研究会(編集)、野口大弁護士・藤井伸介弁護士(編集代表)『事案から学ぶ履行困難な遺言執行の実務ー遺言作成後の事情変更、解釈の難しい遺言への対応ー』日本加除出版/2023年