遺言解釈(負担付遺贈を受遺者が放棄したとき)


「Aさんに○○の財産を遺贈します。そのかわり、Aさんは、Bさんに□□してね」という遺贈を負担付遺贈といいます。

Aさんが遺産を要らないと言った場合、Bさんはどうすれば良いでしょうか?

 

この記事では、司法書士が、一般の方むけに、負担付遺贈が放棄された場合、遺産や負担がどうなるかを解説しています。

もくじ
  1. 具体例
  2. 2つの疑問
  3. 答えあわせ
    1. 5000万円の遺贈はどうなるのか?
    2. 「毎月20万円渡す」という負担はどうなるのか?
    3. まとめ
  4. 少し細かいけれど、重要なお話し
    1. Aさんが、負担付遺贈を放棄する方法
    2. Bさんが、自ら受遺者となる方法
  5. 人気の関連ページ
  6. 参考文献等

具体例


 
  1. 「私は、Aさんに対して、私の○○銀行の預金から5000万円を遺贈します。そのかわり、Aさんは、私の妻Bに対して、その生活費として毎月20万円を渡してください。」という遺言を残して、被相続人が死亡しました。
  2. Aさんは、この遺贈を受け取らない(遺贈放棄)ことにして、Bさんに伝えました。

 

この場合、Bさんは、どうすれば良いのでしょうか?

 

2つの疑問


次の二つの疑問があります。

  • 遺産5000万円は、誰が受け取ることができるのか?
  • Bさんは誰から毎月20万円を受け取ることができるのか?

答えあわせ


5000万円の遺贈はどうなるのか?

その答えは、法律に書いてあります(民法1002条2項)。

民法第1002条(負担付遺贈)
 
  1. (略)
  2. 受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者は、自ら受遺者となることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

法律では、Aさんのことを「受遺者(遺贈を受け取る者)」、Bさんのことを「負担の利益を受けるべき者(受益者)」と表現しています。

したがって、法律を分かりやすく書き直しますと、次のとおりです。

「Aさんが遺贈を放棄したときは、Bさんは、自ら遺贈を受け取ることができる。」

 

つまり、Bさんは、遺言者の遺産からAさんが受け取る筈だった5000万円を受け取ることができます。

 

 

「毎月20万円渡す」という負担はどうなるのか?

この場合、Bさんは、自分から自分に対して、毎月20万円を渡さなければならない負担(義務)を負うのでしょうか?

 

Bさんは、次の二つの立場を持つことになります。

  • 受遺者(20万円支払う義務を負う人)の立場。法律上「債務者」といいます。
  • 受益者(20万円もらう権利を持つ人)の立場。法律上「債権者」といいます。

 

そして、同じ方が、債権者と債務者の地位をもったときには、その債権は混同(民法520条)が発生し、消滅します(民法520条)。

民法第520条(混同)
  債権及び債務が同一人に帰属したときは、その債権は、消滅する。ただし、その債権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。

すなわち、Bさんが20万円を支払う義務も、Bさんが20万円をもらう権利も消滅することになります。

まとめ

  • 遺産5000万円は、Bさんが受け取ることができる。
  • この場合、Bさんが20万円を支払う義務も、Bさんが20万円をもらう権利も消滅する。

少し細かいけれど、重要なお話し


Aさんが、負担付遺贈を放棄する方法

遺言の記載によって方法が異なります。

  • 遺贈が「Aさんに全財産を遺贈する。そのかわり、Aさんは、私の妻Bに対して、その生活費として毎月20万円を渡してください。」の場合には、包括的に遺贈していますので、『包括遺贈』といいます。包括遺贈を放棄する方法は、遺言の効力発生後3か月以内に、家庭裁判所に対して「包括遺贈の放棄申述」を行います。
  • 遺贈が「Aさんに私の○○銀行の預金から5000万円を遺贈します。そのかわり、Aさんは、私の妻Bに対して、その生活費として毎月20万円を渡してください。」の場合には、特定の財産のみを遺贈していますので、『特定遺贈』といいます。特定遺贈を放棄する方法は、法律で定められていません(様式も、期限も定められていません。)。後日揉めないように、「早い目に、書面で」Bさんに通知しておくのがよいでしょう。

さらに詳しい情報は、記事「遺贈の放棄|遺言で受けた贈与(遺贈)を放棄する方法は、遺言の書き方によって異なります。」を参照ください。

Bさんが、自ら受遺者となる方法

民法1002条2項をもう一度、よく見てください。

「自ら受遺者となることができる」と書いてあります。

民法第1002条(負担付遺贈)
 
  1. (略)
  2. 受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者は、自ら受遺者となることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

Aさんが負担付遺贈を放棄した場合において、Bさんが自ら受遺者となりたいときには、Bさんは何をすれば良いのでしょうか?

次の二つの考え方が成り立ちそうです。

  • 「自ら受遺者となる」旨の受益の意思表示をする。
  • Aさんが負担付遺贈を放棄した時点で、当然に、Bさんは、何もしないで自動的に「自ら受遺者となる」。受遺者になりたくないときは遺贈の放棄を行う。

通説は、後者(当然、自動的に自ら受遺者となる)だということです。

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参考文献


この記事の執筆のために下記文献を参照しました。

  • 中川善之助 (元東北大学名誉教授)・加藤永一 (東北大学名誉教授)/編集『新版注釈民法(28)相続⑶ 遺言・遺留分 -- 960条~1044条 補訂版【復刊版】』有斐閣/2010年
  • 幸良秋夫/著『新訂 設問解説 相続法と登記』日本加除出版/2018年
  • 編集/成田一正(公認会計士・税理士)、岡田洋介(弁護士) 著/中島孝一(税理士)、上原顕(税理士)、高野雅之(税理士)、若山寿裕(税理士)、木村英幸(税理士)、橋本達広(税理士)、佐久間美亜(税理士)、篠原寛顕(税理士)『目的別 相続対策 選択ガイドブック』新日本法規出版/2021年
  • 遺言・相続実務問題研究会(編集)、野口大弁護士・藤井伸介弁護士(編集代表)『事案から学ぶ履行困難な遺言執行の実務ー遺言作成後の事情変更、解釈の難しい遺言への対応ー』日本加除出版/2023年