株式会社・有限会社の株券発行会社への移行登記(旧有限会社法、整備法、現行法)


かつて、全ての株式会社が株券発行会社でした。一方、全ての有限会社は株券を発行できませんでした。現在では、株式会社も有限会社も、定款で定めれば株券を発行することができます。

 

この記事では、法改正の変遷をたどりながら、株式会社、有限会社における株券発行について、司法書士が解説しています。

もくじ
  1. 旧法の時代
    1. 株式会社の場合(旧・商法)
    2. 有限会社の場合(旧・有限会社法)
  2. 整備法による変更
    1. 既存株式会社の取扱い
    2. 既存有限会社の取扱い
  3. 現行会社法
    1. 株式会社の場合
    2. 特例有限会社の場合
  4. まとめ
  5. 司法書士の報酬・費用
  6. 人気の関連ページ

〔凡例〕この記事では、次の法令が出てきます。法令名が長いときは、次のとおり略記します。

  • (旧)商法
  • (旧)有限会社法:整備法1③の規定により平成18年廃止
  • 整備法:会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成十七年法律第八十七号)
  • 会社法(平成十七年法律第八十六号)

旧法の時代


株式会社の場合(旧・商法)

かつて株式会社には、株券発行義務がありました(平成16.9.30までの旧商法226Ⅰ)。

平成16年改正により例外として株券不発行が認められるようになりました(平成16.10.1以降の旧商法226Ⅰ)。

また「株券発行の有無」は登記事項ではありませんでした(旧商法188)

旧商法226条

(昭和26.7.1から平成16.9.30まで)

 

旧商法226条

(平成16.10.1から平成18.4.30まで)

 
  1. 会社ハ成立後又ハ新株ノ払込期日後遅滞ナク株券ヲ発行スルコトヲ要ス
  2. 株券ハ会社ノ成立後又ハ新株ノ払込期日ニ非ザレバ之ヲ発行スルコトヲ得ズ
  3. 前項ノ規定ニ違反シテ発行シタル株券ハ無効トス但シ株券ヲ発行シタル者ニ対スル損害賠償ノ請求ヲ妨ゲズ
 ▶  
  1. 会社ハ成立後又ハ新株ノ払込期日以後遅滞ナク株券ヲ発行スルコトヲ要ス但シ株式ノ譲渡ニ付取締役会ノ承認ヲ要スル旨ノ定款ノ定アル場合ニ於テ株主ヨリ株券発行ノ請求ナキトキハ此ノ限ニ在ラズ
  2. 株券ハ会社ノ成立後又ハ新株ノ払込期日以後ニ非ザレバ之ヲ発行スルコトヲ得ズ
  3. (略。変更なし)

有限会社の場合(旧・有限会社法)

かつて有限会社は、株券を発行することができませんでした。

(旧)有限会社法第21条
  有限会社ハ持分ニ付指図式又ハ無記名式ノ証券ヲ発行スルコトヲ得ズ

整備法による変更


平成18年会社法が施行され、それに伴って関係する法律が整備されました。

株式会社は、株券不発行会社が原則になりました。

株券発行会社は例外ですので、その場合には「株券発行会社である」旨が登記すべき事項になりました(会社法911Ⅲ⑩)。

 

既存株式会社の取扱い

平成18年会社法施行時に存在していた既存の株式会社は、株券発行会社であるとみなされ(整備法76Ⅳ)、その旨が職権で登記されました(当該株式会社について株券を発行しない旨の登記がある場合を除く。整備法136Ⅻ③)。

整備法第76条(株式会社の定款の記載等に関する経過措置
 
  1. 旧株式会社及び第66条第1項後段に規定する株式会社の定款における旧商法第166条第1項各号(第6号を除く。)及び第168条第1項各号に掲げる事項の記載又は記録は、これに相当する新株式会社の定款における会社法第27条各号(第4号を除く。)及び第28条各号に掲げる事項並びに同法第29条に規定する事項〔筆者注:会社法27、28、29は定款記載事項〕の記載又は記録とみなす。
  2. 新株式会社(委員会設置会社を除く。)の定款には、取締役会及び監査役を置く旨の定めがあるものとみなす。
  3. 旧株式会社若しくは第66条第1項後段に規定する株式会社の定款に旧商法第204条第1項ただし書の規定による定めがある場合又は施行日以後に第104条の規定により従前の例により旧商法第348条の規定による定款の変更をした場合における新株式会社の定款には、その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該新株式会社の承認を要する旨の定め及び会社法第202条第3項第2号に規定する定めがあるものとみなす。
  4. 旧株式会社又は第66条第1項後段に規定する株式会社の定款に株券を発行しない旨の定めがない場合における新株式会社の定款には、その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定めがあるものとみなす。

整備法において「旧株式会社」とは「施行日前に第1条第5号の規定による廃止前の会社の配当する利益又は利息の支払に関する法律第1項の規定により同項に規定する株主が旧商法の規定による株式会社であってこの法律の施行の際現に存するもの」と定義されています(整備法47)。

既存有限会社の取扱い

一方、会社法の施行にともない、有限会社法は廃止されました(整備法1③)。

また、有限会社法廃止の時点で存在していた有限会社は、「特例有限会社」という「株式会社」の一形態として存続することになりました(整備法2)。

 

株券発行会社か株券不発行会社か

整備法76条4項は、株券発行会社とみなす会社の種類として、有限会社を挙げていません。

したがって、旧有限会社法21条の規定のとおり、特例有限会社は株券不発行会社のままです。

現行法


株式会社の場合

株券を発行しない株式会社であっても、定款変更をすることにより、株券を発行することができます(会社法214)。

(なお、筆者は、種々の理由から、株券発行会社へ移行することには、反対です。)

会社法第214条(株券を発行する旨の定款の定め)
  株式会社は、その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨を定款で定めることができる。

 

逆に、株券発行会社であっても、所定の手続を経ることにより、株券を廃止することもできます(会社法218)。 

会社法第218条(株券を発行する旨の定款の定めの廃止

 
  1. 株券発行会社は、その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めを廃止する定款の変更をしようとするときは、当該定款の変更の効力が生ずる日の二週間前までに、次に掲げる事項を公告し、かつ、株主及び登録株式質権者には、各別にこれを通知しなければならない。
    一 その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めを廃止する旨
    二 定款の変更がその効力を生ずる日
    三 前号の日において当該株式会社の株券は無効となる旨
  2. 株券発行会社の株式に係る株券は、前項第二号の日に無効となる。
  3. 第一項の規定にかかわらず、株式の全部について株券を発行していない株券発行会社がその株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めを廃止する定款の変更をしようとする場合には、同項第二号の日の二週間前までに、株主及び登録株式質権者に対し、同項第一号及び第二号に掲げる事項を通知すれば足りる。
  4. 前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。
  5. 第一項に規定する場合には、株式の質権者(登録株式質権者を除く。)は、同項第二号の日の前日までに、株券発行会社に対し、第百四十八条各号に掲げる事項を株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができる。

特例有限会社の場合

現在、有限会社は、株式会社の一形態です。

そして、特例有限会社が使えない株式会社の手続(スキーム)は、整備法に規定されています。

整備法には、特例有限会社が株券を発行することができないとの規定はありません。

したがって、特例有限会社であっても、定款を変更し、株券を発行する旨を規定することにより、株券を発行することができます

(筆者は、種々の理由から、株券発行会社へ移行することには、反対です。)

 

一度、株券発行会社になった有限会社も、所定の手続を経ることにより、株券を廃止することもできます(会社法218)。 

まとめ


株式会社

  旧商法(~平成16年) 平成16年改正商法 会社法(平成18年~)
原則 株券発行が原則 株券発行が原則 不発行が原則
不発行の可否 負荷 定款で可能 定款で発行すると、定めない限り不発行
登記 なし なし 発行する場合のみその旨を登記

特例有限会社

  旧有限会社(~平成18年) 会社法(平成18年~)
原則 株券を発行できない 不発行が原則
不発行の可否 株券を発行できない 定款で発行すると、定めない限り不発行
登記 なし 発行する場合のみその旨を登記

司法書士の報酬・費用


業務の種類 司法書士の手数料 実費

株券発行会社への移行登記

  • 議事録作成
  • 登記申請
33,000円(税込)

免許税30,000円(ツ)

登記情報

郵送費

Q&A よくあるお問い合わせ


Q.当社は、平成18年以前設立の有限会社です。当社は、株券不発行会社である必要があるのですが、会社の定款を見ても、登記事項証明書、閉鎖登記事項証明書を見ても、株券不発行会社になった形跡がありません。

有限会社は、旧有限会社法の時代には株券を発行することができませんでした。

また、会社法になってからも、株式会社、有限会社ともに、株券は不発行が原則です。

したがって、有限会社の場合には、株式会社と異なり、一度も株券発行会社になったことはないと思われます。したがって、株券不発行会社になった形跡がないのも当然です。(令和7年8月・あなまち司法書士事務所・司法書士佐藤大輔)


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