かつて、全ての株式会社が株券発行会社でした。一方、全ての有限会社は株券を発行できませんでした。現在では、株式会社も有限会社も、定款で定めれば株券を発行することができます。
この記事では、法改正の変遷をたどりながら、株式会社、有限会社における株券発行について、司法書士が解説しています。
もくじ | |
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〔凡例〕この記事では、次の法令が出てきます。法令名が長いときは、次のとおり略記します。
かつて株式会社には、株券発行義務がありました(平成16.9.30までの旧商法226Ⅰ)。
平成16年改正により例外として株券不発行が認められるようになりました(平成16.10.1以降の旧商法226Ⅰ)。
また「株券発行の有無」は登記事項ではありませんでした(旧商法188)
旧商法226条 (昭和26.7.1から平成16.9.30まで) |
旧商法226条 (平成16.10.1から平成18.4.30まで) |
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かつて有限会社は、株券を発行することができませんでした。
(旧)有限会社法第21条 | |
有限会社ハ持分ニ付指図式又ハ無記名式ノ証券ヲ発行スルコトヲ得ズ |
平成18年会社法が施行され、それに伴って関係する法律が整備されました。
株式会社は、株券不発行会社が原則になりました。
株券発行会社は例外ですので、その場合には「株券発行会社である」旨が登記すべき事項になりました(会社法911Ⅲ⑩)。
平成18年会社法施行時に存在していた既存の株式会社は、株券発行会社であるとみなされ(整備法76Ⅳ)、その旨が職権で登記されました(当該株式会社について株券を発行しない旨の登記がある場合を除く。整備法136Ⅻ③)。
整備法第76条(株式会社の定款の記載等に関する経過措置) |
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整備法において「旧株式会社」とは「施行日前に第1条第5号の規定による廃止前の会社の配当する利益又は利息の支払に関する法律第1項の規定により同項に規定する株主が旧商法の規定による株式会社であってこの法律の施行の際現に存するもの」と定義されています(整備法47)。
一方、会社法の施行にともない、有限会社法は廃止されました(整備法1③)。
また、有限会社法廃止の時点で存在していた有限会社は、「特例有限会社」という「株式会社」の一形態として存続することになりました(整備法2)。
株券発行会社か株券不発行会社か
整備法76条4項は、株券発行会社とみなす会社の種類として、有限会社を挙げていません。
したがって、旧有限会社法21条の規定のとおり、特例有限会社は株券不発行会社のままです。
株券を発行しない株式会社であっても、定款変更をすることにより、株券を発行することができます(会社法214)。
(なお、筆者は、種々の理由から、株券発行会社へ移行することには、反対です。)
会社法第214条(株券を発行する旨の定款の定め) | |
株式会社は、その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨を定款で定めることができる。 |
逆に、株券発行会社であっても、所定の手続を経ることにより、株券を廃止することもできます(会社法218)。
会社法第218条(株券を発行する旨の定款の定めの廃止) |
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現在、有限会社は、株式会社の一形態です。
そして、特例有限会社が使えない株式会社の手続(スキーム)は、整備法に規定されています。
整備法には、特例有限会社が株券を発行することができないとの規定はありません。
したがって、特例有限会社であっても、定款を変更し、株券を発行する旨を規定することにより、株券を発行することができます。
(筆者は、種々の理由から、株券発行会社へ移行することには、反対です。)
一度、株券発行会社になった有限会社も、所定の手続を経ることにより、株券を廃止することもできます(会社法218)。
旧商法(~平成16年) | 平成16年改正商法 | 会社法(平成18年~) | |
原則 | 株券発行が原則 | 株券発行が原則 | 不発行が原則 |
不発行の可否 | 負荷 | 定款で可能 | 定款で発行すると、定めない限り不発行 |
登記 | なし | なし | 発行する場合のみその旨を登記 |
旧有限会社(~平成18年) | 会社法(平成18年~) | |
原則 | 株券を発行できない | 不発行が原則 |
不発行の可否 | 株券を発行できない | 定款で発行すると、定めない限り不発行 |
登記 | なし | 発行する場合のみその旨を登記 |
業務の種類 | 司法書士の手数料 | 実費 |
株券発行会社への移行登記
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33,000円(税込) |
免許税30,000円(ツ) 登記情報 郵送費 |
有限会社は、旧有限会社法の時代には株券を発行することができませんでした。
また、会社法になってからも、株式会社、有限会社ともに、株券は不発行が原則です。
したがって、有限会社の場合には、株式会社と異なり、一度も株券発行会社になったことはないと思われます。したがって、株券不発行会社になった形跡がないのも当然です。(令和7年8月・あなまち司法書士事務所・司法書士佐藤大輔)