通常、一つの建物では、その所在と建物番号は、一致していることが多いです。
ところが、古い建物の場合には、一致していないこともあります。
不動産を売却するときや、相続登記をする際に発覚することが多いです。
この記事では、このような状態が発生する原因をご説明したのち、その解消方法もご説明します。
なお、表題登記(土地建物の物理的な形状等の登記)は、私たち司法書士ではなく、土地家屋調査士の専門分野です。
もくじ | |
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〔凡例〕この記事では、次の法令が出てきます。法令名が長いときは、次のとおり略記します。
下図は、建物の登記事項証明書の「表題部」を再現したものです。
上から3行目に「所在」欄、上から4行目に「家屋番号」欄があります。
「所在」も「家屋番号」も、不動産登記上で土地や建物を識別するために付けられる番号です。
【所在】は、建物が建っている土地の番号です。下図では、所在欄には「10番地1」「11番地1」が入っていますので、この建物が「10番1」「11番1」の2筆の土地上に建っている(又はかつて建っていた)ことが分かります。
【家屋番号】は建物の番号です。下図では、家屋番号欄に「9番」が入っています。
そして、所在(10番地1、11番地1)と家屋番号(9番)で不一致が生じています。
どうして、この建物は、所在と家屋番号が不一致することになったのでしょうか?
その理由を理解するためには、まず「所在」を付けるときのルール、「家屋番号」を付けるときのルールを確認する必要があります。
ある建物を特定したい場合、不動産登記では建物の「所在」と「家屋番号」で特定します。
「所在」を見ると、建物が、どの土地の上に建っているかが分かります。
「所在」をつける不動産登記法上のルールを確認します。
新築建物の「表題部」を作成するときにつけられる「所在」は、次のルールに則っています。
不動産登記法第44条(建物の表示に関する登記の登記事項) | |
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不動産登記事務取扱手続準則第88条(建物の所在の記録方法) | |
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<事例1:土地を分筆した場合> | |
1筆の土地に境界を入れて2筆以上に(物理的に)分けることを「分筆」といいます。例えば、
「地番50番」の土地上に「所在○○町50番地 家屋番号50番」のA建物が建っていた場合に、「地番50番」の土地を2筆に分筆すると「地番50番1」と「地番50番2」の2筆ができあがります(不登準則67Ⅰ④)。 その結果、A建物の所在地は、正確には「所在50番地1」か「所在50番地2」になります。 この(土地)分筆登記を申請すると、A建物の「所在」はどうなるのでしょうか? |
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<事例2:土地を合筆した場合> |
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2筆以上の土地を合体させて1筆の土地にすることを「合筆」といいます。例えば、 「地番60番1」の土地上に「所在○○町60番地1 家屋番号60番1」のB建物が 「地番63番」の土地上に「所在○○町63番地 家屋番号63番」のC建物が それぞれ建っていた場合において、「地番60番1」と「地番63番」の土地を合筆すると「地番60番1」の土地ができあがります(不登準則67Ⅰ⑥)。 その結果、B建物の所在地は「60番地1」と正確なままですが、C建物の所在地は、正確には「60番地1」になります。 この(土地)合筆登記を申請すると、C建物の「所在」はどうなるのでしょうか? |
仮に、次のような規定があれば「土地」の分筆・合筆登記を申請したときに「建物」の所在も変わることになります。
ところが、不動産登記のルールを定めた4つの法令等(すなわち、不登法、不登令、不登規則、不登準則)には、上記のような規定はありません。
すなわち、土地を分筆又は合筆しても、その上に建っている「建物の所在(地番)」は変更されません。
新築建物の「表題部」を作成するときにつけられる「家屋番号」は、次のルールに則っています。
不動産登記法第45条(家屋番号) | |
登記所は、法務省令で定めるところにより、一個の建物ごとに家屋番号を付さなければならない。 |
不動産登記規則第112条(家屋番号) | |
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不動産登記事務取扱手続準則第79条(家屋番号の定め方) | |
家屋番号は、規則第112条に定めるところによるほか、次に掲げるところにより定めるものとする。
① 1筆の土地の上に1個の建物が存する場合には、敷地の地番と同一の番号をもって定める(敷地の地番が支号の付されたものである場合には、その支号の付された地番と同一の番号をもって定める。)。 ② 1筆の土地の上に2個以上の建物が存する場合には、敷地の地番と同一の番号に、1、2、3の支号を付して、例えば、地番が「5番」であるときは「5番の1」、「5番の2」等と、地番が「6番1」であるときは「6番1の1」、「6番1の2」等の例により定める。 ③ 2筆以上の土地にまたがって1個の建物が存する場合には、主たる建物(附属建物の存する場合)又は床面積の多い部分(附属建物の存しない場合)の存する敷地の地番と同一の番号をもって、主たる建物が2筆以上の土地にまたがる場合には、床面積の多い部分の存する敷地の地番と同一の番号をもって定める。なお、建物が管轄登記所を異にする土地にまたがって存する場合には、管轄指定を受けた登記所の管轄する土地の地番により定める。 ④ 2筆以上の土地にまたがって2個以上の建物が存する場合には、第2号及び前号の方法によって定める。例えば、5番及び6番の土地にまたがる2個の建物が存し、いずれも床面積の多い部分の存する土地が5番であるときは、「5番の1」及び「5番の2」のように定める。 ⑤ 建物が永久的な施設としてのさん橋の上に存する場合又は固定した浮船を利用したものである場合には、その建物に最も近い土地の地番と同一の番号をもって定める。 ⑥ 一棟の建物の一部を1個の建物として登記する場合において、その一棟の建物が2筆以上の土地にまたがって存するときは、一棟の建物の床面積の多い部分の存する敷地の地番と同一の番号に支号を付して定める。 ⑦ 家屋番号が敷地の地番と同一である建物の敷地上に存する他の建物を登記する場合には、敷地の地番に2、3の支号を付した番号をもって定める。この場合には、最初に登記された建物の家屋番号を必ずしも変更することを要しない。 ⑧ 建物の分割又は区分の登記をする場合には、前各号に準じて定める。 ⑨ 建物の合併の登記をする場合には、合併前の建物の家屋番号のうち上位のものをもって合併後の家屋番号とする。ただし、上位の家屋番号によることが相当でないと認められる場合には、他の番号を用いても差し支えない。 ⑩ 敷地地番の変更又は更正による建物の不動産所在事項の変更の登記又は更正の登記をした場合には、前各号に準じて、家屋番号を変更する。 |
<事例1:土地を分筆した場合> | |
1筆の土地に境界を入れて2筆以上に(物理的に)分けることを「分筆」といいます。例えば 「地番50番」の土地上に「所在○○町50番地 家屋番号50番」のA建物が建っていた場合に、「地番50番」の土地を2筆に分筆すると「地番50番1」と「地番50番2」の2筆ができあがります(不登準則67Ⅰ④)。その結果、A建物の所在地は、正確には「所在50番地1」か「所在50番地2」になります。 この(土地)分筆登記を申請しても、A建物の「所在」は自動的に変わらないことを先ほど見てきました。 A建物の家屋番号は、正確には「50番1」か「50番2」でしょう(不登準則79Ⅰ①)。 それでは建物の「家屋番号」は変わるのでしょうか? |
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<事例2:土地を合筆した場合> |
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2筆以上の土地を合体させて1筆の土地にすることを「合筆」といいます。 「地番60番1」の土地上に「所在○○町60番地1 家屋番号60番1」のB建物が 「地番63番」の土地上に「所在○○町63番地 家屋番号63番」のC建物が それぞれ建っていた場合において、「地番60番1」と「地番63番」の土地を合筆すると「地番60番1」の土地ができあがります(不登準則67Ⅰ⑥)。その結果、B建物の所在地は「60番地1」と正確なままですが、C建物の所在地は、正確には「60番地1」になります。 この(土地)合筆登記を申請しても、C建物の「所在」は自動的に変わらないことを先ほど見てきました。 C建物の家屋番号は、正確には「60番1」又は「60番の2」になる筈ですが、C建物の家屋番号は自動的に変わるのでしょうか?
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仮に、次のような規定があれば「土地」の分筆・合筆登記を申請したときに「建物」の家屋番号も変わることになります。
ところが、不動産登記のルールを定めた4つの法令等(すなわち、不登法、不登令、不登規則、不登準則)には、上記のような規定はありません。
すなわち、土地を分筆又は合筆しても、その上に建っている「建物の家屋番号」は変更されません。
所在と家屋番号が、一致しない建物が発生する主な理由は次の通りです。
残念ながら、現在でも発生します。
上記のとおり、土地の分筆や合筆をしても、建物の所在や家屋番号が自動的に変更される訳ではないからです。
建物の「所在」と「家屋番号」との不一致が発生した原因は、次のような方法で特定することができます。
下記情報を取得し、比較することで原因が明らかになります。
【1】全ての建物に建物図面がある訳ではありません。
「建物図面」は、昭和35年4月1日施行の不動産登記法改正(現行不動産登記法14Ⅲ)により、同日以降に申請する建物表題に関する登記では添付が義務づけられました。実際には、経過措置の関係で概ね昭和40年以降の建物の場合には、建物図面があるようです。
「1.図面等で確認する方法」では判然としない場合の方法です。
土地建物の位置関係など、形(かたち)に関する専門家は、土地家屋調査士(国家資格)です。
土地家屋調査士に現地の確認をしてもらうことによって、確定できます。
建物が現存している場合には「所在地番変更」等の登記を申請することで是正されます。
ただし、建物所有者しか申請できません。
建物が現存していない場合には「建物滅失登記」を申請することで是正されます。
場合分けして考えてみましょう。
登記簿上では「貴方の所有する建物が、他人の土地に建っている」ように見える状態です。
建物が現存しているか否かによって対処方法が異なります。
登記簿上では「第三者の所有する建物が、あなたの土地に建っている」ように見える状態です。
建物が現存しているか否かによって対処方法が異なります。
建物の表題に記載された事項に変更があったときには、建物の所有者は、1か月以内に変更登記申請義務を負うと定められています(不登法51)し、変更登記義務を怠ったときには10万円以下の過料に処すと定められています(不登法164)。
ただし、必ずしも土地所有者と建物所有者は一致しません。土地所有者が分筆や合筆をしたために建物に「所在と家屋番号の不一致」が発生した場合に、建物所有者に対して「是正する(所在地番等の変更)登記を申請せよ」というのも酷かもしれません。
不動産登記法第51条(建物の表題部の変更の登記) | |
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不動産登記法第164条(過料) | |
第36条、第37条第1項若しくは第2項、第42条、第47条第1項(第49条第2項において準用する場合を含む。)、第49条第1項、第3項若しくは第4項、第51条第1項から第4項まで、第57条、第58条第6項若しくは第7項、第76条の2第1項若しくは第2項又は第76条の3第4項の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する。 |
「職権ではできない」とする法務局もある模様です。
不動産登記規則第96条 (職権による表示に関する登記の手続) | |
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仮にできたとしても、判決による変更登記の単独申請が認められるかは別問題ですので、提訴前に、法務局との事前協議は必要不可欠です。
原則 | 不可 |
例外
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実体を正確に表現していない表示登記の存在によって、自己の権利を侵害されている者は、表示登記請求権を行使できる。 登記官が職権ですることができないのか、判決を取得すれば不動産登記法63条(判決登記)を類推適用して登記してくれるのか、登記官と事前に調整することが必須です。 |
建物が現存している場合:土地所有者が土地を売却したい場合において、建物所有者が「所在地番変更」等の登記を申請してくれないときには、問題が生じることがあります。
土地を買いたい方が、建物登記の存在を嫌がって購入してくれない可能性があるからです。
建 物 所 有 者 |
貴 方 |
建物が現存しない場合 | 貴方自身で建物滅失登記を申請する【1】。 | |
建物が現存する場合 | 貴方自身で所在地番変更等の登記を申請する【1】。 | |||
第 三 者 |
建物が現存しない場合 |
建物所有者である第三者に建物滅失登記を申請してもらう。【1】 又は 貴方から法務局に対して「建物滅失」申出をする。【1】 |
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建物が現存する場合 |
以下の順に確認していきます。
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【1】いずれの場合にも、土地家屋調査士にご依頼されることが可能です。