遺言書を探す方法(公正証書遺言、法務局保管自筆証書遺言の探索)


遺言書の存在を知らずに遺産分割協議をした場合、手元にある遺言に基づいて遺言執行したのに、もう一通別の遺言が遭った場合、面倒なことになります。

遺言書の種類は何種類もあり、それぞれ、探し方が違います。

この記事では、①遺言書を探すべき理由、②遺言書の種類ごとの探し方を解説しています。

もくじ
  1. 遺言書探しが必要な理由
  2.  遺言の種類
    1. よく利用される代表的なもの
    2. まれに利用されるもの
  3. 探すことができる遺言の種類
  4. 公正証書遺言の探索
    1. 公正証書遺言の探索ができる人
    2. 相続人(又はその代理人)から行う方法
    3. 遺言執行者から行う方法
  5. 法務局保管の自筆証書遺言の探索
    1. 法務局が遺言を保管しているかの確認【遺言書保管事実証明書】
    2. 法務局が保管する遺言内容を確認【遺言書情報証明書】
    3. 2種類の証明書の違い(まとめ)
  6. 自筆証書遺言(法務局保管以外)の探索

〔凡例〕この記事では、下記のとおり略記します。

  • 保管法:法務局における遺言書の保管等に関する法律
  • 保管政令:法務局における遺言書の保管等に関する政令 (令和元年政令第178号)令和4年4月1日施行
  • 保管省令:法務局における遺言書の保管等に関する省令 (令和二年法務省令第33号)令和7年3月24日施行
  • 保管手数料令:法務局における遺言書の保管等に関する法律関係手数料令 (令和二年政令第55号)令和2年7月10日施行
  • 公証法:公証人法
  • 公証規則:公証人法施行規則
  • 公証手数料令:公証人手数料令(旧・公用人手数料規則)
  • 公証手数料省令:公証人手数料令第二十五条の横書の証書の様式及び証書の枚数の計算方法を定める省令

遺言書探しが必要な理由


遺言が存在しているにも関わらず、遺言に反する遺産分割協議を行っても、遺産分割協議は無効になってしまいます(民法1013条2項など)。したがって、遺産分割協議をする前に遺言書を探す必要があります。

 

近年では遺言をされる方が、増えています。それに伴い、遺言の書き換えも増えています。

遺言が2通以上あるときは、後に書かれた遺言が優先します。すなわち「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみな」されます(民法1023条)。したがって、遺言書を持っている相続人の方であっても、遺言が書き換えられていないか遺言書を探す必要があります。

遺言の種類


遺言の種類には、普通の方式のものでも4種類あります。

そして、種類ごとに探し方も異なります。

まず、下表で代表的な遺言をご確認ください。なお、普通方式の遺言には「秘密証書遺言」もありますが、ほとんど利用されていませんので、説明を省略しています。

    公正証書遺言

自筆証書遺言

(法務局保管)

自筆証書遺言

(法務局保管以外)

根拠条文 
  • 民法969条
  • 民法968条
  • 法務局における遺言書の保管等に関する法律
  • 民法968条
作成方法

公証人が作成(遺言者は公証人に口授)

全文・日付・署名を遺言者が自筆で作成

全文・日付・署名を遺言者が自筆で作成
作成時証人 証人2人以上必要

不要

不要
作成費用

公証人報酬(遺産額に応じる)

(関与専門家報酬)

法務局実費(1万円以内)

(関与専門家報酬)

ゼロ円

(関与専門家報酬)

作成時支援

公証人の支援

(関与専門家の支援)

法務局が形式要件を支援

(関与専門家の支援)

なし(自己責任)

(関与専門家の支援)

文字が書けない場合

可能(公証人が署名も代筆可能)

不可(全文直筆)

不可(全文直筆)

緊急時作成

不可(予約が必要)

即日可能(窓口へ出頭可能な場合)

即日作成可能

複雑な内容

可能(公証人以外に専門家に依頼すればベスト)

不可

不可

保管場所 公証役場(原本) 法務局(原本+画像データ) 自宅など
偽造・紛失等リスク なし(公証役場保管) なし(法務局保管) あり(自宅保管の場合)

相続人等への通知 なし(相続人から公証役場に照会) (遺言者が)作成時に指定した者に通知がいく。 なし
家裁への検認申立 不要(民法1004)

不要(保管法11)

必要(民法1004)
相続開始後の手続 ①遺言者死亡戸籍のみ取得、②遺言執行者がいれば、即日執行可能

①出生から死亡までの戸籍収集、②遺言書情報証明書の交付請求(①を提出)後、執行できる(即日執行不可)。

①出生から死亡までの戸籍収集、②家庭裁判所への検認申立(①を提出)、③検認期日が終わらないと執行できない(執行開始に時間がかかる)。
無効になるリスク 低い

公正証書遺言より高く、

自筆証書遺言より低い。

高い

探すことができる遺言の種類


結論から申し上げますと、上記3種類いずれの遺言であっても、探すことはできます。

  • 公正証書遺言は、存在していれば確実に見つけ出せます。また、存在していなければ存在していないことを公証人が証明してくれます。
  • 法務局保管自筆証書遺言も、存在していれば確実に見つけ出せます。また、存在していなければ存在していないことを法務局が証明してくれます。
  • 自筆証書遺言(法務局保管以外)は、存在していても見つけられない場合があります。また、存在していないことを証明することは不可能です。

公正証書遺言の探索


1989(平成元)年以降に作成された公正証書遺言を検索することができます。

全国どこの公証役場で作成されたものであっても、最寄りの公証役場で、検索することが可能です。

 

公正証書遺言の探索ができる人

  • 遺言者の相続人
  • 遺言執行者
  • その他利害関係人(公証人法42、43)

いずれも遺言者の死後に限られます。

 

相続人(又はその代理人)から行う探索の方法

例えば、相続人から委任を受けた司法書士が行う場合は、次の通りです(公証人法42~45)。

  • (郵送は不可)予約必要
  • 被相続人の氏名の読み方(フリガナ)を必ず聞かれますので、確認してから訪問。

 

必要書類(相続人の代理人である司法書士【本職】が出頭する場合)

  • 遺言者の除籍謄本(原本)
  • 遺言者の相続人であることを証明できる戸籍謄本等
  • 相続人から司法書士を代理人に選任した旨の委任状
  • 相続人の印鑑証明書
  • 職印証明書(原本)
  • 代理人(である司法書士)のマイナンバーカード又は運転免許証(原本)
  • 司法書士会員証(原本)
  • 検索手数料は無料
  • (他の公正証書遺言があった場合、その謄本の受領のために)司法書士の認印
  • (他の公正証書遺言があった場合、その謄本の受領のために)謄本発行手数料

必要書類(相続人の代理人である司法書士【補助者】が出頭する場合)

  • 遺言者の除籍謄本(原本)
  • 遺言者の相続人であることを証明できる戸籍謄本等
  • 相続人から司法書士を代理人に選任した旨の委任状
  • 相続人の印鑑証明書
  • 相続人代理人(司法書士)の個人の実印を押印した委任状
  • 相続人代理人(司法書士)の個人の印鑑証明書(原本)
  • 代理人(である司法書士)のマイナンバーカード又は運転免許証(原本)
  • 補助者の本人確認証明書(原本)
  • 検索手数料は無料
  • (他の公正証書遺言があった場合、その謄本の受領のために)補助者の職印
  • (他の公正証書遺言があった場合、その謄本の受領のために)謄本発行手数料

検索結果

  • 公正証書遺言が他に無かった場合でも、なかった旨の証明書(無料。正式名称は「遺言検索紹介結果通知書」)を取得すること。
  • 公正証書遺言が他に有った場合には、認印、謄本発行手数料が必要。

遺言執行者から行う探索の方法

例えば、遺言執行者に指定された司法書士から行う場合は、次の通りです。

  • (郵送は不可)予約必要
  • 被相続人の氏名の読み方(フリガナ)を必ず聞かれますので、確認してから訪問。

 

必要書類(遺言執行者本人が出頭する場合)

  • 遺言者の除籍謄本(原本)
  • 自己が遺言執行者に指定された旨の記載がある公正証書遺言(原本)
  • 職印証明書(原本)
  • 遺言執行者(である司法書士)のマイナンバーカード又は運転免許証(原本)
  • 司法書士会員証(原本)
  • 検索手数料は無料
  • (他の公正証書遺言があった場合、その謄本の受領のために)司法書士の認印
  • (他の公正証書遺言があった場合、その謄本の受領のために)謄本発行手数料

必要書類(遺言執行者の補助者が出頭する場合)

  • 遺言者の除籍謄本(原本)
  • 自己が遺言執行者に指定された旨の記載がある公正証書遺言(原本)
  • 遺言執行者(である司法書士)のマイナンバーカード又は運転免許証(原本)
  • 遺言執行者個人の実印を押印した委任状
  • 遺言執行者個人の印鑑証明書(原本)
  • 補助者の本人確認証明書(原本)
  • 検索手数料は無料
  • (他の公正証書遺言があった場合、その謄本の受領のために)補助者の認印
  • (他の公正証書遺言があった場合、その謄本の受領のために)謄本発行手数料

検索結果

  • 公正証書遺言が他に無かった場合でも、なかった旨の証明書(無料。正式名称は「遺言検索紹介結果通知書」)を取得すること。
  • 公正証書遺言が他に有った場合には、認印、謄本発行手数料が必要。

法務局保管の自筆証書遺言の探索


法務局保管が自筆証書遺言を保管しているか否かの確認方法は、次の2通りあります。

 

法務局が遺言を保管しているか確認【遺言書保管事実証明書】

確認できる人

  • 遺言者が死亡している場合に限ります。
  • 誰でも(何人も)行なうことができます(保管法10)が、誰が交付請求するかによって、回答内容が異なります。その証拠に、遺言書保管事実証明書の末尾に記載される遺言書保管官による認証文言は、誰が請求したかによって異なります。 
法務省HP『自筆証書遺言保管制度』より
法務省HP『自筆証書遺言保管制度』より
  • 遺言執行者からも探索できますが「当該遺言執行者が遺言中に記載されている遺言のみ」が検出されるため、遺言執行者からの探索は無意味です。相続人本人が、直接、照会を行う必要があります。相続人からの委任を受けて、遺言執行者が任意代理人として探索(照会)することもできません(250410神戸地方法務局照会)。
保管法第10条(遺言書保管事実証明書の交付)
 
  1. 何人も、遺言書保管官に対し、遺言書保管所における関係遺言書の保管の有無並びに当該関係遺言書が保管されている場合には遺言書保管ファイルに記録されている第7条第2項第2号(第4条第4項第1号に係る部分に限る。)及び第4号に掲げる事項を証明した書面(第12条第1項第3号において「遺言書保管事実証明書」という。)の交付を請求することができる。
  2. 前条第2項及び第4項の規定は、前項の請求について準用する。

法務局が保管する遺言内容を確認【遺言書情報証明書】

遺言者が死亡している場合に限ります(保管法9Ⅰ柱書の括弧内)。

相続人ご本人、受遺者ご本人など下表に記載したご本人のみ、確認できます(保管法9Ⅰ)。

任意代理人による請求は、認められません(保管法9Ⅳ→保管省令36①)。

結果も、ご本人の手元に届きます。

【遺言書情報の開示を求めることができる方】

  • 相続人(保管法9Ⅰ①)
  • 遺言書に記載された右列の者か、
    その相続人
    (保管法9Ⅰ②、保管政令7)
  • 受遺者
  • 遺言により認知される子(胎内の子はその母)
  • 遺言により廃除された推定相続人
  • 遺言により廃除を取り消された推定相続人
  • 被相続人の指定した祭祀承継者

など

  • 遺言書に記載された右列の者
    (保管法9Ⅰ③、保管政令8)
  • 右列の者の相続人は不可
  • 遺言執行者
  • 遺言者が、未成年者に与える財産をその親権者に管理させない場合において、指定した管理者
  • 遺言で指定された未成年後見人、未成年後見監督人
  • 共同相続人の相続分を定めることを委託された第三者
  • 遺産の分割の方法を定めることを委託された第三者
  • 遺言執行者の指定を委託された第三者

など

2種類の証明書の違い【まとめ】

  遺言書保管事実証明書 遺言書情報証明書
利用目的

遺言書が存在するかどうかを調べたい場合

遺言書内容を確認し、相続手続に利用したい場合
記載内容

遺言書が保管されているか否か

(請求者と遺言者の関係によって文言が異なる)【1】

遺言者の氏名・出生年月日・住所・本籍等+遺言書画像(目録含む)

【1】

証明内容

法務局に遺言書が保管されている「事実」の有無のみを証明

保管されている遺言書の「内容」(画像情報付き)を証明
内容確認の可否

遺言書の内容は確認できない

 

遺言書の内容を確認できる
     
請求できる人

誰でも(ただし、身分によって回答結果が異なる。)

相続人、受遺者【2】など一定の身分のある方のみ
請求できる時期

遺言者の死亡後

遺言者の死亡後

請求時の

提出書類

遺言者について:死亡記載のある戸籍謄本 遺言者について:出生から死亡までの全戸籍謄本等【3】

 

請求者について:
  • 請求者が相続人であることを確認できる戸籍謄本(通常現在戸籍謄本)
  • 受遺者が相続人でないときには、原則不要です。

請求者について:

  • 全相続人の戸籍謄本【3】

請求時の

手数料

1通につき800円

(保管法12Ⅰ③→保管手数料令1④)

1通につき1400円

(保管法12Ⅰ③→保管手数料令1③)

相続手続きへの利用 利用できない(遺言内容は分からないため) 検認手続きなく(保管法11)、相続手続きに利用できる。
他の相続人への通知 通知されない。 証明書交付時に他の相続人へ通知される(保管法9Ⅴ)。

【1】記載事項の詳細は、次のとおりです。

  遺言書保管事実証明書 遺言書情報証明書
記載事項 関係遺言書の保管の有無(保管法10)  

×

遺言書の画像情報

(保管法9→保管法7Ⅱ①)

遺言書に記載されている作成の年月日

(保管法10→7Ⅱ②に掲げる事項のうち4Ⅳ①に係る部分)

遺言書に記載されている作成の年月日

(保管法9→7Ⅱ②→4Ⅳ①) 

×

遺言者の氏名、出生の年月日、住所及び本籍。外国人にあっては、国籍。

(保管法9→7Ⅱ②→4Ⅳ②)

×

イ 受遺者の住所氏名(名称)

ロ 遺言執行者の住所氏名(名称)

(保管法9→7Ⅱ②→4Ⅳ③)

×

遺言書の保管を開始した年月日(保管法9→7Ⅱ③)

遺言書が保管されている遺言書保管所の名称及び保管番号(保管法10→7Ⅱ④)

遺言書が保管されている遺言書保管所の名称及び保管番号(保管法9→7Ⅱ④)

【2】受遺者とは(相続人でなくても)遺言によって遺産をもらえる人(または法人)のことです。

【3】遺言書情報証明書の提出書類が多い理由

遺言書情報証明書の交付請求を行った場合、法務局は、全相続人に対して「法務局であなたの関係している遺言を保管していますよ」という通知を行ないます(関係遺言書保管通知。保管法9Ⅴ)。

このため、遺言書情報証明書の交付請求を行う方は、法務局に対して「遺言者の相続人が誰と誰であって他に存在しないこと」を証明するため被相続人の出生から死亡までの全戸籍謄本等を提出する必要があるのです。

自筆証書遺言(法務局保管以外)の探索


自筆証書遺言(法務局保管以外)の場合には、確実に見つけ出す方法はありません。

ご本人が「私に何かあったときには、必ず○○さんに連絡するように」とおっしゃっていた場合には、○○さんが預かってくれている可能性があります。

他には、思いつく場所をひたすら探すしかあません。

 

次のような場所を探してみてください。

  • ご自宅:仏壇、ご本人専用の箪笥や引き出しの中
  • 銀行の貸金庫:遺言書の保管場所としては不適切ですが、貸金庫に預けている方もいらっしゃいます。
  • 懇意にしている専門家士業の事務所
  • 銀行や信託銀行

人気の関連ページ