財産を貰える代わりに負担もある遺言のことを「負担付遺贈」といいます。たとえば「Aさんに1億円を遺贈する。その代わり、Aさんは私の妹Bに毎月10万円ずつ渡してください」というような遺言の場合です。
このような遺言がある場合において、Aさんが1億円を受け取ったにもかかわらず、Bさんに毎月10万円を渡さない場合、相続人やBさんは、Aさんに対して、何ができるでしょうか?
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次のような具体例で考えてみましょう。
遺言者には、妻と長男、長女のほか、年の離れた妹Bが一人います。
妹は身体が弱く、金銭管理もできません。また、結婚もしておらず、子どももいません。
遺言者は、妹のことが心配であったため、親友のAさんに対して、次の遺言を残しました。
「Aさんに現金1億円を遺贈します。その代わりAさんは妹Bに毎月10万円ずつ渡してください」
遺言者が亡くなった場合、その相続人は、妻、長男、長女です。妹は相続人ではありません。
Aさんは、相続人に対して、この遺言を示したので、相続人はAさんに1億円を渡しました。
ところが、Aさんは、Bに毎月10万円を渡そうとしません。
このような状況下で、相続人(妻・長男・長女)や妹Bさんが、Aさんに対してできることは何かあるでしょうか?
相続人は、相続人以外の方へ遺贈が行われている場合には、遺贈義務を負います。
相続人側ができることは、法律で規定されています。
民法第1027条(負担付遺贈に係る遺言の取消し) | |
負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。 |
負担の履行によって利益を得る受益者Bさんが、直接、負担付遺贈の受遺者Aさんに対して、負担の履行を請求できるか否かについて、学説上、争いがあります。
通説では、受益者は、受遺者に対して、直接負担の履行請求できないとされています。受益者は、反射的利益を有するにとどまるためとの理由付けがなされています( 『新版注釈民法(28)』281頁(ウ)以下)。
Bさんは、相続人からAさんに対して請求してもらうことも可能です。
相続人が協力してくれないときは、Bさんが、申立人となって、家庭裁判所に対して、遺言執行者の選任を申し立てることも可能です。
相続人や遺言執行者からの負担の履行請求に対して、受遺者側としては「遺言の解釈」を持ち出して対抗することが考えられます。
負担の内容が抽象的である場合、負担(法律上の義務)といえないと主張することもありえます。
ただし、抽象的であるだけで、負担ではないと安易に考えることは、遺言者の意思に反しますので、可能な限り「有効な負担」と考えるべきでしょう。
次のような裁判例もあります。
東京高判昭和54年12月20日判タ409号91頁 |
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近所に住んで贈与者の身辺の世話をすること、贈与者の生活費がなくなつたときはこれを負担することを負担の内容とする死因贈与契約を有効と判断した裁判例 |
東京地判昭和59年8月31日判タ542号237頁 | |
「被告は、原告がてると同居することは、負担付贈与契約における負担といえるものではない旨主張するが、従前居住していた住居を引き払つて、肝臓に持病を持つ老令者と同居し、その身の回りの世話をすることは、これをもつて負担付贈与契約における負担とみることに何ら支障のないものというべきである」 |
「負担付遺贈」と「条件付遺贈」は、その効果が全く異なります。
事案によっては、負担付遺贈より条件付遺贈の方が、受遺者にとって、有利に働くかもしれません。
記事「遺言解釈(負担付遺贈か条件付遺贈か)」もご参照ください。
この記事の執筆のために下記文献を参照しました。