事業譲渡の契約締結後、クロージング日(最終引渡し日、譲渡代金支払い日)に各当事者が行うべき事項は、事業譲渡契約書に定められています。

また、事業譲渡契約書には記載のない事項でも、当然に、両当事者が行うべき事項もあります。

この記事では「事業譲渡のクロージング日に行うべき事項」の全体像について、解説します。

もくじ
  1. 譲渡会社(売主)と譲受会社(買主)がクロージング日までに、協力して行うべき事項
  2. 事業譲渡クロージング日に行うべき事項【概要】
  3. 譲渡会社(売主)の主な義務
  4. 譲渡会社(売主)が行うべき事項
  5. 譲受会社(買主)の主な義務
  6. 譲受会社(買主)が行うべき事項
  7. 事業譲渡クロージング日における司法書士の役割
  8. 司法書士の報酬・費用
  9. 参考文献
  10. 人気の関連ページ

譲渡会社(売主)と譲受会社(買主)がクロージング日までに行うべき事項


承継対象契約を承継するための相手方との折衝

事業譲渡契約書に承継対象として定められた契約について、円満に承継できるよう契約の相手方との折衝を共同して行います。

なお、事業譲渡の場合、譲受会社が契約を承継するためには、契約の相手方から個別の同意を取得していく必要があるため、(会社分割・合併などの場合と異なり)債権者保護手続きは不要です。

 

また、労働契約をそのまま承継することは少ない(譲渡会社を退職後、譲受会社に就職することが多い)と思われますが、転籍を同意した従業員からは「転籍同意書」などを取得します。

なお、個別の同意が必要ですので、(会社分割とは異なり)労働者保護手続きは不要です。

 

許認可の取得

事業譲渡の場合、譲渡会社の有する許認可は、原則、譲受会社に承継されません。許認可の新規取得が必要です。

事業譲渡クロージング日に行うべき事項【概要】


 

事業を構成する資産、負債、契約などを個別に移転させる手続きと譲渡代金の支払い手続きが必要です。概ね次のように行います。

  1. 売主から買主に対して、譲渡資産の引渡しや、登記登録に必要な書類、契約承継に必要な書類の交付が行われます。
  2. 買主(側の司法書士)が、売主から提出された書類を精査します。
  3. 書類等に問題なければ、買主から売主に対して、譲渡対価として譲渡代金を支払います。
    書類等に問題があれば、対応策を協議します。

 

また、譲渡対象資産に賦課される公租公課や賃料などの費用を、クロージング日を基準に日割りで清算することがあります(後掲『会社法実務解説』406頁)。

 

多くの手続きを同時に行う必要があるので、通常は、当事者(売主、買主、仲介、司法書士)が一堂に会して行います。

買主が譲渡対価を融資で調達する場合には、融資銀行の応接室で行うのが通常です。

譲渡会社(売主)の主な義務


譲渡会社は、譲渡対象となる株式や事業の引渡しと、関連する書類の交付を行います。

 

譲渡対象の引渡し

売主は、買主に対して、譲渡対象資産を引渡します。

売主と買主が連名で「引渡完了確認書【1】」を作成します。

 

 

関連書類の交付

売主は、買主に対して、次の書類を交付します。

  • 株主総会議事録(事業譲渡を承認した記載のある原本、又は原本である旨を認証した謄本)
  • 会社の印鑑証明書(手続きに必要な通数)
  • 連帯保証人の印鑑証明書
  • (登記登録がある資産の場合)登記登録に必要な書類 
    • 不動産:所有権移転登記に必要な書類
    • 自動車:自動車移転登録に必要な書類
    • 動産:引渡しを証明する書類。動産譲渡登記に必要な書類
    • 特許・商標:権利移転に必要な書類
    • 免責の登記に必要な書類
  • 契約の承継に必要となる一切の書類

【1】「引渡完了確認書」は必ず作成してください。「引渡完了確認書」には、次のような効果があります。不動産売買でも作成するのが通常ですので、より複雑で引渡しするものが多い事業譲渡で作成しないことはあり得ません。

  • 動産の所有権移転を第三者に対抗するためには「引渡し」が必要です。「引渡完了確認書」に確定日付の付与を受けることで、「引渡し」の時期の立証を容易に行うことができます。
  • 契約不適合責任の起算日が明確になります。
  • 固定資産税等の精算日が明確になります。
  • 各動産の引渡し状況が明確になります。

記事「事業譲渡のクロージング日に行うべき事項②対抗要件具備(動産の引渡し)」も参照ください。

 

譲渡会社(売主)が行うべき事項


義務とはいえないけれど、当然行うべき事項は、次のとおりです。

 

譲渡代金の着金確認

譲渡代金が着金しない場合には、解散できません。

譲受会社(買主)の主な義務


譲渡価格の支払い

譲受会社の主な義務は、譲渡対価【1】の支払いです。

譲渡人が指定する銀行口座へ譲渡価格の全額を振り込みます。

 

エスクロー契約がある場合は、譲渡価格の一部をエスクロー口座へ送金することもあります(後掲『国際法務概説』140頁)。


【1】譲渡対価を何で支払うか?

譲渡対価は、通常、現金で支払われます。譲渡対価として、譲受会社の株式で支払う(交付する)ことも可能ですが、この場合は、現物出資に該当し、裁判所選任検査役の調査を受ける必要が生じます(会社法207条)。

譲受会社(買主)が行うべき事項


義務とはいえないけれど、当然行うべき事項は、次のとおりです。

 

譲渡会社(売主)が提出した書類の精査

大量の書類を、短時間で精査することになります。

是非、クロージングには司法書士をご活用ください。 

対抗要件の具備

  • 不動産:直ちに所有権移転登記を行います【司法書士業務】。
  • 自動車:直ちに自動車の移転登録を行います【行政書士業務】。
  • 動産:直ちに引渡しを受け、売主買主間で引渡確認書を作成し、動産譲渡登記を行います。動産譲渡登記は、譲渡会社の動産譲渡登記簿に行います【司法書士業務】。
  • 債権:債権譲渡通知または債権譲渡登記を行います。債権譲渡登記は、譲渡会社の債権譲渡登記簿に行います【司法書士業務】。
  • 特許・商標:権利移転の登録を行います【弁理士業務】。
  • 譲受会社:免責の登記を行います【司法書士業務】。

 

保険契約の締結

クロージング日をもって、火災などの危険負担が、売主から買主に移転します。

したがって、事業譲渡の場合、買主は、火災保険等の契約を新規で締結する必要が生じます。

事業譲渡クロージング日における司法書士の役割


司法書士は、譲受会社のご依頼で、事業譲渡のクロージングを担当させていただくことが多いです。

デューデリジェンス

事業譲渡契約書の事前確認

できればドラフト(調印前の案文)の時点で、拝見したいです。

調印前に拝見できた場合には、事業譲渡契約書を精査し、不利な条項はないかお知らせします。

また、クロージング日に当事者が行うべき事項のピックアップを行います。

必要な他士業専門家の手配

デューデリや対抗要件具備に必要な専門家を手配いたします。

(事前)不足書類の徴求、作成

売主から事前に提出される(押印前の)書類を精査します。

不動産の移転登記に必要な書類を作成します。

動産譲渡登記を行う場合には、動産譲渡登記に必要な書類を作成します。

(当日)書類の確認、報告

売主が、買主に提出した書類を確認します。

売主が押印した印鑑が実印か否か、印鑑照合を行います。

印鑑証明書の有効確認も行います。

 

司法書士は、買主に対して、これらを結果ごとに次の通り報告します。

  • 書類が揃っていれば:譲渡代金を支払うよう依頼します。
  • 書類が不足であれば:その旨を告げ、一般的なリスクを説明し、買主が、売主に対して、①本日譲渡代金を支払うか、②後日再度書類を提出してから譲渡代金を支払うか、③それ以外の方法とするかを決定する情報を提供します。

対抗要件の具備(登記申請)

  • 不動産:直ちに所有権移転登記を行います【司法書士業務】。
  • 動産:直ちに引渡しを受け、売主買主間で引渡確認書を作成し、動産譲渡登記を行います。動産譲渡登記は、譲渡会社の動産譲渡登記簿に行います【司法書士業務】。
  • 債権:債権譲渡通知または債権譲渡登記を行います。債権譲渡登記は、譲渡会社の債権譲渡登記簿に行います【司法書士業務】。
  • 譲受会社:免責の登記を行います【司法書士業務】。

司法書士の報酬・費用


M&A(アドバイザリー契約部分)

法的なチェックが完了していない場合には、買収対象企業に法的な問題がないかをチェックして買手に報告し、買収対象企業に是正をうながします。

司法書士業務 司法書士報酬
アドバイザリー契約 1時間あたり22,000~55,000円(税込)

M&A(クロージング/実行手続き部分)

すでに弁護士・司法書士が関与し、買収対象企業に関する法的なチェックを完了し、買収方法も検討が完了している場合には、実行手続きをお手伝いします。

なお、クロージング日における「立会報酬」として、売買代金の0.11%(税込)が必要です。

    司法書士報酬 実費

会社登記 330,000円(税込)~ 事業譲渡とともに役員変更や免責登記を行わない限り発生しない
不動産登記 譲渡対象に不動産が含まれる場合のみ55,000円(税込)~

固定資産税評価額の

土地:1000分の15

建物:1000分の20

その他

税理士・公認会計士・社労士・弁理士・行政書士の費用が発生することがあります。

これら専門家費用も含めた総合見積を作成します。

参考文献


  • 落合誠一『会社法コンメンタール12』商事法務/2009年
  • 宍戸善一 (一橋大学教授)/監修 岩倉正和 (一橋大学教授・弁護士),佐藤丈文 (弁護士)/編著『会社法実務解説』有斐閣/2011年
  • 滝川宜信『M&A・アライアンス契約書の作成と審査の実務』民事法研究会/2016年
  • 長瀨佑志、長瀨威志、母壁明日香『Business Law Handbook ビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』日本能率協会マネジメントセンター/2017年
  • 関口智弘、竹平征吾、細野真史、谷内元、山口拓郎、浦田悠一、髙田真司、山本龍太朗『事業譲渡の実務 法務・労務・会計・税務のすべて』商事法務/2018年
  • 戸嶋浩二、内田修平、塩田尚也、松下憲『M&A契約――モデル条項と解説』商事法務/2018年

  •  

    藤田 友敬『M&A契約研究 理論・実証研究とモデル契約条項』有斐閣/2018年

  • 西村あさひ法律事務所『M&A法大全(下)〔全訂版〕』商事法務/2019年
  • 大江橋法律事務所/監修 国谷史朗(弁護士),小林和弘(弁護士)/編『国際法務概説』有斐閣、2019年
  • 阿部・井窪・片山法律事務所『契約書作成の実務と書式 第2版 企業実務家視点の雛形とその解説』有斐閣/2019年
  • 藤原総一郎、大久保圭、大久保涼、宿利有紀子、笠原康弘、粟谷翔『M&A の契約実務(第2版)』中央経済社/2020年
  • 木俣貴光『企業買収の実務プロセス 第3版』中央経済社/2021年

  • 森・濱田松本法律事務所『M&A法大系〔第2版〕』有斐閣/2022年

  • 契約審査実務研究会『次世代ビジネス対応 契約審査手続マニュアル 「新しい資本主義」を踏まえた契約類型』新日本法規出版/2022年

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