事業譲渡で譲受人が譲渡人債務の弁済責任を負う場合のまとめ

  • 事業譲渡の建前は「譲受人は、譲渡人の債務とは関係ない」ですが、一定の場合には、譲受人は譲渡人の債務弁済の責任を負います。
  • この記事を読めば①どのような場合に責任を負うのかと、②責任を負わないための対策を理解できます。

あまり知られていませんが、事業譲渡でM&Aを行った場合であっても、譲受人が譲渡人の債務を承継してしまうことがあります。

譲受人が譲渡人の商号をそのまま使う場合などです。経営主体が変わっても、看板に変化がなければ、取引先は経営主体が変わったことを知ることができません。そこで、法律は、譲受人に譲渡人の債務の弁済責任を負わせているのです。

この記事では、譲受人が譲渡人の債務を引き継いでしまう場合と、譲受人がその責任を負わない方法を解説しています。

もくじ
  1. まとめ
  2. 事業譲受人が負う責任
    1. 商法と会社法の条文比較
    2. 商法の「営業譲渡」と会社法の「事業譲渡」は異なるのか?
    3. 会社法に「商号譲渡」の規定はないが、会社は商号譲渡できるか?
    4. 商号を引き続き使用するとは?
    5. 屋号、サービス名、標章を続用する場合は、どうか?
    6. 弁済の責任を負うとは?
    7. 営業(事業)によって生じた債務とは?
  3. 商号続用譲受人が免責を得る方法(総論)
    1. 免責登記と第三者通知の比較
  4. 商号続用譲受人が免責を得る方法➊免責の登記
    1. 免責登記が利用できる場合
    2. 免責登記の方法
    3. 免責登記の実行例(登記記載例)
    4. 免責登記の抹消方法
  5. 商号続用譲受人が免責を得る方法➋第三者へ通知
    1. どのように通知すれば良いか?
    2. 通知文の文例
  6. 商号続用譲受人が免責を得る方法➌除斥期間
  7. 債務引受け広告にならないようご注意
  8. 詐害事業譲渡を防ぐ方法
  9. 司法書士の報酬・費用

まとめ


M&Aのスキームには、次のような種類があります。

  • 会社を丸ごと購入する「株式譲渡」
  • 会社のある部門を譲受する「会社分割」
  • 会社の必要な事業や資産のみ譲受する「事業譲渡」(会社法21以下、会社法467以下)
  • 会社を既存会社にくっつける「合併」

 

「事業譲渡」は、会社分割や合併とは異なり、事業用不動産、動産、個別の権利義務などを個別に承継する特定承継です。そのため、譲受人が譲渡会社の債務を引き受けるためには、原則としてその債務の債権者の同意が必要となります。

ところが、事業譲渡であっても一定の場合には、債権者(取引先など)は譲受人にも譲渡人の債務を請求できることを定めていますので、注意が必要です。

  商号続用なし 商号続用あり
原則
  • 譲渡人の債務を弁済する責任なし
  • 譲渡人の債務を弁済する責任あり(商法17Ⅰ、会社法22Ⅰ)
例外
  • 譲受人が債務を引き受ける広告したとき
    ▶責任あり(商法18Ⅰ、会社法23Ⅰ)
  • 譲受人に承継されない債務の債権者を害することを知って事業譲渡(詐害事業譲渡)したとき
    ▶承継財産の価額を限度として、責任あり(商法18の2Ⅰ、会社法23の2Ⅰ)
  • 譲受人が免責の登記をしたとき
    ▶責任なし(商法17Ⅱ前段、会社法22Ⅱ前段)
  • 事業譲渡後、遅滞なく、譲受人及び譲渡人から第三者に責任を負わない旨を通知したとき
    ▶当該第三者に対しては責任なし(商法17Ⅱ後段、会社法22Ⅱ後段)

個人事業主が、事業を第三者に引き継ごうとする場合、採用できるM&Aスキームは「事業譲渡」のみです。会社ではありませんのでM&Aスキームの「株式譲渡」「会社分割」「合併」は使えません。

ただし、事業譲渡をした場合に、譲受人が譲渡人の債務について弁済の責任を負う場合があるのは、個人事業主であっても同じです。

事業譲受人が負う責任


商法と会社法の条文比較

個人事業主には「商法」が適用され、会社には「会社法」が適用されます。

商法と会社は、下表のとおり全く同じ規定を置いています。 

下表から、個人事業主も、会社も、事業譲受人が責任を負う場合は同じことが分かります。

商法の規定

(=個人商人に適用される)

会社法の規定

(=会社に適用される)

商法第15条(商号の譲渡)
  1. 商人の商号は、営業とともにする場合又は営業を廃止する場合に限り、譲渡することができる。
  2. 前項の規定による商号の譲渡は、登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
(該当なし)

商法第16条(営業譲渡人の競業の禁止)

  1. 営業を譲渡した商人(以下この章において「譲渡人」という。)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(特別区を含むものとし、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第252条の19第1項の指定都市にあっては、区又は総合区。以下同じ。)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その営業を譲渡した日から20年間は、同一の営業を行ってはならない。
  2. 譲渡人が同一の営業を行わない旨の特約をした場合には、その特約は、その営業を譲渡した日から30年の期間内に限り、その効力を有する。
  3. 前二項の規定にかかわらず、譲渡人は、不正の競争の目的をもって同一の営業を行ってはならない。

会社法第21条(譲渡会社の競業の禁止)

  1. 事業を譲渡した会社(以下この章において「譲渡会社」という。)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(特別区を含むものとし、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第252条の19第1項の指定都市にあっては、区又は総合区。以下この項において同じ。)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から20年間は、同一の事業を行ってはならない。
  2. 譲渡会社が同一の事業を行わない旨の特約をした場合には、その特約は、その事業を譲渡した日から30年の期間内に限り、その効力を有する。
  3. 前二項の規定にかかわらず、譲渡会社は、不正の競争の目的をもって同一の事業を行ってはならない。

商法第17条(譲渡人の商号を使用した譲受人の責任等)

  1. 営業を譲り受けた商人(以下この章において「譲受人」という。)が譲渡人の商号を引き続き使用する場合には、その譲受人も、譲渡人の営業によって生じた債務を弁済する責任を負う。
  2. 前項の規定は、営業を譲渡した後、遅滞なく、譲受人が譲渡人の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合には、適用しない。営業を譲渡した後、遅滞なく、譲受人及び譲渡人から第三者に対しその旨の通知をした場合において、その通知を受けた第三者についても、同様とする。
  3. 譲受人が第一項の規定により譲渡人の債務を弁済する責任を負う場合には、譲渡人の責任は、営業を譲渡した日後二年以内に請求又は請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。
  4. 第一項に規定する場合において、譲渡人の営業によって生じた債権について、その譲受人にした弁済は、弁済者が善意でかつ重大な過失がないときは、その効力を有する。
会社法第22条(譲渡会社の商号を使用した譲受会社の責任等
  1. 事業を譲り受けた会社(以下この章において「譲受会社」という。)が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う。
  2. 前項の規定は、事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社がその本店の所在地において譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合には、適用しない。事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社及び譲渡会社から第三者に対しその旨の通知をした場合において、その通知を受けた第三者についても、同様とする。
  3. 譲受会社が第一項の規定により譲渡会社の債務を弁済する責任を負う場合には、譲渡会社の責任は、事業を譲渡した日後二年以内に請求又は請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。
  4. 第一項に規定する場合において、譲渡会社の事業によって生じた債権について、譲受会社にした弁済は、弁済者が善意でかつ重大な過失がないときは、その効力を有する。

商法第18条(譲受人による債務の引受け)

  1. 譲受人が譲渡人の商号を引き続き使用しない場合においても、譲渡人の営業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、譲渡人の債権者は、その譲受人に対して弁済の請求をすることができる。
  2. 譲受人が前項の規定により譲渡人の債務を弁済する責任を負う場合には、譲渡人の責任は、同項の広告があった日後二年以内に請求又は請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。

会社法第23条(譲受会社による債務の引受け

  1. 譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用しない場合においても、譲渡会社の事業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、譲渡会社の債権者は、その譲受会社に対して弁済の請求をすることができる。
  2. 譲受会社が前項の規定により譲渡会社の債務を弁済する責任を負う場合には、譲渡会社の責任は、同項の広告があった日後二年以内に請求又は請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。

商法第18条の2(詐害営業譲渡に係る譲受人に対する債務の履行の請求)

  1. 譲渡人が譲受人に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って営業を譲渡した場合には、残存債権者は、その譲受人に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。ただし、その譲受人が営業の譲渡の効力が生じた時において残存債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
  2. 譲受人が前項の規定により同項の債務を履行する責任を負う場合には、当該責任は、譲渡人が残存債権者を害することを知って営業を譲渡したことを知った時から二年以内に請求又は請求の予告をしない残存債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。営業の譲渡の効力が生じた日から十年を経過したときも、同様とする。
  3. 譲渡人について破産手続開始の決定又は再生手続開始の決定があったときは、残存債権者は、譲受人に対して第一項の規定による請求をする権利を行使することができない。

会社法第23条の2(詐害事業譲渡に係る譲受会社に対する債務の履行の請求

  1. 譲渡会社が譲受会社に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って事業を譲渡した場合には、残存債権者は、その譲受会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。ただし、その譲受会社が事業の譲渡の効力が生じた時において残存債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
  2. 譲受会社が前項の規定により同項の債務を履行する責任を負う場合には、当該責任は、譲渡会社が残存債権者を害することを知って事業を譲渡したことを知った時から二年以内に請求又は請求の予告をしない残存債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。事業の譲渡の効力が生じた日から十年を経過したときも、同様とする。
  3. 譲渡会社について破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定があったときは、残存債権者は、譲受会社に対して第一項の規定による請求をする権利を行使することができない。
(該当なし)

会社法第24条(商人との間での事業の譲渡又は譲受け

  1. 会社が商人に対してその事業を譲渡した場合には、当該会社を商法第16条第1項に規定する譲渡人とみなして、同法第17条から第18条の2までの規定を適用する。この場合において、同条第3項中「又は再生手続開始の決定」とあるのは、「、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定」とする。
  2. 会社が商人の営業を譲り受けた場合には、当該商人を譲渡会社とみなして、前三条の規定を適用する。この場合において、前条第3項中「、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定」とあるのは、「又は再生手続開始の決定」とする。

商法の「営業譲渡」と会社法の「事業譲渡」は異なるのか?

個人事業主に適用される「商法」では、営業の譲渡(営業譲渡)という用語か使われています(商法15条~18条の2)。

一方、会社に適用される「会社法」では「事業の譲渡」(事業譲渡)という用語(会社21条~24条・会社467条)が使われています。

1個の商号しか持ち得ない会社が行うものの総体を「事業」と呼び、複数の商号を「営業」ごとに保有できる個人事業主と区別したとされています(相澤哲等「新・会社法の解説」別冊商事法務295号139頁)。

また、この表のとおり、規制の実質に変更はありませんので、「営業譲渡」という法律用語が、会社法施行にともない「事業譲渡」と変更されただけです。すなわち「営業譲渡」と「事業譲渡」は同義です。

この点、後掲『事業譲渡・譲受けの法務』6頁が詳しい。 

 

会社法に「商号譲渡」の規定はないが、会社は商号譲渡できるか

会社法には、商号の譲渡に関する規定(商法15条に相当する規定)は置かれていません(上表をご参照)。それでは会社は、商号を譲渡することができないのでしょうか?

  • 「会社の商号に関しては明文の規定がないが,事業を譲り受けた会社が譲渡会社の商号を続用することができることを前提とした規定(会社22I)があること,会社が事業を廃止する場合には,個人商人と同様に商号の経済的価値の維持を認めるべきであることから,事業の譲渡とともに譲渡する場合,または事業を廃止する場合に限り譲渡できるものと解する。」後掲『プライマリー商法総則・商行為法』56頁
  • 「商号続用責任の規定(会社22条)が置かれていることから商号の譲渡は想定されており、また譲渡のニーズと一般公衆の誤解防止の必要性は同様であることに鑑みれば、会社以外の商人と同様、事業とともにする場合または事業の廃止の場合に限り商号を譲渡できるものと解される。」後掲『スタンダード商法Ⅰ』58頁

 

商号を引き続き使用する(商法17Ⅰ、会社法22Ⅰ)とは

  • 商号の続用とは、事実上の続用であって、登記の有無を問わないと解されています(後掲『商法総論総則』244頁、後掲『商法I総則・商行為』123頁など)。
  • 譲渡会社が「有限会社米安商店」、譲受会社が「合資会社新米安商店」であった場合「会社の種類を異にしかつ『新』の字句を附加したものであって、右は商法26条の商号の続用にあたらない」とした最判がある(最判昭和38年3月1日民集17巻2号280頁)。 

その他「商号の続用」への該当するか否かについての裁判例は、後掲『事業譲渡・譲受けの法務』9頁以下が整理されていて、分かりやすい。

 

屋号、サービス名、標章を続用する場合は、どうか?

事業譲渡において商号を続用した譲受人の責任(会社法22条)は、商号だけでなく、屋号やサービス名称の続用にも類推適用される場合があります。

 

類推適用の根拠と具体例

商号以外の名称(屋号、サービス名称、標章など)であっても、それが営業主体を表示するものとして用いられ、商号に近い機能を有している場合には、会社法22条(または商法17条)の類推適用が認められることがあります (後掲『スタンダード商法Ⅰ』76頁、後掲『法律学講座』106頁)。

  1. 屋号の続用:譲受人が譲渡人の屋号を続用した場合や、屋号を商号として続用した場合に、会社法22条が類推適用されることがあります(最判平成16年2月20日民集58巻2号367頁)。
  2. サービス名称の続用:最高裁判所の判例では、預託金会員制ゴルフクラブの名称が営業主体を表示するものとして用いられている場合、その名称を譲受人が継続して使用した際には、会社法22条(旧商法26条)の類推適用が認められています(最判平成20年6月10日法務事情1848-57) 。
  3. 標章などの続用: 譲渡会社の標章(ロゴマークなど)を譲受会社が続用した場合にも、標章が商号と同様に「商品等の出所を表示し、品質を保証し、広告宣伝の効果を上げる機能がある」として、類推適用を認めた裁判例があります(東京地判平成27年10月2日判時2292号94頁や東京地判平成31年1月29日金判1566号45頁)。

 

類推適用に関する留意点

屋号や標章は法的には商号と異なるため、会社法22条の類推適用を広く認めると、責任を負うべき名称の範囲が際限なく拡大するおそれがあるとの指摘もあり、一部の裁判例には疑問が呈されています (後掲『商事法講義2』21頁)。

 

弁済の責任を負う(商法17Ⅰ、会社法22Ⅰ)とは

  • 重畳的債務引受けを行ったことと同様であり、譲渡会社と譲受会社が不真正連帯債務を負担することになる(後掲『商法総論総則』242頁)。
  • 重畳的債務引受けがあった場合には、譲渡会社は債務関係から離脱せず、特段の事情がない限り連帯債務者となる(最判昭和41年12月20日民集20巻10号2139頁)。
  • 譲受会社は、譲り受けた事業の積極財産を限度としてではなく、無限に責任を負う(後掲『商法総論総則』242頁、後掲『商法I』123頁)。
  • 譲渡会社が有していた抗弁は、譲受会社も主張できる(後掲『商法総論総則』242頁、後掲『商法総則・商行為法』113頁)。

 

営業(事業)によって生じた債務(商法17Ⅰ、会社法22Ⅰ)とは

譲渡会社が事業取引によって負担するに至った債務をいうが、その中には、取引に際して生じた不法行為債務も含まれると解される(最判昭和29年10月7日民集8巻10号1795頁参照、後掲『商法I』123頁)。

商号続用譲受人が免責を得る方法(総論)


事業譲受会社が譲渡会社の商号を続用する場合、その譲受会社が譲渡会社の事業によって生じた債務の弁済責任を免れる方法は、会社法第22条第2項に規定されています。これによれば、免責の方法は以下の2つに限定されています。

  1. 免責の登記 事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社がその本店の所在地において、譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記する方法です。
  2. 第三者への通知 事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社と譲渡会社から第三者(債権者)に対して、債務を弁済する責任を負わない旨を連名で通知する方法です。この通知を受けた第三者に対しては、譲受会社は責任を負いません。

会社法は、譲受会社が商号続用責任を免れる場合を「登記または通知という明確な手続をとる場合に限って」認める趣旨とされています(山下眞弘 著『会社事業承継の実務と理論 会社法・相続法・租税法・労働法・信託法の交錯』法律文化社/2017年/79頁)。

したがって、次のような方法をとっても、譲受会社は、免責されません。

  • × 債権者からの承諾:民法上の免責的債務引受けなど、個別の債権者との合意によって債務関係を処理することは考えられますが、これは会社法第22条第1項に基づく法律上の特別責任を画一的に免れるための手続きとは異なります。
  • × 公告:会社法第23条第1項には、商号を続用しない場合に譲受会社が「債務を引き受ける旨の広告」をすると責任を負うという規定がありますが、これは責任が「発生」するケースであり、商号続用責任を「免れる」ための公告手続きを定めたものではありません。

免責登記と第三者通知の比較

下記比較表をよくご理解のうえ、免責登記をするか、第三者へ通知するかを選択ください(もちろん両方でも結構です。)。

免責の登記 第三者への通知
  • 譲受人の会社登記簿への登記申請を行う。
  • 登記費用が生じる。
  • 譲渡人の承諾書の添付が必要。
  • 一度登記すると抹消する方法がない。
  • 第三者に対して、個別に通知を行う。
  • 郵送費が生じる。
  • 譲渡人との連名での通知が必要。
  • 包括的な免責効果
  • 漏れがない。
  • 通知を行った第三者に対してのみ免責効果
  • 漏れがあり得る。

以下、詳しく見ていきましょう。

商号続用譲受人が免責を得る方法➊免責の登記


事業を譲り受けた後、遅滞なく譲受会社がその本店の所在地において譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記する必要があります(会社法22条2項前段)。

 

免責の登記が利用できる場合

  • 「会社法22条2項の免責登記が認められるのは商号続用の場合のみであることを理由に、屋号の続用一般について同条1項を類推適用することに慎重であるべきとの見解があるが(コンメ⑴220頁〔北村〕)、実務上、同条2項の免責登記は屋号続用の場合でも認められているため(「免責の登記」登記研究674号(2004年)97頁)、免責登記の問題は、屋号続用の場面で同条1項を類推適用するうえでの妨げとはならない。(後掲『事業譲渡の実務』17頁/脚注21)) 
  • 商号を続用せず、屋号を続用する場合でも上記免責の登記を行うことは認められています(塚田佳代=前田和樹「商業・法人登記実務の諸問題(2)」登記研究740号26頁(2009))。

免責登記の方法

商業登記法第31条(営業又は事業の譲渡の際の免責の登記)
 
  1. 商法第17条第2項前段及び会社法第22条第2項前段の登記は、譲受人の申請によつてする。
  2. 前項の登記の申請書には、譲渡人の承諾書を添付しなければならない。

<添付書類>

  • 譲渡人の承諾書(印鑑証明書つき、事業譲渡契約書つき)
  • 商号変更を伴うとき:譲渡会社、譲受会社の株主総会議事録、株主リスト
  • 商号変更を伴わないとき:上記株主総会議事録、株主リストは不要。
  • 事業譲渡契約を承認した株主総会議事録、株主リストは不要(後掲『商業登記総覧』252ノ16頁)

<譲渡会社の承諾書の記載例>

次のとおり実体に合わせて作成します。

令和8年1月31日

大阪市北区□町□番□号

譲受会社 株式会社□□ 御中

     神戸市灘区◎◎町○番○号 

譲渡会社 ◎◎株式会社    

     代表取締役 佐藤 大輔 (法人印) 

承 諾 書

 当社は、貴社に対して、令和年月日付事業譲渡契約書に基づき、貴社(譲受会社)が、下記内容の譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨の登記をすることを承諾します。

以上

登記すべき事項

「当会社は、令和〇年〇月〇日事業譲渡を受けたが、譲渡会社である株式会社甲(事業に使用されている名称「乙」)の債務については弁済する責任を負わない。」

以上

免責登記の実行例(登記記載例)

●個人事業主の免責登記の記載例●

平成18年4月26日民商第1110号依命通知『会社法の施行に伴う商業登記記録例について』3頁
平成18年4月26日民商第1110号依命通知『会社法の施行に伴う商業登記記録例について』3頁

 

●会社の免責登記の記載例●

会社の登記情報に

  1. 会社法人等番号
  2. 商号

に続いて、3番目に次のように登記されます。

平成18年4月26日民商第1110号依命通知『会社法の施行に伴う商業登記記録例について』41頁
平成18年4月26日民商第1110号依命通知『会社法の施行に伴う商業登記記録例について』41頁
●会社分割に伴う免責登記の記載例●  
当会社は、令和年月日新設分割による分割会社である株式会社○○から事業の承継を受けたが、分割会社株式会社○○に債務について、当該新設分割に関する当会社と株式会社○○との間の年月日付新設分割計画書において当会社が承継するものとされた債務を除き、弁済する責任を負わない。

 

●屋号の続用の場合の記載例●

 
当会社は、令和〇年〇月〇日事業譲渡を受けたが、譲渡会社である株式会社甲(事業に使用されている名称「乙」)の債務については責に任じない。
屋号続用の記載例は、後掲『商業登記総覧』252ノ2頁より。

 

●屋号を複数続用の場合の記載例●

当会社は、令和〇年〇月〇日事業譲渡を受けたが、譲渡会社である株式会社甲(事業に使用されている名称「乙」及び同「丙」)の債務については弁済する責任を負わない。

「責に任じない。」ではなく「弁済する責任を負わない。」として欲しいとのこと。

2つ以上屋号の譲渡を受けた場合でも、一つの登記事項となる。登録免許税も1つ分。

(令和8年1月22日神戸地方法務局登記官あて照会回答)

免責の登記の抹消方法

免責の登記は、一度、譲受会社の登記事項に登記してしまうとズッと残り、抹消する方法がありません。これを嫌がって、免責登記を利用しない企業様もあろうかと思います。

この点に関する批判については、司法書士内藤卓のLEGALBLOG「会社法第22条第2項の免責の登記の抹消(2017-05-19)」を参照ください。

商号続用譲受人が免責を得る方法➋第三者へ通知


免責の登記を入れられない(入れたくない)場合もあろうかと思います。

例えば、次のような場合です。

  • 免責登記はズッと残るから
  • その他の事情があるから

このような場合に、免責登記以外に責任を免れるための方法として「第三者への通知」という方法があります(会社法22条2項後段)。

具体的には、事業譲渡後、遅滞なく譲受会社および譲渡会社から第三者(債権者)に対し、譲受会社が譲渡会社の債務について責任を負わない旨を通知します

この通知によって譲受会社が責任を免れることができるのは、その通知を受けた第三者に対してのみであることに注意が必要です。

どのように通知すれば良いか

譲渡人と譲受人から通知しなければならないとなっているだけで、通知の方法や様式については、規定されていません。

したがって、口頭での通知でも有効ですが、後日、通知したことと通知内容を証明するためには、内容証明郵便(配達証明付き)が望ましいと思います。

もっとも通知する第三者が取引先である場合で、内容証明郵便を発出するのを躊躇するときには、内容物のコピーをとったうえで、特定記録郵便など通知が到達したことを証明できるようにした文書で発出すれば宜しいかと存じます。

 

通知文の文例

令和8年1月31日
関係各位

     神戸市灘区◎◎町○番○号 

譲渡人 ◎◎株式会社    

     代表取締役 佐藤 大輔 

     大阪市北区□町□番□号 

譲受人 株式会社□□    

     代表取締役 亀井 何某 

事業譲渡のお知らせ

拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。平素は各別のお引き立てにあずかり、厚くお礼申し上げます。

 さて、この度、譲渡人は、譲受人に対して、令和年月日付で、譲渡人の事業のうち○○事業を事業譲渡する契約を締結しました。譲受人は、譲渡人の商号等を続用いたしますが、譲受人は譲渡人の事業によって生じた債務について、弁済の責任を負いませんので、会社法第22条第2項後段の規定に従い、その旨をご通知いたします。事業譲渡前に、譲渡人に対して発生いたしました債権につきましては、譲渡人にご請求ください。

 今後とも変わらぬご愛顧を賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。

敬具

1. 譲渡人

住所:[譲渡人の住所]

商号:[譲渡人の商号]

2. 譲受人

住所:[譲受人の住所]

商号:[譲受人の商号]

3. 事業譲渡日

令和○年○月○日

4. 続用する商号

[続用する商号]

5. 免責事項

譲渡人の商号等を続用いたしますが、譲受人は譲渡人の事業によって生じた債務について、一切弁済の責任を負いません。

以上

商号続用譲受人が免責を得る方法➌除斥期間(会社法22条3項、同23条2項)


事業譲受人が、債務を弁済する責任を負う場合においても、譲渡会社の責任は、事業を譲渡した日後二年以内に請求又は請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅します。

 

「これは除斥期間を定めるものである(弥永真生『リーガルマインド商法総則・商行為法』59頁(有斐閣、2版、2006年)等)から、中断や停止はありえない(長島・大野・常松法律事務所・アドバンス27頁)。/請求の予告をも含めている趣旨は、条件未成就、期限未到来の債権者を保護するためである(落合=大塚=山下・前掲124頁等)。この期間経過後は、譲受会社のみが責任を負う(近藤・前掲114頁等)。なお、この期間経過前でも、その債権の短期消滅時効により、債務が時効消滅することがあり得る(弥永・前掲59頁)。」

以上、後掲『逐条解説会社法』204頁

債務引受け広告にならないようご注意


事業譲渡を行うと、○○事業を譲渡した譲受したという「お知らせ」を取引先に交付することが多いと思います。その文書を作成する際には、債務引受けとならないように注意が必要です(会社法23条)。

最判昭和29年10月7日民集8巻10号1795頁
  広告の文言に債務引受けの文字がない場合でも社会通念上債務引受けをしたと理解されるような記載があれば旧商法28条(会23条1項)の適用があるとし、「地方軌道事業並びに路線バス事業を・・・譲受け」たとの文言による広告は、当該事業に伴う営業上の債務をも引き受ける趣旨を包含する」と判示した。
(上記要約は、後掲『事業譲渡・譲受けの法務』27頁から引用)
東京高判昭和35年7月4日判タ108号47頁
  「営業を継承」という広告文言につき、上記最判同旨。

裁判例については、後掲『事業譲渡・譲受けの法務』27頁以下が詳しい。

詐害事業譲渡を防ぐ方法


【第1関門】商号を続用しなかった場合、商号を続用しても免責登記や第三者通知をした場合であって

【第2関門】債務を引き受ける広告をしなかったときには、

事業譲渡の譲受会社は、譲渡会社の債務を弁済する責任を負いません。

 

しかしながら、「詐害事業譲渡(商法18の2Ⅰ、会社法23の2Ⅰ)」となった場合には、事業譲渡の譲受会社は、譲渡会社の債務を弁済する責任を負うことになります【第3関門】。

 

これを防ぐ唯一の方法は、財務書類のデューデリジェンスです。

「事業譲渡では債務を引き継がないのが原則だから、財務書類を見せたくない」という譲渡人(売主)に対しては、この規定を説明して、財務書類のデューデリジェンスを行ってください。

デューデリジェンスについては、記事『M&A②デューデリジェンス』をご参照ください。

詐害事業譲受人が免責を得る方法:時効又は除斥期間(会社法23条の2第2項)

司法書士の報酬・費用


  業務内容 司法書士の報酬 実費(税など)

譲渡人:会社

譲受人:会社

(譲渡会社につき)

商号変更登記

 

登録免許税

3万円(ツ)

(譲受会社につき)

商号変更登記

免責登記

 

登録免許税

3万円(ツ)

(譲受会社につき)

免責登記

 

登録免許税

3万円(ツ)

譲渡人:会社

譲受人:個人事業主

(会社法24Ⅰ)

(譲渡人:会社につき)

商号変更の登記

   

(譲受人:個人事業主につき)

商号変更の登記?!

免責の登記?!

   

譲渡人:個人事業主

譲受人:会社

(会社法24Ⅱ)

(譲渡人:個人事業主につき)

 

商号廃止の登記?!

   

(譲受人:会社につき)

商号変更の登記

免責の登記

   

譲渡人:個人事業主

譲受人:個人事業主

 

商号の登記

 

  登録免許税

 

商号の譲渡の登記

 

  登録免許税
免責の登記

 

  登録免許税

商号の廃止・変更・更正・消滅の登記

  登録免許税
登記の抹消    

参考文献


以下を参考にしました。

  • 登記制度研究会編集『商業登記総覧』新日本法規/1960年
  • 関俊彦『商法総論総則(2版)』有斐閣/2006年
  • 落合誠一=大塚龍児=山下友信『商法I総則・商行為(3版補訂版)』有斐閣/2007年
  • 近藤光男『商法総則・商行為法(5版補訂版)』有斐閣/2008年
  • 酒巻俊雄 編集代表 龍田節 編集代表『逐条解説会社法第1巻総則・設立 ― 会社法の沿革・会社法の性格・第1条~第103条』中央経済社/2008年
  • 三浦亮太他『事業譲渡・譲受けの法務』中央経済社/2011年
  • 関口 智弘,竹平 征吾,細野 真史,谷内 元,山口 拓郎,浦田 悠一,髙田 真司,山本 龍太朗『事業譲渡の実務 法務・労務・会計・税務のすべて』商事法務/2018
  • 藤田勝利・北村雅史 編『プライマリー商法総則・商行為法〔第4版〕』法律文化社/2019年
  • 松嶋 隆弘 編 大久保 拓也 編『商事法講義2(商法総則・商行為)』中央経済社/2020年
  • 北村雅史 編『スタンダード商法Ⅰ 商法総則・商行為法〔第2版〕』法律文化社/2022年
  • 青竹正一 著『法律学講座 商法総則・商行為法(第3版)』信山社/2023年