一般的な事業譲渡では、事業譲渡契約書の締結日(押印日)に、事業の譲渡(譲渡対象資産の所有権移転)が行われることは少なく、クロージング日を別に設け、クロージングの前提条件が整ったことを確認した後、譲渡代金を支払うことで譲渡対象資産の所有権が移転します。
この記事では、譲渡対象資産に動産が含まれている場合において、クロージング日に行うべき事項を解説しています。
| もくじ | |
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〔凡例〕この記事では、次の法令が出てきます。法令名が長いときは、次のとおり略記します。
動産の所有権は、当事者の意思表示のみによって効力が生じます。したがって、事業譲渡の実行をもって、譲渡対象である動産の所有権は譲渡会社から譲受会社に移転します。このため、譲受会社は譲渡会社に対して、特別な手続なしに動産の所有権を主張することができます。
ただし、譲受会社が、第三者に対して、動産の所有権を主張するためには、その動産の「引渡し」が必要です(民法178条)。この対抗要件を備えなければ、譲渡会社が第三者に二重譲渡を行った場合に、譲受会社はその第三者に対して権利を主張できません。
| 民法第178条(動産に関する物権の譲渡の対抗要件) | |
| 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。 | |
「不動産を購入したら、登記する」のと同じように、「動産を買ったら引渡しを受ける」ようにしましょう。不動産の所有権について、買主は売主に対して、特別な手続きなしに動産の所有権を主張することができる一方、買主が第三者に対抗するためには、登記が必要です。
民法で定められている引渡しの方法には、以下の4種類があります。
会社法人が動産を譲渡した場合【1】においては、民法178条の引渡しに代えて、動産譲渡登記を行うことにより、対抗要件を具備することも可能です(動産債権譲渡特例法3条)。
| 物の移動 | 占有者の変化 | 対抗要件 | 質権設定の引渡し | 即時取得 | |
| 現実の引渡し | あり | 明確 | ◎ | ○ | ◎ |
| 簡易の引渡し | なし | 占有の性質変更 | ◎ | ○ | ○ |
| 占有改定 | なし | 所有名義のみ変更 | ◎ | ×(民法345条) | ×【2】 |
| 指図による占有移転 | なし | 間接占有の移転 | ◎ | ○ | △ |
【1】動産譲渡登記制度は、個々の動産だけではなく、集合動産も対象ですが、以下の動産は対象外です。
また、動産譲渡登記は、譲渡人と譲受人の共同申請によって、譲渡人の会社登記に紐付いた動産譲渡登記ファイルに登記されます。
動産譲渡登記は、唯一の対抗要件ではないため、譲受人から譲渡人に対して登記への協力を強制することまではできないと思われます。譲受人が、譲渡人に対して、動産譲渡登記を求める場合には、事業譲渡契約書に「動産譲渡登記を行う」旨を明記しておけば、譲渡人も協力してくれるでしょう。
【2】最判昭和35年2月11日民集14-2-168
事業譲渡においては、譲渡対象の動産が多数であったり、譲渡後も動産が譲渡人の下で稼働を続ける場合があるため、動産の引渡し方法は「現実の引渡し」ではなく以下の方法も考えられます。
しかし、これらの「引渡し方法」は、実際に引渡しがあったのか、外から見ても分かりづらく、後日証明することも困難です。そこで、クロージング日に、引渡証や覚書を作成する必要があるのです。
動産譲渡の第三者に対する対抗要件は、第三者よりも「早く」引渡しを受けることです。
「引渡完了確認書」に確定日付の付与を受けることで、「引渡し」の時期の立証を容易に行うことができます。
もう少し詳しく説明します。誰がより早く引渡しを受けたのか証明するためには、書類に「確定日付」を取得します。確定日付が押印してあることで、遅くとも、その「確定日付」までには文書が成立していた(引渡しが行われた)ことを証明することができるためです。
記事「確定日付の効力と要件(契約書には確定日付があった方が良いのか?)」もご参照ください。
「引渡完了確認書」には、次のような効果があります。
引渡完了確認書は、不動産売買でも作成するのが通常ですので、より複雑で引渡しするものが多い事業譲渡で作成しないことはあり得ません。
次のような内容を記載します。
(これらが記載されていれば、文書のタイトルは何でも結構です。)
これらが記載されていることを確認し、譲渡会社、譲受会社が記名押印します。
確定日付が必要な理由は、上記のとおりです。
また、確定日付を取得するためには、その文書が完成していることなどの条件があります。詳しくは、記事「確定日付の効力と要件(契約書には確定日付があった方が良いのか?)」を参照ください。
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