契約書の中に、次のような条項が入っていることがあります。

  • 売主は、買主に対して、○○が正確であることを表明し保証する。
  • 売主は、買主に対して、売買対象の会社について反社会的勢力との付き合いがないことを表明し保証する。

このように表明し、保証する条項のことを「表明保証条項」といいます。

「表明保証条項」は、M&Aの契約書(株式譲渡契約書、事業譲渡契約書)に定めることが多い条項です。

 

この記事では「表明保証」について解説しています。

もくじ
  1. 表明保証条項とは
    1. 表明保証条項の機能
    2. 表明保証条項の注意点
    3. 補償条項、解除条項
  2. 表明保証条項の構成
  3. 表明保証条項の具体例
    1. 契約書本文への記載例
    2. 契約書別紙の記載例
    3. 契約書別紙の逐条解説
  4. M&Aスキーム(株式譲渡、事業譲渡)ごとに、表明保証条項に入れるべき項目は、異なるか
    1. 共通点
    2. 相違点
    3. まとめ(スキームごとに重要な表明保証条項)
  5. 人気の関連ページ
  6. 参考文献等

表明保証とは


表明保証とは、契約当事者の一方が他方の当事者に対し、契約締結時や代金支払時(クロージング時)などの特定の時点において、契約の対象や当事者自身に関する一定の事項が真実かつ正確であることを表明し、その内容を保証する条項です。

 

表明保証の機能

表明保証条項には、以下のような機能があります。

  1. リスク分配機能:契約の前提となる事実が真実でなかった場合に備え、当事者間の潜在的なリスクを分配する機能です。表明保証した当事者はその事実について責任を負う一方、それ以外の事実については責任を負わないことで、責任範囲を明確化します。
  2. デューデリジェンス(DD)の補完機能:DDでは発見しきれなかった問題点を把握したり、DDで開示された情報が網羅的かつ正確であることを担保したりする機能です。表明保証に関する交渉を通じて、表明する側が自発的に情報を開示することが期待されます。
  3. 情報開示の促進・前提条件の確認:表明保証の対象事項を交渉する過程で、表明する側からの自発的な情報開示を促します。また、契約締結の前提となる事実や権利関係を確認する役割も担います。

 

表明保証の注意点

表明保証条項を契約書に入れる場合、以下の点に注意が必要です。

  • 責任の明確化:表明保証は法定責任ではない(法律上定められた義務ではないので違反の効果も法律で定まっていません。)ため、その内容や効果を契約書で別途明確に定める必要があります。
  • 補償条項との連携:表明保証違反を理由に損害賠償を請求するためには、損害を補償する義務を定めた「補償条項」をセットで規定することが必要です。また、損害額の立証が困難な場合に備え、あらかじめ損害賠償額を予定しておくことも検討されます。
  • 表明保証を受ける側の注意義務:表明保証違反の事実について、表明保証を受けた側が知っていた(悪意)、または重大な過失によって知らなかった場合、公平の見地から表明保証者の責任が免除される余地があるとした裁判例があります。したがって、簡単な調査を怠るなど重過失があった場合、表明保証責任を追及できなくなる可能性があります。

 

補償条項、解除条項

表明保証に違反があった場合、それ自体から直接的に効果が生じるわけではなく、通常は契約書内の他の条項と組み合わせることで以下のような効果が発生します。

  • クロージング前に違反が判明した場合、相手方は取引の実行(クロージング)を拒否できる。
  • 相手方は契約を解除できる。
  • 表明保証違反によって相手方が被った損害について、補償を請求できる(通常「補償条項」として定めます。)。

表明保証の構成


表明保証する項目は、多岐に渡ることが通常で、この項目だけで契約書が分厚くなってしまいます。そこで、別紙にまとめて記載することで、見やすくするのが通常です。

  • 契約書本文:具体的な保証内容
    • 売主:売主自身及び譲渡対象事業についての表明保証
    • 買主:買主自身についての表明保証
  • 契約書(別紙1):売主が保証する項目
  • 契約書(別紙2):買主が保証する項目

表明保証条項の具体例


売主を甲、買主を乙としたとき、次のようになります。

 

契約書本文への記載

中小企業庁が、公開している「ひな形」は次のとおりです。

第7条 (甲の表明及び保証)

甲は、乙に対し、本契約締結日及びクロージング日において、別紙1に記載の各事項が真実かつ正確であることを表明し保証する。

 

第8条 (乙の表明及び保証)

乙は、甲に対し、本契約締結日及びクロージング日において、別紙2に記載の各事項が真実かつ正確であることを表明し保証する。

このひな形では、売主が表明保証違反した場合において、買主にも故意(知っていること)・重過失(知っていると同視できるほどの重大な不注意)があったときに、買主が売主に対して、表明保証違反を理由として、損害の賠償を請求することが可能か疑義が生じかねません。

表明保証の相手方の主観が表明保証の効力に与える影響については議論があるためです。

裁判例では、表明保証の相手方が違反について悪意である場合には表明保証責任を免れ、重過失がある場合もこの責任を免れる余地があるとしたものがあります(東京地判平成18年1月17日判時1920号136頁)。

 

したがって、売主の表明保証違反があった場合において、買主に故意・重過失があったときでも、買主が売主の責任を追及できるよう、買主の主観が表明保証の効力に影響を及ぼさない旨を定めます。

第7条 (甲の表明及び保証)
  1. 甲は、乙に対し、本契約締結日及びクロージング日において、別紙1に記載の各事項が真実かつ正確であることを表明し保証する。
  2. 前号により甲が表明及び保証した事項に関する乙の認識は、前項の甲の表明及び保証の効力に一切影響を及ぼさない。

第8条 (乙の表明及び保証)

  1. 乙は、甲に対し、本契約締結日及びクロージング日において、別紙2に記載の各事項が真実かつ正確であることを表明し保証する。
  2. 前号により乙が表明及び保証した事項に関する甲の認識は、前項の乙の表明及び保証の効力に一切影響を及ぼさない。

契約書別紙(表明保証条項)の記載例

こちらも中小企業庁のひな形をご紹介します。

売主による保証条項が、買主のそれと比べて、多いことがわかります。

(別紙1)

甲が表明及び保証する事項

 

(1)甲に関する表明及び保証

  • ① 自然人:甲は、【日本国籍を有し日本国に居住する自然人である。/適法に設立され、存続している法人であり、本契約を締結し、本契約に基づく義務を履行するための全ての権限を有している。】
  • ② 本契約の締結及び履行:【甲自然人の場合:甲は、本契約を適法かつ有効に締結し、これを履行するために必要な権限及び権能を全て有しており、法令等上の制限及び制約を受けていないこと。/甲が法人の場合:本契約の締結及び履行は、甲の定款その他の組織文書、株主総会及び取締役会の決議、並びに適用法令に違反しない。】
  • ③ 強制執行可能性:本契約は、甲により適法かつ有効に締結されており、かつ乙により適法かつ有効に締結された場合には、甲の適法、有効かつ法的拘束力のある義務を構成し、かかる義務は、本契約の各条項に従い、甲に対して執行可能であること。
  • ④ 法令等との抵触の不存在:甲による本契約の締結及び履行は、(i)甲に適用ある法令等又は司法・行政機関等の判断等に違反するものではなく、(ii)甲が当事者である契約等について、債務不履行事由等を構成するものではないこと。また、甲による本契約の締結又は履行に重大な影響を及ぼす、甲を当事者とする訴訟等は係属しておらず、かつ、将来かかる訴訟等が係属するおそれもないこと。
  • ⑤ 反社会的勢力との関係の不存在:甲は、反社会的勢力ではなく、反社会的勢力との間に取引、資金の提供、便宜の供与、経営への関与その他一切の関係又は交流がないこと。なお、反社会的勢力とは、以下の者のことを指し、本契約において以下同じとする。
    • i. 暴力団(その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体をいう。)
    • ii. 暴力団員(暴力団の構成員をいう。)
    • iii. 暴力団準構成員(暴力団員以外の暴力団と関係を有する者であって、暴力団の威力を背景に暴力的不法行為等を行うおそれがある者、又は暴力団若しくは暴力団員に対し資金、武器等の供給を行う等、暴力団の維持若しくは運営に協力し若しくは関与する者をいう。)
    • iv. 暴力団関係企業(暴力団員が実質的にその経営に関与している企業、暴力団準構成員若しくは元暴力団員が経営する企業で暴力団に資金提供を行う等、暴力団の維持若しくは運営に積極的に協力し若しくは関与する企業又は業務の遂行等において積極的に暴力団を利用し暴力団の維持若しくは運営に協力している企業をいう。)
    • v. 総会屋等(総会屋、会社ゴロ等企業等を対象に不正な利益を求めて暴力的不法行為等を行うおそれがあり、市民生活の安全に脅威を与える者をいう。)
    • vi. 社会運動等標ぼうゴロ(社会運動若しくは政治活動を仮装し、又は標ぼうして、不正な利益を求めて暴力的不法行為等を行うおそれがあり、市民生活の安全に脅威を与える者をいう。)
    • vii. 特殊知能暴力集団等(上記ⅰないしⅵに掲げる者以外の、暴力団との関係を背景に、その威力を用い、又は暴力団と資金的なつながりを有し、構造的な不正の中核となっている集団又は個人をいう。)
    • viii. その他上記ⅰないしⅶに準ずる者
  • ⑥ 倒産手続等の不存在:甲について、支払停止、手形不渡、銀行取引停止等の事由は生じておらず、かつ、破産、民事再生等の倒産手続開始の申立てはされておらず、それらの申立て事由も生じておらず、私的整理も行われていないこと。
  • ⑦ 対象会社との取引の不存在:クロージング日において、甲と対象会社の間には、甲が対象会社の役員として提供する役務及びそれに対する報酬等の支払を除き、役務、便益の提供その他の取引(契約書の有無を問わない。)は存在しないこと。ただし、本契約において記載がある事項については、この限りではない。【1】

 

(2)対象会社に関する表明及び保証

  • ① 対象会社の設立及び存続:対象会社は、日本法に基づき適法かつ有効に設立され、かつ存続する株式会社であり、現在行っている事業に必要な権限及び権能を有していること。
  • ② 対象会社の株式
    • i. 対象会社の発行済株式は本株式が全てであること。本株式は、その全てが適法かつ有効に発行され、全額払込済みの普通株式であること。
    • ii. 甲は、本株式の全てを何らの負担、制限及び制約のない状態で、適法かつ有効に所有していること。
    • iii. 本株式について、訴訟等、クレーム等、司法・行政機関等の判断等は存在しないこと。
    • iv. 対象会社は、転換社債、新株引受権付社債、新株引受権、新株予約権、新株予約権付社債その他対象会社の株式を取得できる権利を発行又は付与していないこと。
  • ③ 子会社及び関連会社の不存在:対象会社は、子会社及び関連会社を有していないこと。
  • ④ 倒産手続等の不存在:対象会社について、支払停止、手形不渡、銀行取引停止等の事由は生じておらず、かつ、破産、民事再生、会社更生、特別清算等の倒産手続開始の申立てはされておらず、それらの申立て事由も生じておらず、私的整理も行われていないこと。
  • ⑤ 計算書類等:○○年○○月○○日を終期とする事業年度に係る対象会社の計算書類その他の甲が乙に開示した計算書類等(以下「本計算書類等」という。)は、適用ある法令等及び日本において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従って作成されており、その作成基準日及び対象期間における対象会社の財政状態及び経営成績を、重要な点において正確に示していること。
  • ⑥ 資産:対象会社は、その事業の遂行のために使用している有形又は無形資産につき、有効かつ対抗要件を具備した所有権、賃借権又は使用権を保有しており、かかる資産上には対象会社以外の者に対する債権を被担保債権とする担保権は存在しないこと。また、対象会社の所有に係る不動産は、良好な状態に維持されており、重要な変更を加えられていないこと。
  • ⑦ 知的財産権:対象会社は、その事業を遂行するにあたり必要な全ての特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権その他の知的財産権(以下「知的財産権」という。)について、自ら保有するか又は知的財産権を使用する権利を有しており、第三者の知的財産権を侵害しておらず、過去に侵害した事実もなく、侵害しているとのクレームを受けたこともないこと。また、第三者が対象会社の知的財産権を侵害している事実もないこと。
  • ⑧ 負債:対象会社は、保証契約、保証予約、経営指導念書、損失補填契約、損害担保契約その他第三者の債務を負担し若しくは保証し、又は第三者の損失を補填し若しくは担保する契約の当事者ではないこと。対象会社は、○○年○○月○○日以降、通常の業務過程で生じる債務及び負債、本計算書類等に記載された負債、第11条に従い甲に支払われる役員に係る役員退職慰労金債務を除き、一切の債務及び負債を負担していないこと。
  • ⑨ 重要な契約:対象会社が締結する重要な契約は全て有効に成立・存続し、それぞれ各契約の全当事者を拘束し、かつ執行可能な義務を構成すること。全ての重要な契約に関し、これらの内容を変更若しくは修正し、又は契約の効果を減ずるような約束は、口頭又は文書を問わず一切存在しないこと。全ての重要な契約について、本契約の締結及び履行は解除事由又は債務不履行を構成せず、また、当該契約の相手方による理由なき解除を認める規定は存在しないこと。全ての重要な契約について、対象会社の債務不履行の事実は存在せず、また、今後債務不履行が発生するおそれもないこと。
  • ⑩ 競業避止義務の不存在:対象会社は、取引先等との契約において、競業避止義務等の義務のうち、その事業の遂行に重大な影響を与える制限を内容とする義務を負っていないこと。【2】
  • ⑪ 労働関係:対象会社は、その従業員に対し法令等上支払義務を負っている全ての賃金を支払っていること。対象会社には、ストライキ、ピケッティング、業務停止、怠業その他従業員との間での労働紛争は存在しないこと。対象会社は、いかなる従業員に対しても、退職金等の経済的利益を提供する義務を負っていないこと。対象会社においては、以下の労働組合が組織されており、対象会社と当該労働組合との間で以下の労働協約が締結されていること及び以下に記載されたもの以外に組織された労働組合はなく、締結されている労働協約も存在しないこと。
  • ⑫ 税務申告等の適正:対象会社は、過去7年間、国内外において、法人税をはじめとする各種課税項目及び社会保険料等の公租公課について適法かつ適正な申告を行っており、適時にその支払を完了していること。また、クロージング日以前の事業に関して、対象会社に対する課税処分がなされるおそれは存在しないこと。
  • ⑬ 法令遵守:対象会社は、過去○年間において、適用ある法令等(労働関連の各法令等を含む。)及び司法・行政機関等の判断等を、重要な点において、遵守しており、重要な点において、これらに違反したことはないこと。対象会社は、過去○年間において、事業停止等の一切の行政処分を受けていないこと。
  • ⑭ 反社会的勢力との関係の不存在:対象会社及びその役員は反社会的勢力ではなく、反社会的勢力との間に取引、資金の提供、便宜の供与、経営への関与その他一切の関係又は交流がないこと。対象会社の従業員は、甲の知る限り、反社会的勢力ではなく、反社会的勢力との間に取引、資金の提供、便宜の供与、経営への関与その他一切の関係又は交流がないこと。
  • ⑮ 情報開示:本契約の締結及び履行に関連して、甲又は対象会社が、乙に開示した本株式又は対象会社に関する一切の情報(本契約締結日前後を問わず、また、書面等の記録媒体によると口頭によるとを問わない。)は、重要な点において、全て真実かつ正確であること。 

(別紙2)

乙が表明及び保証する事項

  • ① 設立及び存続:乙は、日本法に基づき適法かつ有効に設立され、かつ存続する株式会社であり、現在行っている事業に必要な権限及び権能を全て有しており、法令等上の制限及び制約を受けていないこと。
  • ② 本契約の締結及び履行:乙は、本契約を適法かつ有効に締結し、これを履行するために必要な権限及び権能を有していること。乙による本契約の締結及び履行は、その目的の範囲内の行為であり、乙は、本契約の締結及び履行に関し、法令等又は乙の定款その他内部規則において必要とされる手続を全て適法に履践していること。
  • ③ 強制執行可能性:本契約は、乙により適法かつ有効に締結されており、かつ甲により適法かつ有効に締結された場合には、乙の適法、有効かつ法的拘束力のある義務を構成し、かかる義務は、本契約の各条項に従い、乙に対して執行可能であること。
  • ④ 法令等との抵触の不存在:乙による本契約の締結及び履行は、(i) 乙に適用ある法令等又は司法・行政機関等の判断等に違反するものではなく、(ii) 乙の定款その他内部規則に違反するものではなく、(iii) 乙が当事者である契約等について、債務不履行事由等を構成するものではないこと。また、乙による本契約の締結又は履行に重大な影響を及ぼす、乙を当事者とする訴訟等は係属しておらず、かつ、将来かかる訴訟等が係属するおそれもないこと。 
  • ⑤ 反社会的勢力との関係の不存在:乙及びその役員は反社会的勢力ではなく、反社会的勢力との間に取引、資金の提供、便宜の供与、経営への関与その他一切の関係又は交流がないこと。乙の従業員は、乙の知る限り、反社会的勢力ではなく、反社会的勢力との間に取引、資金の提供、便宜の供与、経営への関与その他一切の関係又は交流がないこと。
  • ⑥ 倒産手続等の不存在:乙について、支払停止、手形不渡、銀行取引停止等の事由は生じておらず、かつ、破産、民事再生、会社更生、特別清算等の倒産手続開始の申立てはされておらず、それらの申立て事由も生じておらず、私的整理も行われていないこと。

契約書別紙(表明保証条項)の逐条解説

表明保証は、多岐に渡りますが、その趣旨を一つずつ確認して、今回必要な条項か否かを判断していく必要があります。

 

【1】 対象会社との取引の不存在
  クロージング日において、甲と対象会社の間には、甲が対象会社の役員として提供する役務及びそれに対する報酬等の支払を除き、役務、便益の提供その他の取引(契約書の有無を問わない。)は存在しないこと。ただし、本契約において記載がある事項については、この限りではない。
 

☛下記2つの意味で申告を受けておく必要があります。

  1. グループ会社における取引が売上の大半を占めている場合には、M&A後に売上を維持できるのか怪しくなります。
  2. グループ会社間取引では、対第三者との取引よりも、有利な取引条件が設定されていることもあります。M&A後、グループ会社間取引を解消するのか、継続するのか、条件を変更するのかを契約書本文で定める必要が生じます。
【2】 競業避止義務の不存在
  対象会社は、取引先等との契約において、競業避止義務等の義務のうち、その事業の遂行に重大な影響を与える制限を内容とする義務を負っていないこと。
  ☛競業避止義務を負う契約を引き継いだ場合、「買主の既存事業」も影響を受けることがあります。

M&Aスキーム(株式譲渡、事業譲渡)ごとに、表明保証条項に入れるべき項目は、異なるか


M&Aのスキーム(株式譲渡、事業譲渡)によって、表明保証条項に入れるべき項目は異なります。

多くの項目は共通していますが、取引の対象が異なるため、それに起因する重要な相違点があります。

共通点

株式譲渡契約と事業譲渡契約における表明保証条項は、多くの場合で規定される項目が共通します。個別具体的な規定内容については重複する部分が多数あります。

 

売主に関する事項、情報の開示に関する事項などは両スキームで同じです。

 

相違点

最も大きな違いは、表明保証の「対象」です(後掲『会社法実務解説』398頁)。

 

(1) 株式譲渡

株式譲渡では、売買の目的物が「対象会社の株式」であるため、表明保証は対象会社全体に及びます (後掲『新民法対応 契約審査手続マニュアル』387頁)。具体的には、以下の3つに大別されます。

  • 売主自身に関する事項
  • 売買の目的物である対象会社の株式に関する事項
  • 対象会社の資産・負債・事業・財務状況等に関する事項

株式譲渡では、会社の資産や負債をそのまま引き継ぐため、偶発債務などのリスクを分離できません。そのため、表明保証条項によって、売主に対して偶発債務の不存在などを保証させ、違反があった場合に金銭的な補償を求めることでリスクヘッジを図ります(後掲『M&A法大系 第2版』58頁)。

 

(2) 事業譲渡

事業譲渡では、表明保証の対象は「承継対象となる事業及びその財産等」となります(後掲『会社法実務解説』398頁)。具体的には、「譲渡対象となる事業・資産・債務・契約・従業員等に関する事項」が中心です(後掲『契約書作成の実務と書式』284頁)。

事業譲渡の大きな特徴は、資産・負債を取捨選択できる点です。買主は取得したい資産・負債のみを承継し、偶発債務などの望まない負債を売主に残すことが可能です。そのため、株式譲渡ほど偶発債務の不存在に関する表明保証の重要性は高くなく、むしろ承継対象として特定された資産や負債に関する表明保証が重要となります(後掲『M&A法大系 第2版』58頁)。

まとめ(スキームごとに重要な表明保証条項)

  株式譲渡 事業譲渡/会社分割
  • 譲渡対象の株式・資本構成【1】
△重要でない
  • 譲渡対象の「特定」【2】
△重要でない ◎重要
  • 計算書類等
  • 通常の業務運営
  • 不動産・動産・知的財産権・契約等
  • 役職員
  • 法令等の遵守・許認可等
  • 環境
  • 訴訟等
  • 反社会的勢力との関係の不存在
  • 情報開示の正確性

【1】例えば、①株式そのもの、②対象会社の発行済株式総数、③新株予約権の有無といった事項である。

【2】例えば、次の事項について、売り手側の表明保証を検討すべきです。

  1. 一定の基準日(たとえばM&A取引に関する正式契約が締結される直近の四半期末日)において対象となる事業を構成する資産、債務、契約、従業員等は売り手側から提供されたリストに記載されたとおりであること(リストを契約の別紙として添付することもある)
  2. 基準日以降契約締結日までに通常の業務過程の範囲内で生じた変更以外の変更がないこと
  3. 契約締結日以降契約取引の実行日(クロージング日)までに通常の業務過程の範囲内で生じた変更あるいは契約で想定されている変更(たとえば上述した資産の切り分けや法令違反の状態の是正のための措置等)以外の変更がないこと

(酒井 竜児,岩崎 友彦,大久保 圭,宰田 高志,杉野 由和,滝川 佳代,田子 弘史,服部 薫『会社分割ハンドブック〔第3版〕』(商事法務、2021)212頁参照

【3】事業譲渡契約における売主の表明保証は、株式譲渡契約における売主自身に関する事項(法人の存続・権限、契約締結の授権行為、強制執行可能性、法令等との抵触の不存在、破産申立原因等の不存在など)に加え、株式譲渡契約の対象会社に関する事項の多くが、譲渡対象事業に関する事項として含まれます。

事業譲渡契約書の表明保証条項が、株式譲渡契約書のそれと大差ないことについては、下記参照。

  • 後掲『事業譲渡の実務』158頁
  • 後掲『契約書作成の実務と書式』284頁

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参考文献


この記事を執筆するために下記文献等を参考にしました。

  • 宍戸善一 (一橋大学教授)/監修 岩倉正和 (一橋大学教授・弁護士),佐藤丈文 (弁護士)/編著『会社法実務解説』有斐閣/2011年
  • 編集/愛知県弁護士会 研修センター運営委員会 法律研究部 契約審査チーム『新民法対応 契約審査手続マニュアル』新日本法規出版/2018
  • 関口智弘ほか著『事業譲渡の実務 法務・労務・会計・税務のすべて』商事法務/2018
  • 阿部・井窪・片山法律事務所/編『契約書作成の実務と書式 第2版 企業実務家視点の雛形とその解説』有斐閣/2019
  • 森・濱田松本法律事務所/編『M&A法大系 第2版』有斐閣/2022年