有限会社は二度と設立することはできません。有限会社のメリットを熟知なさっている会社様は、有限会社のまま(株式会社に変更せずに)続けていらっしゃいます。
ところが、有限会社のままでは、組織再編の受け皿(吸収合併して存続する会社、会社分割して承継する会社)になることができません。そんなときには、組織再編の登記の前に、有限会社を株式会社に変更する登記をします。
この記事では、有限会社を株式会社に組織変更して設立する手続きについて解説しています。
有限会社を有限会社のまま商号変更する場合には、記事「流行る(はやる)商号・屋号の付け方」、記事「類似商号・登録商標等の調査は必要か?!」をご参照ください。
もくじ | |
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〔凡例〕この記事では、次の法令が出てきます。法令名が長いときは、次のとおり略記します。
有限会社の(通常の)商号変更 |
有限会社の商号変更による株式会社の設立 | |
会社形態 |
変わらない(有限会社のまま) |
有限会社から株式会社に変化する。 |
商号(社名)の変更 |
「有限会社○○」のうち「○○」の部分のみ変更する。 「有限会社」は変わらない。 |
会社の種類を表す「有限会社」が「株式会社」に変更する。 他の部分も変更できる。 例)有限会社佐藤→サイトー株式会社 |
必要な決議 | 株主総会の特別決議【1】 | 株主総会の特別決議【1】 |
定款変更 | 商号の規定のみ | 株式会社の規定にあわせて、定款全体を変更 |
公証人による定款認証 | 不要 | 不要 |
登記の種類 | 商号変更登記 |
商号変更による有限会社の「解散登記」と 商号変更による株式会社の「設立登記」を 同時に申請する。 |
登録免許税 | 3万円(ツ) |
解散登記3万円(レ) 設立登記3万円(ホ)【2】 |
効力発生日 | 決議の日 | 登記(整備法45Ⅱ) |
【1】有限会社の特別決議の要件は、次のとおりです。
総株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、当該株主の議決権の4分の3(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数(整備法14Ⅲ)。
【2】資本金の額×1.5/1000(登録免許税法施行規則12に規定する金額〔商号変更前の有限会社の資本金額〕を超える部分は7/1000)で計算した税額が3万円未満なら3万円(登録免許税法17条の3。同法別表第一⑲(一)ホ)。
通常、会社形態を変更する場合には、債権者に対する公告など複雑な手続きを行う必要があります。
ところが、有限会社を株式会社に変更する手続きは、商号を変更するだけ(整備法45Ⅰ)と整理されていますので、株主総会決議だけで、変更することが可能です。
商号を変更するだけの手続きですので、他の組織再編手続きと比較しても、司法書士報酬は、低額です。
有限会社の場合、取締役が1名しかいない場合、会社の代表者であっても「取締役」としか名乗ることができません。
株式会社の場合、取締役が1名しかいない場合でも、代表取締役と名乗ることができます。
有限会社のままでは、吸収合併や会社吸収分割で他社を承継することができません(整備法37)。
有限会社のままでは、株式交換、株式移転、株式交付を利用できません(整備法38)。
株式会社になることで、フルスペックの会社法スキームを利用できるようになります。
一括申請の根拠となる通達「定款の変更と同時に,資本金の額の増加その他の登記事項の変更が生じた場合において,移行による設立の登記の申請書に当該変更後の登記事項が記載されたときは,組織変更による設立の登記と同様に,これを受理して差し支えない。(通達78頁)」
なお、司法書士業界では、おおむね次のように使い分けています。
登記の種類 | 一括申請の可否 |
登録免許税の加算
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商号の変更 | 可能 | 加算なし | |
本店移転 |
不可【1】。 連件申請は可能 |
別途。 | |
公告をする方法の変更 | 可能 | 加算なし | |
事業目的の変更 | 可能 | 加算なし | |
発行可能株式総数の変更 | 可能 | 加算なし | |
発行済株式の総数並びに種類及び数の変更 |
可能 | 加算なし | |
資本金の額の変更 |
募集株式の発行 |
可能 |
一定まで加算なし 【2】 |
減資 | 可能【3】 | 加算なし | |
発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容 (種類株式発行) |
可能【4】 | 加算なし | |
役員変更 | 可能 | 加算なし | |
取締役等の会社に対する責任の免除に関する規定の設定 | 可能 | 加算なし | |
非業務執行取締役等の会社に対する責任の制限に関する規定設定 | 可能 | 加算なし | |
支店 | 可能 | 加算なし | |
支配人 | 可能 | 別途【5】 | |
取締役会設置会社の定め | 可能 | 加算なし | |
監査役設置会社の定め | 可能 | 加算なし |
【1】一括で登記されると新しくできた株式会社の登記記録から、元の有限会社の登記記録を探すことができなくなるためです。これは管轄内本店移転の場合であっても同じです。
(商業登記実務研究会(編)岩原良夫司法書士(代表)『問答式 商業登記の実務』加除式/2006/2594頁)
【2】資本金の額×1.5/1000(登録免許税法施行規則12に規定する金額〔商号変更前の有限会社の資本金額〕を超える部分は7/1000)で計算した税額が3万円未満なら3万円(登録免許税法17条の3。同法別表第一⑲(一)ホ)。
【3】一般社団法人商業登記倶楽部編『商業・法人登記実務相談事例2800問+200』Q15-132
【4】種類株式発行についても可能(一般社団法人商業登記倶楽部編『商業・法人登記実務相談事例2800問+200』Q15-089)
【5】会社設立と同時に支配人選任登記を申請する場合と同様(登記研究505号質疑応答)。
それでも7万円ほど(実費1万5000円、司法書士報酬5万円程)のコストです。
有限会社設立の根拠法である有限会社法が廃止され(整備法1条)、有限会社は「有限会社」という名前(整備法3Ⅰ)の「株式会社」として存続することとされた(整備法2Ⅰ)ためです。
記事「新しく設立できないけれど実は優れもの?有限会社の特徴」もご参照ください。
最寄りの当グループ事務所にご相談ください。
法人の名前が変わりますので、法人印を作り直す法人様が多いです。
次の事項を決議します。
登記申請した日が、商号変更の効力発生日となります(整備法45Ⅱ)。
なお、会社設立日は、有限会社の設立日を引継ぎます。
また、取締役、監査役の就任日を記載する必要はありません。登記官が職権で登記します【2】。
【1】有限会社の株主総会の特別決議は「総株主の半数以上であって、当該株主の議決権の4分の3以上に当たる多数」をもって行います(整備法14Ⅲ)。
【2】登記官は、職権で、すべての取締役及び監査役について就任日を次のとおり記録します(通達78頁参照)。
ご相談の受付から、登記完了まで1か月程度です。
(法務局の事務遅延により、完了が遅延する場合がございます。)
業務の種類 |
司法書士の報酬・手数料 |
実費 | |
商号変更による設立登記・解散登記の申請
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165,000円(税込) 【1】 |
65,000円ほど【2】 (登録免許税、登記情報取得費、郵送費など) |
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日当(上記業務のための移動などに要した時間が1時間を超えるごとに) |
11,000円(税込) |
【1】増資・減資を同時に行うときには、別途見積を作成します。
【2】資本金の額×1.5/1000(登録免許税法施行規則12に規定する金額〔商号変更前の有限会社の資本金額〕を超える部分は7/1000)で計算した税額が3万円未満なら3万円(登録免許税法17条の3。同法別表第一⑲(一)ホ)。
有限会社を解散し、株式会社を新規設立するという手順を踏むため、商号を新しくすることは可能です。例えば有限会社佐藤を斉藤株式会社に変更することも可能です。
ありません。最低資本金規制は撤廃されているためです。
商号変更による株式会社の設立登記を申請した日です。なお、会社成立の年月日は、有限会社のものを引き継ぎます。
変わりません。有限会社のものを引き継ぎます(商業登記規則1の2Ⅱ)。
その他