とても古い抵当権の抹消(休眠担保権抹消)


登記簿に、登記された日付が明治や大正の抵当権や根抵当権がついていることがあります。

これらの古い抵当権等の登記を「休眠担保権」といいます。

 

これを抹消して綺麗な登記簿にする必要があり、この手続を休眠担保権抹消手続といいます。

令和5年6月8日、改正不動産登記法(令和5年4月1日施行)を反映して記事を更新しました。

もくじ
  1. どんな方法があるのか?!
  2. 抹消方法はどういう順番で検討すべきか?!
  3. その他の方法
  4. 事前の調査
    1. 抵当権(弁済期)の調査
    2. 抵当権者の調査
  5. 司法書士は代理で交渉してくれますか?
  6. 標準的な所要時間
  7. 司法書士の報酬・費用
  8. お客様の声
  9. 参考文献等
  10. 人気の関連ページ

どんな方法があるのか?!


休眠担保権を抹消する方法は、全部で6種類あります。

 抵当権などの抹消方法 抵当権者などが
個人 会社
共同申請による抹消登記【原則】【1】
判決による抹消登記【2】
特約がある場合に特約成就を立証したとき(不登法69)【3】
買戻特約が契約から10年経過しているとき(不登法69の2)

抵当権者が行方不明

公示催告・除権決定(不70ⅠⅢ)【4】 △【7】
債権証書&弁済証書による抹消(不70Ⅳ前段)【5】
弁済期から20年経過&全額供託で抹消(不70Ⅳ後段)【6】
存続期間経過した制限物権【8】の制限物権の権利者が行方不明 公示催告・除権決定(不70ⅡⅢ) △【7】

【1】登記簿上の抵当権者の相続人を戸籍を辿って探し出し、抹消登記への協力を依頼する方法。

【2】抵当権者から抹消登記の協力を得られない場合には、判決による抹消を目指します。

【3】抵当権に抵当権者死亡・解散によって抵当権が消滅する旨が登記されている場合に、所有者が、「抵当権者の死亡又は解散の事実を立証」できる添付書類を添付したときは、所有者が単独で抹消登記できます(不動産登記法69)。

【4】公示催告を申立(不登法70Ⅰ)、除権決定(非訟事件手続法106Ⅰ)に基づき、所有者が単独で抹消登記できます(不登法70ⅠⅡ)。

被担保債権の時効消滅を理由に除権決定を求めるには、予め時効援用通知を行なう必要があります。抵当権者が行方不明のときには、時効援用の意思表示の公示送達をする必要があり、この後、公示催告除権決定(6か月)と時間を要することになります。

【5】債権証書(借用書など)と抵当権の被担保債権が消滅したことを証明できる書類(弁済証書など)を添付して、所有者が単独で抹消登記できる(不登法70Ⅲ前段、不動産登記令別表26)

【6】被担保債権から20年経過、かつ期間経過後に、被担保債権元本、利息、遅延損害金全部を供託し、供託したことを証する書面を添付して、所有者が単独で抹消登記できる(不登法70Ⅲ後段)

【7】会社や法人が行方不明に該当する場合とは、法人が大昔に解散などしていて法務局の登記簿原本すら破棄されている場合です。

【8】この方法によって、抹消できる制限物権(所有権を制限する物権)の種類は次のとおりです。

地上権、永小作権、質権、賃借権、採石権、買戻特約

抹消方法はどういう順で検討すべき?!


どの方法を採用するべきか、検討すべき順は次のとおりです。

❶特約がある場合には、特約成就による単独抹消(不69)を検討

担保権者が行方不明といえるか検討する。

自然人の場合、行方不明とは、登記簿上の住所に居住していないこと。【1】

難しいのは・・・

会社・法人の場合、行方不明とは、不動産登記法上、どういった状態か?!

抵当権者である法人の状態 行方不明といえるか否か
法人について登記簿に記載がなく、かつ、閉鎖登記簿が廃棄済みであるため、その存在を確認出来ない。 行方不明といえる(昭和63.7.1民三3456)
実態が消滅しているが、登記簿が実在している。 行方不明ではない(昭和63年度首席登記官合同質疑)
会社の本店が不明
代表者の住所が不明
代表者が行方不明
清算人が全員死亡
清算人が行方不明
清算人の存否不明
登記不要の法人の場合、監督官庁から法人の不在証明が発行された場合 行方不明として取り扱って良い(昭和63年度首席登記官合同質疑)

【1】自然人の場合に、どこまで調査すべきかについては、司法書士に対する2つの懲戒事例が参考となります。

  • 抵当権者が死亡しており、登記簿上の住所にその相続人が居住していることは依頼者から聞いて知っていたが、戸籍を取り寄せせず、依頼者を通じて、相続人に対して受領催告書を受け取らないよう指示した(業務停止3か月。月報司法書士447号120頁)。
  • 抵当権者が死亡しており、相続人が一人存在していることを依頼者から聞いて知っていたが、戸籍を取り寄せせず、休眠担保の抹消特例で抹消した(業務停止3月。月報司法書士485号111頁)。

この二つの懲戒事例から分かることは次の2点です。

  1. 戸籍(不在住、不在籍)は基本的に取得すること(戸籍調査をしたことの証明になります。)。
  2. 戸籍が取れない場合においても、相続人の存在を知ったときには追加調査すること。

❷借用証書と弁済証書があるときは、不登法70Ⅳ前段の担保権か種類を確認する。

休眠担保抹消の対象となる担保権の種類

(不70Ⅳ前段)

対象とならない担保権の種類
  • 先取特権
  • 質権
  • 抵当権
  • (元本確定後の)根抵当権、根質権
  • 仮登記担保
  • 譲渡担保
  • 買戻特約
  • (元本確定前の)根抵当権、根質権

❸弁済期から20年経過&全額供託か❹公示催告&除権決定か❺判決による抹消かを比較検討する。

弁済期から20年経過&全額供託

(70Ⅳ後段)

公示催告・除権決定

(70ⅠⅢ)【0】

判決

(63)

×抵当権者が行方不明でないと使えない。 ×抵当権者が行方不明でないと使えない。 〇抵当権者の行方不明不要
〇抵当権者が行方不明でも、不在者財産管理人の選任を要さない。 〇抵当権者が行方不明でも、不在者財産管理人の選任を要さない。

×個人である抵当権者が行方不明のときは不在者財産管理人の選任を要する。

×法人である抵当権者もその代表者も不明のときには特別代理人の選任を要する。

×20年経過していないと使えない【1】 〇20年経過不要 〇20年経過不要
×使える担保権が限定されている【2】 〇限定なし 〇限定なし
×被担保債権の元本・利息・遅延損害金全額を供託する必要があるので、債権額が高額なら使えない(一部弁済・全額弁済の証明があっても全額供託必要なので二重払いになる。)。 〇供託不要 〇供託不要

×供託した金額に計算ミスがあって不足していれば、先の供託金を取り戻せず、かつ再度供託をし直すことになる。その分も二重払いになる。

〇供託しないので心配ない 〇供託しないので心配ない

〇抹消原因日付によっては、抵当権者の相続登記を要するのが原則だが、休眠担保権の抹消においては事の性質上相続登記を要さない(昭和63年度首席登記官合同質疑81)

△抹消原因日付によっては、抵当権者の相続登記を要する。 ×抹消原因日付により、抵当権者の相続登記を要す。

〇抵当権者死亡の蓋然性が高くても、相続人を確認する必要はない(昭和63質疑)

△申立前に裁判所と要打合わせ ×抵当権者の相続人調査のために戸籍謄本取得の費用と時間を要する。

〇抵当権者が自然人の場合、不在住証明書の取得が必要だが、それほどの負担ではない。

△申立前に裁判所と要打合わせ  

〇抵当権者が自然人の場合、登記簿上の住所(住所移転しているときはその住所にも)に対して、配達証明付き郵便を送るが、「宛名不完全」又は「宛て所に尋ね当たらず」のスタンプがあれば行方不明といえる。

それほどの負担ではない。

△申立前に裁判所と要打合わせ 〇登記簿上の住所に配達証明郵便を送付する必要はない。

〇弁済を証明する書類は必要だが、供託通知書がこれにあたるので、負担はない。

×権利が消滅していることを証明する書面(領収書、完済証明、時効援用通知など)を裁判所に提出する必要がある。  

〇相手方が反論・反証する機会は基本的にないので、確実に抹消できる。

△相手方が反論・反証する機会は少ないので、抹消できる可能性が高い。 ×相手方の思わぬ反論や反証で抹消できない可能性がある。

【0】公示催告・除権決定の手続きの流れについては、記事「手形小切手を紛失したときの公示催告・除権決定」をご参照ください。

【1】弁済期に関する登記の有無

S39.3.31以前受付の登記

登記されている。

登記されていない場合は、弁済期の定めがないものとして債権成立の日を弁済期として取り扱う(S63.7.1民三3499)

S39.4.1以降受付の登記 抵当証券発行特約がある 登記されている(不88Ⅰ⑥)
抵当証券発行特約がない 登記されないので、「被担保債権の弁済期を証する書面」の添付を要する(不登令別表㉖二⑴)

【2】対象となる担保権

休眠担保抹消の対象となる担保権の種類

(不70Ⅳ前段)

対象とならない担保権の種類
  • 先取特権
  • 質権
  • 抵当権
  • (元本確定後の)根抵当権、根質権
  • 仮登記担保
  • 譲渡担保
  • 買戻特約
  • (元本確定前の)根抵当権、根質権

その他の方法


競売残存担保権の抹消

競売で不動産を取得した場合、競売時点で残っている担保権(抵当権・根抵当権など)は消滅します。ところが、昔はこの担保権を抹消するためには、新所有者が裁判所に申請して、裁判所から登記所に登記申請(こういう登記を「裁判所嘱託登記」といいます。)をしてもらう必要がありました。

これを忘れている場合には、今の所有者から申請することで抹消することができます。

この方法による抹消登記は「藤井事務所 司法書士里美先生の電子的事件簿」

http://satomi-shippo.cocolog-nifty.com/blog/2016/08/post-5144.html/最終アクセス210612に記載されていますので、ご参照ください。

あなたの不動産に残っている大昔の抵当権、ひょっとしたら上手に消す方法があるかもしれません。

古い抵当権の抹消登記も「あなたのまちの司法書士事務所グループ」にお任せください。

事前の調査


抵当権(弁済期)に関する調査

抵当権設定が昭和39年3月31日以前であれば、閉鎖謄本を取得します。

昭和39年以前であれば、弁済期が登記されていることが多い。

 

抵当権設定が昭和39年4月1日以降であれば、登記簿記載では確認できないので、弁済期を証する書面の提出が必要になる(不動産登記法施行細則45)。

  • 金銭消費貸借契約証書、弁済猶予証書等当事者間で作成したもの
  • これらの書面が当初から存在せず、又は提出できないときは、弁済期についての債務者の申述書(債務者の印鑑証明書を添付)でも差し支えない(昭和63年7月1日法務省民三第3456号民事局長通達「不動産登記法の一部改正に伴う登記事務の取扱いについて」民事月報44巻号外456頁)。 
(旧)不動産登記法施行細則第45条
  不動産登記法第百四十二条第三項ノ規定ニ依リ登記ノ抹消ヲ申請スルトキハ登記義務者ノ行方ノ知レザルコトヲ証スル書面ヲ提出スベシ此場合ニ於テ其申請ガ同項後段ノ規定ニ依ルモノナルトキハ債権ノ弁済期ヲ証スル書面ヲモ提出スベシ 
(昭63法務令32・全改)

抵当権者に関する調査

抵当権者の登記簿上の住所【1】を記載して、住民票、戸籍謄本・戸籍附票請求【2】

 

 

住民票、戸籍謄本・戸籍附票の開示結果が・・・

○住民票又は除住民票

×戸籍謄本・戸籍附票

×住民票又は除住民票

○戸籍謄本・戸籍附票

×住民票又は除住民票

×戸籍謄本・戸籍附票

||

住民票記載の本籍地に
戸籍謄本・戸籍附票を請求

||

||

||
抵当権者が死亡している場合 抵当権者の生存している場合 ||
|| ||
相続人の戸籍・戸籍附票請求 || ||
|| || ||

抵当権者の相続人に対して

抹消登記請求などを行う。

抵当権者に対して

抹消登記請求などを行う。

抵当権者は行方不明
=休眠担保抹消の特例

が使えるかも。

【1】住居表示制度がスタートしたのは、1962(昭和37)年です。これ以前に抵当権が設定されている場合、本籍地で登記されています。もっとも住所と本籍地を一致させている方も多いので、登記簿上の記載を「住所」兼「本籍地」であると仮定して、請求します。

住民票は「本籍地の記載あり」で請求します。

【2】住民票がない場合には不在住、戸籍がない場合には不在籍を交付するよう付言が必要です。

司法書士は代理で交渉してくれますか?


訴額が140万円以下で、簡裁訴訟代理権がある司法書士であれば、示談交渉や簡易裁判所であなたの代理人となることができます。

 

訴額140万円以下であること。

訴額は、事件類型ごとに算出方法が異なります。

休眠担保抹消の場合には、抵当権がついている不動産の固定資産税評価額の2分の1です。

ただし、被担保債権の金額【1】の方が低額な場合には、その額です。 


【1】被担保債権額の金額は、登記された債権額とする。

【2】優先順位の担保権があっても、目的不動産の価額は修正しない。

【3】登記原因の有効、無効を問わずに、同一の算定方法による。

 

 

簡裁訴訟代理権の認定を受けた司法書士であること。

司法書士が簡裁訴訟代理権を有しているか、否かは、各都道府県司法書士会や日本司法書士会連合会のホームページで検索できます。

なお、当グループに在籍している司法書士は全員が簡裁訴訟代理権の認定を受けています(令和7年4月22日現在)。

 

訴額140万円を超える場合はどうすれば良いですか?

休眠担保権の抹消は、不動産登記に関する訴訟の中でも特殊です。

まずは、司法書士にご相談ください。

 

140万円を超える場合には、ご要望に応じて、下記からお選びいただけます。

  • 司法書士が裁判書類作成し、あなたご自身が法廷に行く。
  • 弁護士に任せたい(弁護士をご紹介いたします。)。

標準的な所要時間


当グループ各事務所にご相談いただいたときから、最終解決までの所要時間を記載します。

戸籍収集が必要な場合には、その時間を加算しております。

 抵当権抹消の方法 所要時間
共同申請による抹消登記 1か月~【1】
判決による抹消登記 6か月~
特約がある場合に特約成就を立証したとき(不登法69) 2か月

抵当権者

行方不明

公示催告・除権決定(不70ⅠⅡ) 6~7か月
債権証書&弁済証書による抹消(不70Ⅲ前段) 2~3か月
弁済期から20年経過&全額供託で抹消(不70Ⅲ後段) 2~3か月

【1】抵当権者の対応にもよりますので、「1か月~」としております。実際には、「あれこれ」言って抹消に応じない場合には、訴訟手続(判決による抹消登記)への移行をアドバイスさせていただくことも多いです。

司法書士の報酬・費用


事案によって大差がありますので、ご相談内容を伺ってから、個別具体的に見積書を提出いたします。

お客様の声


必要な書類のご用意をはじめ、何事にも迅速に協力してくださったご依頼者様のおかげで、早期解決が実現したと思っています。

こちらこそありがとうございました。

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下記の書籍等を参考にいたしました。

  • 正影秀明(著)『休眠担保権に関する登記手続と法律実務 供託・不動産登記法70条3項後段特例、清算人選任、公示催告・除権決定、抵当権抹消訴訟』日本加除出版/2016年

参考文献等