信託された不動産を購入できるか、売却打診時の注意点も解説

  1. 不動産を売却する際には、売主は、所有権を阻害する余計な権利がついている場合には、それを除去して、無負担の所有権を渡す義務があります。
  2. 司法書士は、所有権移転の障害となる登記簿上の権利(抵当権、賃借権、差押え、信託など)を全て除去して、無負担の所有権を渡す登記手続を担当します。
  3. 信託不動産の売却は、信託に慣れている司法書士をご利用ください。

ある不動産が欲しくなり、登記情報を取得したところ見慣れない「信託登記」が入っていた。

「この不動産は普通に購入することができるのかな?」

信託された不動産も、普通の不動産と同じように購入でき、買主は信託とは関係ない、真っさらな所有権を取得できます。そのため、所有権移転登記と信託登記の抹消登記を行います。

 

この記事では「信託された不動産」を売却または購入する場合の注意点について解説しています。

もくじ
  1. 信託とは何か
  2. 売主の特定と権限の確認
    1. 売主の確認
    2. 売主の権限の確認
  3. 売却方法の確定
  4. 登記申請手続き
    1. 信託終了(信託財産の処分)による所有権移転登記
  5. 関連法令
  6. 人気の関連ページ
  7. 参考文献等

〔凡例〕この記事では、次の法令が出てきます。法令名が長いときは、次のとおり略記します。

  • 不登法104Ⅰ:不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)第104条第1項
  • 不登令5Ⅲ:不動産登記令(平成十六年政令第三百七十九号)第5条3項
  • 信託法:信託法(平成十八年法律第百八号)

信託とは何か


次のページで、詳しくご説明しています。

売主の特定と権限の確認


売主の確認

売主は受託者であり、委託者や受益者ではありません【1】。

受託者が売買契約書に署名し、代金を受領します。

売買契約書や重要事項説明書の肩書には「売主 委託者兼受益者○○○○の受託者」と記載します。

 

【1】委託者兼受益者にまだ判断能力があるときには、信託を終了させて(信託登記を抹消して)から売却する方法もあり、この場合には、通常の不動産売買です。

 

売主の権限の確認

売買契約前に、登記情報末尾の「信託目録」だけではなく、必ず「信託契約書」をご確認ください。登記できない事項や、登記が漏れている事項があるかもしれないからです。

 

信託契約書では、次の項目を確認ください。

  1. 受託者の権限を確認してください。:受託者が単独で不動産を売却できる旨が定められていることが必要です。
  2. 信託不動産の処分には、受益者の承諾が必要となる場合があります(信託法26)。受益者は、受託者が越権行為で処分をしたときには、取り消すことができます(信託法27)。 
  3. 信託監督人がいる場合には、信託監督人も受託者の越権行為に対する取消権を有しています(信託法132→信託法92⑤→信託法27)。
  4. 受益者代理人がいる場合には、受益者代理人も同様です(信託法139)。
  5. 信託終了事由として「信託不動産を売却したとき」が入っている場合には、売却によって意図せず信託が終了すると、買主や仲介者がトラブルに巻き込まれる可能性もあります。
  6. 信託が終了した場合、誰に不動産の所有権が帰属することになるか。委託者に戻るのか、受益者に行くのか、残余財産帰属権利者に行くのかを確認します。

売却方法の確定


信託財産に属する不動産を売却する方法には、二つの方法があります。

  1. 受託者が、信託財産の処分権限を行使して、買主に売り渡す方法
  2. 信託契約を終了させて【1】、所有権を受託者から残余財産帰属権利者【2】に移したうえで、残余財産帰属権利者から買主へ売り渡す方法【3】

信託契約の内容次第で、どちらの方法を採用するか検討します。


 

【1】信託の終了事由として「受託者と受益者が合意したとき」などの定めがある必要があります。

【2】後掲・関連条文「信託法182条」を参照ください。

【3】2.の場合には、残余財産帰属権利者に判断能力が十分にある必要があります。

登記申請手続


上記「売却方法の確定」でご紹介した「1.受託者が、信託財産の処分権限を行使して、買主に売り渡す方法」の場合、登記は、次の通りです。

 

信託終了(信託財産の処分)による所有権移転登記

受託者が、信託財産の処分権限を行使して、買主に売り渡す方法です。

信託財産に属する不動産が信託財産に属さなくなった場合における「信託の抹消登記」の申請は、「所有権移転登記」の申請と同時にしなければなりません(不登法104Ⅰ)。同時にしなければならないというのは一枚の申請書に両方の申請を記載してするという意味です(不登令5Ⅲ)。

登記の目的 所有権移転及び信託登記抹消
登記の原因 令和○年月日売買【1】(、信託財産処分)【2】
権利者 買主の住所氏名
義務者(信託登記抹消申請人)【3】 受託者の住所氏名
添付書類

登記原因証明情報【4】 

登記識別情報(または登記済証)

印鑑証明書

住所証明情報

(受益者の承諾書【5】)

代理権限証明情報

課税価格 金○円 
登録免許税

合計 金○円

 所有権移転登記部分 ○円【6】

 信託登記抹消部分  ○円【7】

不動産の表示

<略>

【1】所有権移転登記は、受託者(登記義務者)と買主(登記権利者)が共同で申請します。原因は「売買」で、日付は所有権移転の日(=売買契約成立+売買代金支払の完了日)です 。  

【2】信託登記抹消の原因を別途記載する必要がない説と、記載すべき説がある?

  • この所有権の移転原因が信託の登記の抹消原因となる(『書式精義』578頁(注三))
  • 「信託財産に属する不動産に関する権利が売却された場合は、『平成何年何月何日売買』と表示します。これが、信託の登記の抹消の登記原因でもあります(『Q&A 権利に関する登記の実務 XIV 第7編 信託に関する登記/判決による登記/代位による登記』112頁)。
  • 信託登記の抹消原因は「信託財産の処分」で、日付は不要です(『〔3訂版〕わかりやすい信託登記の手続』238頁)。

【3】信託登記抹消は、受託者の単独申請です。

【4】登記原因証明情報は、所有権移転登記と信託登記抹消の2つを用意します。

【5】信託契約書の条項に、信託不動産の処分には、受益者等の承諾を要する旨の規定がある場合には、その者の承諾書(印鑑証明書付き)を提出します(『登記研究』508号質疑応答を参照)。

【6】通常の所有権移転と同じ税率です。

【7】信託登記抹消の登録免許税は、不動産1個につき1,000円 (同一の申請書により20個を超える不動産について登記の抹消を受ける場合には、申請件数1件につき2万円)です。(登録免許税法別表第一・一不動産の登記(不動産の信託の登記を含む。)(十五)登記の抹消(土地又は建物の表題部の登記の抹消を除く。))

関連法令


信託法第26条(受託者の権限の範囲
  受託者は、信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をする権限を有する。ただし、信託行為によりその権限に制限を加えることを妨げない。
信託法第27条(受託者の権限違反行為の取消し)
 
  1.  受託者が信託財産のためにした行為がその権限に属しない場合において、次のいずれにも該当するときは、受益者は、当該行為を取り消すことができる。
    一 当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が信託財産のためにされたものであることを知っていたこと。
    二 当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が受託者の権限に属しないことを知っていたこと又は知らなかったことにつき重大な過失があったこと。
  2. 前項の規定にかかわらず、受託者が信託財産に属する財産(第十四条の信託の登記又は登録をすることができるものに限る。)について権利を設定し又は移転した行為がその権限に属しない場合には、次のいずれにも該当するときに限り、受益者は、当該行為を取り消すことができる。
    一 当該行為の当時、当該信託財産に属する財産について第14条の信託の登記又は登録がされていたこと。
    二 当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が受託者の権限に属しないことを知っていたこと又は知らなかったことにつき重大な過失があったこと。
  3. 2人以上の受益者のうちの1人が前二項の規定による取消権を行使したときは、その取消しは、他の受益者のためにも、その効力を生ずる。
  4. 第1項又は第2項の規定による取消権は、受益者(信託管理人が現に存する場合にあっては、信託管理人)が取消しの原因があることを知った時から三箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から一年を経過したときも、同様とする。
信託法第132条(信託監督人の権限)
 
  1. 信託監督人は、受益者のために自己の名をもって第92条各号(第17号、第18号、第21号及び第23号を除く。)に掲げる権利に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
  2. (略)
信託法第163条(信託の終了事由)
 

信託は、次条の規定によるほか、次に掲げる場合に終了する。

一 信託の目的を達成したとき、又は信託の目的を達成することができなくなったとき。

二 受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が一年間継続したとき。

三 受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が一年間継続したとき。

四 受託者が第五十二条(第五十三条第二項及び第五十四条第四項において準用する場合を含む。)の規定により信託を終了させたとき。

五 信託の併合がされたとき。

六 第百六十五条又は第百六十六条の規定により信託の終了を命ずる裁判があったとき。

七 信託財産についての破産手続開始の決定があったとき。

八 委託者が破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定を受けた場合において、破産法第五十三条第一項、民事再生法第四十九条第一項又は会社更生法第六十一条第一項(金融機関等の更生手続の特例等に関する法律第四十一条第一項及び第二百六条第一項において準用する場合を含む。)の規定による信託契約の解除がされたとき。

九 信託行為において定めた事由が生じたとき。

信託法第175条(清算の開始原因)
 

信託は、当該信託が終了した場合(第163条第五号に掲げる事由によって終了した場合及び信託財産についての破産手続開始の決定により終了した場合であって当該破産手続が終了していない場合を除く。)には、この節の定めるところにより、清算をしなければならない。

信託法第182条(残余財産の帰属)
 
  1. 残余財産は、次に掲げる者に帰属する。
    一 信託行為において残余財産の給付を内容とする受益債権に係る受益者(次項において「残余財産受益者」という。)となるべき者として指定された者
    二 信託行為において残余財産の帰属すべき者(以下この節において「帰属権利者」という。)となるべき者として指定された者
  2. 信託行為に残余財産受益者若しくは帰属権利者(以下この項において「残余財産受益者等」と総称する。)の指定に関する定めがない場合又は信託行為の定めにより残余財産受益者等として指定を受けた者のすべてがその権利を放棄した場合には、信託行為に委託者又はその相続人その他の一般承継人を帰属権利者として指定する旨の定めがあったものとみなす。
  3. 前二項の規定により残余財産の帰属が定まらないときは、残余財産は、清算受託者に帰属する。

参考文献


  • 香川保一(編著)『新訂 不動産登記書式精義下巻(一)』テイハン/2002年
  • 小池信行・藤谷定勝/監修 不動産登記実務研究会/編著『Q&A 権利に関する登記の実務 XIV 第7編 信託に関する登記/判決による登記/代位による登記』日本加除出版/2015年
  • 道垣内 弘人 (著)『信託法 現代民法別巻』有斐閣/2017年
  • 税理士石垣雄一郎(著)『問題解決のための民事信託活用法 -不動産有効活用、相続対策、後継者育成・事業承継対策、空き家対策等の視点から-』新日本法規出版/2019年
  • 伊庭潔(編著)『信託法からみた民事信託の手引き』日本加除出版/2021年
  • 渋谷陽一郎(著)『信託登記のための信託目録の理論と実務〔第2版〕』民事法研究会/2023年
  • 渋谷 陽一郎 (著)『Q&A 家族信託大全』日本法令/2023年
  • 日本法令不動産登記研究会(著)『〔3訂版〕わかりやすい信託登記の手続』日本法令/2024年