私たち司法書士は、多くの相続手続きのお手伝いをします。最近、遺言書のある相続手続きも増えてきました。遺言書は、紛争を予防することもできますので、皆様にも是非、ご準備いただきたいと思います。
一方で、ご自身で作成された遺言書の場合には、どういう意味なのか解釈に疑問が生じるときもございます。その一つが、「遺言の撤回」です。
この記事では、遺言の撤回について、解説しています。
| もくじ | |
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新たな遺言書を作成し、前の遺言を撤回する旨を記載します(民1022)。
撤回のための遺言は、前の遺言と同じ方式である必要はなく、例えば、公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回したり、自筆証書遺言を公正証書遺言で撤回することも可能です。
遺言者が、故意に自筆証書遺言を破棄したときは、撤回したものとみなされます(民1024)。
破棄には、①焼却や裁断などの物理的に破壊する方法、②判読不能になるほど墨塗りする方法があります。
単に線で消す方法は、オススメしません。遺言の変更には、厳格な要式が定められています(民968Ⅲ)ので、単に線を引いただけでは、変更(撤回)したのか否か、争いになる可能性があるためです。
遺言書全体に赤色のボールペンで斜線を引いても、民法968条3項の条文どおりに解釈すれば、撤回したことにはならなそうです。ところが、判例では、遺言書全部の撤回とみなしたものがあります(最判平27・11・20民集69巻7号2021頁)。
| 民法第968条(自筆証書遺言) | |
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| 最判平27・11・20民集69巻7号2021頁。 | |
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民法は、自筆証書である遺言書に改変等を加える行為について、それが遺言書中の加除その他の変更に当たる場合には、968条2項所定の厳格な方式を遵守したときに限って変更としての効力を認める一方で、それが遺言書の破棄に当たる場合には、遺言者がそれを故意に行ったときにその破棄した部分について遺言を撤回したものとみなすこととしている(1024条前段)。そして、前者は、遺言の効力を維持することを前提に遺言書の一部を変更する場合を想定した規定であるから、遺言書の一部を抹消した後にもなお元の文字が判読できる状態であれば、民法968条2項所定の方式を具備していない限り、抹消としての効力を否定するという判断もあり得よう。ところが、本件のように赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引く行為は、その行為の有する一般的な意味に照らして、その遺言書の全体を不要のものとし、そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当であるから、その行為の効力について、一部の抹消の場合と同様に判断することはできない。 以上によれば、本件遺言書に故意に本件斜線を引く行為は、民法1024条前段所定の「故意に遺言書を破棄したとき」に該当するというべき |
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【注】遺言者以外の方が、遺言書を破棄してはいけません。破棄した相続人は、相続人ではなくなってしまう(相続欠格)からです(民891⑤)。
【注】公正証書遺言の場合には、原本が公証役場に保管されていますので、手元の正本や謄本を破棄しても撤回の効力は生じません。
民法は、遺言が撤回されたとみなされる場合を3種類定めています。
| 遺言の撤回 |
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なお、法令中に「みなす」と規定されている場合には、「推定する」と異なり、反証しても、みなされた事実は覆りません。
| 民法第1022条(遺言の撤回) | |
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遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。 |
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| 民法第1023条(前の遺言と後の遺言との抵触等) | |
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| 民法第1024条(遺言書又は遺贈の目的物の破棄) | |
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遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。 |
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一度撤回された遺言の効力は「原則として」復活しません。
ややこしくなるからでしょうね。
| 遺言の復活 | 原則 | 復活しない |
| 例外 | 遺言撤回する行為が、錯誤・詐欺・強迫によってなされた場合は復活する。 |
| 民法第1025条(撤回された遺言の効力) | |
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前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。 |
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第1遺言の後に第2遺言として作成された死亡危急時遺言は、遺言者が普通の方式で遺言をすることができるようになった時から6か月間生存した場合には、その効力を失います(民法983条)。
この場合、第2遺言が前の遺言(第1遺言)と抵触する内容であったとしても、第2遺言の失効によって第1遺言の効力が回復(復活)することはありません(民1025本文)。
裁判例においても、死亡危急時遺言によって前の遺言を撤回する効力は既に生じているため、その後の6か月生存により当該遺言が失効しても前の遺言の効力は復活しないと判示されています。
| 民法第983条(特別の方式による遺言の効力) | |
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第976条から前条までの規定によりした遺言は、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から6か月間生存するときは、その効力を生じない。 |
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| 東京高判平成18年6月29日判タ1238号264頁 | |
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本件死亡危急時遺言は、前の遺言を取り消すことを内容とするものであり、前の遺言と抵触する行為をしたことが明らかになったことにより撤回の効力が生ずるものであるから、死亡危急時遺言が真意によるものとして効力を生じた以上は、前の遺言を撤回する効力は既に生じており、たとえ遺言者が普通の方式による遺言をすることができるようになった時から6か月生存したとしても、死亡危急時遺言が効力を失うのみで前の遺言の効力が復活するものでないことは、民法1025条の規定から明らかである。 |
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| 最判平成9年11月13日判時1621号92頁 | |
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遺言(以下「原遺言」という。)を遺言の方式に従って撤回した遺言者が、更に右撤回遺言を遺言の方式に従って撤回した場合において、遺言書の記載に照らし、遺言者の意思が原遺言の復活を希望するものであることが明らかなときは、民法一〇二五条ただし書の法意にかんがみ、遺言者の真意を尊重して原遺言の効力の復活を認めるのが相当と解される。これを本件について見ると、前記一の事実関係によれば、亡Aは、乙遺言をもって甲遺言を撤回し、更に丙遺言をもって乙遺言を撤回したものであり、丙遺言書の記載によれば、亡Aが原遺言である甲遺言を復活させることを希望していたことがあきらかであるから、本件においては、甲遺言をもって有効な遺言と認めるのが相当である。 |
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「遺言者は、遺言中にこれが最終の遺言でこれを撤回することはないと表示しても、あるいは受遺者その他の者と撤回しない旨を約しても、このような意思表示は無効であり、遺言者を拘束するものではないから、遺言者は自由にその遺言を撤回することができる。」とされます(後掲・中川428頁)。
| 民法第1026条(遺言の撤回権の放棄の禁止) | |
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遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。 |
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どうしても撤回したくない(撤回されたくない)という場合には、負担付死因贈与契約等の検討をすべきです。記事『負担付死因贈与契約』も参照ください。
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